わたしの雑記帳

2006/2/18 学校の隠蔽体質が、子どもたちを殺す! 福島県須賀川市立第一中学校柔道部事件



2003年7月1日に、長崎県長崎市の繁華街で、種元駿ちゃん(4)が少年(中1・12)に性的虐待を加えられたうえビルから突き落とされ、殺害された。事件のあと、それ以前に周辺で起きていた不審者情報がきちんと公開されていたら、周知徹底されていたら、駿ちゃんは死なずにすんだのではないかという反省が地域社会にもたらされた。いつでも、誰でも、特に子を持つ親には、子どもの安全にかかわる情報は提示されなければならない。
しかし、何十年もそうした子どもたちの被害の教訓が全く生かされることなく、続いている場所がある。それが、親たちが信頼して子どもを預けている「学校」という場だ。
学校の隠蔽体質が子どもたちを殺す。そして、教師であれ、生徒であれ、取り返しのつかないところまで行為をエスカレートさせてしまう。

ある裁判の傍聴で、他の傍聴者から、2003年10月18日に福島の中学校柔道部で起きた事件の情報をいただいた。情報をくださったのは、この事件の当事者ではないが、やはり学校の事件で大切なお子さんの命を亡くされた方だった。
犠牲になったのは中学校1年生の女の子。一命はとりとめたものの、事件から2年以上たった今も意識不明で、母親が仕事を辞めて、24時間つきっきりで介護をしているという。

ちょっと話を聞いただけのときには、私も練習中に頭を強く打った、打ち所が悪かった、不幸な事故だったのだろうと思った。しかし、3ヶ月後に両親の調査でようやく、事実が明らかにされる。柔道部の部長である男子部員(中2)による、自分より弱いものをターゲットにしたいじめ、リンチだった。

学校側は、「けがをするような練習はしていない」と繰り返した。事件の約1ヶ月前にも女子生徒が部活動の練習中に頭を強打し、急性硬膜下血腫で約2週間入院したことをとりあげ、「頭に病気をもっていたらしい」と、生徒にも保護者にも流布した。
学校が市教委に提出した「事故報告書」には、被害者の母親から事情を聞いたことがないにもかかわらず、保護者が話したという嘘の報告がなされていた。

被害者の両親が動かなかったら、真実は闇に葬り去られていただろう。学校が何も教えてくれないこと、事件を公表しないこと、嘘をついていることに不信感を抱いて、弁護士を通じて調査をした両親でさえ、驚きの結果が隠されていた。

事故報告書には、まるで練習も何もしていないに休んでいていきなり、女子部員が「頭が痛い」と言って泣き出して倒れたかのように書いてあったが、実際には相手がいた。
身長180センチ、体重120キロの巨漢で、小学校の頃から柔道をはじめ、全国大会にも出場する猛者の2年生の男子部長。
片や犠牲になった女子部員は、身長こそ175センチあったというが、中学校に入ってから柔道を始めた。まして、9月に同じように頭を強打して、急性硬膜下血腫で入院したあと、リハビリ的に少しずつ練習を再開した矢先の出来事だった。男子と女子とでも、中学生にもなれば、力の差は歴然としている。体の成長発達を考えても、中学生が男女で組むこと自体、素人の私には驚きだ。

「上級生の男子部員が、嫌がる下級生の女子部員の襟をつかみ、引きずり出した。『いやです。いやです』と言ったが、数回投げつけた。その後、柱に数回怒鳴りながら叩き付けた。その際、柱に頭部を打ち付けた。その後、体を持ち上げるようにして数回頭から叩き付けた。
部活動の時間内に起きた出来事。しかし、この状況を柔道の練習と言えるだろうか。顧問教師は誰も立ち会っていなかった。

しかも、驚くべきことは、これが初めてではなかった。男子部員は、3年生が引退して、自分が部長になったあと、“集中攻撃”と称して、同様のことをやっていた。ときには道場に鍵をかけてやっていたこともある。初めのころは、練習前とか休憩時間とか練習以外の顧問がいない時に行っていたが、次第に練習中にも行うようになった。標的は1年生で弱い者に集中していたという。
女子部員が10月に重傷を負う前にも、9月にも同じように頭を打って入院している。しかし、それより前の6月に柔道部で2年生部員が頭を強打し、入院。記憶障害を起こして3ヶ月通院していた。

いただいた資料には、1回目と2回目が、どういう状況のなかで起きたのか、同じように部長による暴行が原因なのかは書いていない。しかし、少なくとも、この時点で学校は、きちんと調査して原因を突き止め、再発防止に努める義務があった。それをしないで3回目に、ついに女子部員を生命の危機にさらしながら、なおも嘘をつき通した。このままいけば、さらに第3、第4の犠牲者が出ることになるとは思わなかったのだろうか。すでに、これほど。子どもたちの命を危険にさらしながら。
さらに、多くの判例で、部活動に顧問教師が立ち会わなかったことだけで、安全配慮義務違反とされている。まして、それまでの練習中に何人もの、重傷者を出しながら、立ち会っていない。このことにも驚かされる。

ここまで読んだひとは、なぜ、被害者の男子部員は何も言わなかったのか、女子部員は1回目の大けがの時に何も言わず、柔道部を辞めることもしなかったのかと思うかもしれない。
あくまで、これは私の想像でしかないが、部活動に名を借りたリンチを子どもたちは拒むことができない。子どもたちは部活動に夢を、命をかけている。そして、どこからどこまでが、正当な部活の練習の範囲内で、どこからが理不尽なことなのかが判断できない

それは子どもたちのせいではなく、日本のスポーツ界が持つ体質のようなものだと思っている。監督や上級生の言うことは絶対で、疑問をはさんだり、拒否してはいけない。すべては精神面、肉体面で意味のあることであり、その理由を当事者が知る必要はない。ただひたすら、信じて従っていれば実力がつく。それに耐えられない選手は、どんなに技術面が優れていたとしても大成しない。スポーツ界からも排除されていく。そう徹底して、どこのスポーツクラブでも、部活動でも、教えられてきた。そのなかで耐えてやってきたひとたちが、次の指導者となり、同じことを繰り返してきた。

こういう事件があるたびに、子どもたちが口にするのは、「自分も先輩に、顧問に、同じようにやられてきた」「今度は自分が指導的立場となって、伝統を守り、実行するのが当然だと思ってきた」と言う。根本を解決せず、当事者たちだけを切り捨てても、この体質が変わらない限り、同様の事件は再び起きる。

女子生徒がなぜ部活動をやめられなかったか。
ひとつには、自分で好きで選んだ部活動だったということ。誰のせいでもない。自分が選んだのだから、自分が適応できるように努力するべきだと、真面目でがんばる子どもほど思い込んでしまう。
部活動という和を自分ひとりの言動で乱したくない。まして、親に言って、親が騒いで、試合への出場停止にでもなったら、他のがんばっている部員に申し訳ない。自分自身も親にちくったとして、教師からも生徒からも白い目で見られてしまうかもしれない。また、何より、柔道部の猛者である部長の報復が恐かったのかもしれない。目の前で、日常的に他の部員がリンチまがいの練習を課せられているのを見ているのだから、男女関係なく自分より弱いものを標的にしていたのだから、恐怖感は私たちが考える以上に強いだろう。

両親は、部員たちへの聞き取り調査を、学校ではなく、公民館で、弁護士を介して行った。
しかも、集められたのは1年生部員のみ。このやり方は正解だったと思う。
よく、学校側が行う調査は、上級生部員がいる前で、口頭で行う。作文に書かせるにしても記名式で、すぐに誰が何を言ったのかわかってしまう。教師は、自分たちの安全を守ってはくれない。へたなことを言えばどんな目にあわされるかわからないなかで、本当のことは言えない。
場所を変えたことでも、学校という心理的な圧迫から逃れることができる。
弁護士というのは、人権を守ってくれる存在で、自分たちが危険にさらされたり不利になるような扱いはしないだろうという信頼感がある。

それまでの学校側のやり方をみれば、子どもたちは当然、学校、教師を信頼できない。部活顧問にしても、当該生徒を部員たちには何の相談もなく、部長に任命したことからして、信頼できないだろう。教師立会いのもとでは真実は出てこなかったかもしれない。
実際に、教頭の聞き取り調査で、いじめの事実を話した2年生部員は逆に「そんなことを口にするものではない」と恫喝されている。
今回の聞き取り調査には、学校にこびることなく、聞きとりに同意した子どもたちの親が欠かせない。結果的に、自分たちの子どもを守ることにつながったと私は思う。

事件からすでに2年から経過している。加害生徒はどうなったのか。おそらく、母親の言動から見ても、自分のしたことを反省したり、謝罪に出向いたりということもないだろう。
13歳ということで、少年法にさえひっかからない。しかし、これがもし、部活動内でなかったら、学校の外であったら、男子生徒は、少女に一方的に暴行を働いた殺人未遂で補導されているだろう。自立支援施設に送られていたのではないか。マスコミも、地方版ではなく、全国紙版で大きく報道したのではないか。

学校が事件を隠蔽したことで、出なくてすむはずの犠牲が出た。女子生徒に、家族に、二度と取り返しのきかないほどの傷を負わせた。生徒たちの心にも大きな傷を残した。そして、加害者やその保護者の反省の機会、謝罪の機会を奪ってしまった。
自分たちの面子を守ろうとした行為の代償はあまりに大きい。犠牲になったのは、子どもたちだ。

この態度は、事件後の説明責任だけでなく、直後の救急対応の場でも言えている。すぐに通報されなかった119番。救急車が到着したときに、状況を説明するべき教師がひとりも場に居合わせなかったこと。この間、顧問や他の教師たちは何をしていたのだろう。目の前の生徒の命よりも、何を優先していたのだろう。学校管理者に連絡をとったり、教育委員会に連絡して、指示を仰いでいたのかもしれない。

被害者の少女は2年間意識不明でありながらも、かろうじて生命を保っている。しかし、学校内の殺人事件に匹敵する事件であると思う。




HOME 検 索 BACK わたしの雑記帳・新