子どもに関する事件【事例】



注 :
被害者の氏名は、一人ひとりの墓碑銘を私たちの心に深く刻むために、書籍等に掲載された氏名をそのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。
また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。
S.TAKEDA
031018 暴行傷害 2006.2.18 2009.4.4新規
2003/10/18 福島県須賀川市の須賀川(すかがわ)市立第一中学校の女子生徒(中1)が、柔道部の練習中倒れ、意識不明の状態が続く。当初、練習中の事故と思われていた。3ヵ月後、両親から依頼を受けた弁護士による生徒への聞き取り調査から、男子部長(中2・13)によるリンチまがいの練習を強要されて重傷を負ったことが判明。
経 緯 2003/4/1 須賀川市立第一中学校にA子さんが入学。柔道部に入部。

9/12 部活動の練習中に頭を強打し、急性硬膜下血腫で約2週間入院した。

10/13 A子さんが医師からの許可をもらって練習を再開。軽めの練習をしていた。

10/18 土曜日の休日、部活動の柔道で休憩を挟みながら約3時間の練習。顧問や副顧問は立ち会っていなかった。

柔道部の副顧問の男性講師から「A子さんが倒れた」という電話をもらって、母親がかけつけたところ、A子さんは道場で、瞳孔が開き、口からよだれを流し、呼吸もままならず、意識不明状態だった。

救急車で病院に搬送される。A子さんは急性硬膜下血腫で、8時間に及ぶ緊急手術。
その後、腫れて熱を持った脳を冷やす低温療法が施された。

10/31 手術から1週間後、平熱に戻り一般病棟に移ったが、口には人工呼吸器が装着されたままだった。

12/22 手術から2ヶ月後、浅い自発呼吸が確認され、人工呼吸器から酸素補助器に変わる。

意識が戻らない状態が続く。

学校・教師の対応 柔道部の副顧問から連絡をもらって、母親がかけつけた時点で、学校側は119番通報をしていなかった。母親が到着して後に通報。
A子さんが倒れてから10数分後に救急隊員が到着したとき、教師は誰も立ち会っていなかった

娘の死を覚悟した両親が、「一目でいいから友達に会わせてやりたい。代表者でもいいので、病院に連れてきてもらえませんか」と頼んだが、学校側は生徒を呼ぶことをしなかった。

事件直後に、担任教師はクラスで生徒に、「A子さんが部活動中にけがをした。入院し、当分学校を休むが心配ないので、他のクラスや保護者に言わないように」と話していた。

10/24 柔道部保護者会を開催。約20人が参加。学校から連絡がなく、A子さんの家族は出席しなかった。
会で校長は、「部活動は学校教育の一環ではない。にもかかわらず、事故当日は土曜日で学校が休みなのに、4人の先生がわざわざ出勤していた。A子さんは柔道を始める前から頭に病気を持っていたらしく、それが練習中に発症したようだ。けがをするような練習はしていなかった」と説明。1時間半で終了した。
校長の説明に辻褄があわない部分があり、不信感を抱いた保護者から、A子さん宅に連絡が入った。

11/7 顧問の男性教師がA子さん宅を訪問して、「部員たちが応援したいと言っている。見舞いに連れてきても差し支えないか」と打診。
両親は「ぜひ連れてきてください」とお願いしたが、顧問は部員たちを連れてこなかった。
また、男性教師が見舞いに来ることもなかった。

12/29 2回目の柔道部保護者会を開催。A子さんの父親も出席。事故当日からの出来事や学校の対応を報告。

生徒たちの間でさまざまな噂が飛び交い、学校側は「事故のことは口外するな」と口止め。

A子さんの両親が、学校側に事故を公表するよう求め、事故原因の調査と同様の事故を防ぐための改善策の提示を求めたが、校長は「けがをしたり、事故が起きるような練習はしていなかった」と繰り返すだけで明確に返答をしなかった。

2004/1/20 A子さんの両親から話を聞いたマスコミが市教委に取材を申し込んでから、はじめて、学校側から「謝罪したい」と連絡が入る。

1/28 新聞で事件が報道された当日に、臨時PTA総会を開催
校長は、3ヶ月もの間、総会を開くことなく事件を隠し、今頃開催したことについて問い詰められると、「A子さんの容態が安定しなかったので」「私としては、まず柔道部の保護者に知らせようと。総会開催が今日になったのは、私のなかに『ああしなければ、こうしなければ』という葛藤がありまして・・・。決してマスコミが動いたから、というわけではありません」と弁明。
保護者からの質問で、事件から3ヶ月の間に開かれた職員会議は、打ち合わせという形で1回、教職員に報告しだだけで、議事録もないことが判明。

3/9 新聞記者が校長に「イジメがあったのではないか」と取材。校長は、「先輩が後輩に気合を入れた。運動部にはよくあることだ」「それが事故原因との証拠でもあるのか」と回答。

3/11 突然、3回目の柔道部保護者会を開催
校長は、「今回の事故で、『イジメはなかったか』という話が浮上した。私は事故発生時、顧問や担任にイジメの有無を確認したが『ない』との答えだった。その後、Aさんが1年生部員から聞き取り調査をしたと聞き、ギョッとした。学校でも早速、聞き取り調査をしたが、部員によって話が異なり、(イジメの有無は)確定できなかった」と話した。

その後も、学校から正式な謝罪はない。
教育委員会ほかの対応 市教委にマスコミが取材に来たことで、市教委からA子さんの両親に「校長には、生徒と保護者に事故の詳細をきちんと報告するよう指示する。学校との話し合いの場も設ける。だから、マスコミへのリークはやめてもらえないか」と連絡が入る。
親の対応と調査ほか 2004/1/14 両親が法律事務所の無料相談に足を運び、事故報告書の入手などのアドバイスを受ける。

事故原因を明らかにするため、弁護士と正式契約をする。

事故が一向に公表されないため、地元ミニコミ紙の記者に連絡し、取材を受ける。
これが口火となり、他紙にも事件のことが報道される。

2/7、2/28 両親が弁護士を通して、1年生部員から2回の聞き取り調査を行う。
その結果、A子さんが、部長の男子生徒(中2・13)から、リンチまがいの練習を強要されて、傷害を負ったことが判明。

母親は勤めを辞めて、A子さんの24時間介護に当たる。

損害賠償を請求しての民事裁判を検討。
事故報告書 両親が須賀側市役所総務課で、事故報告書の公開請求手続きをとり、2日後、教育委員会で、「事故報告書」が公開された。

学校は母親に聞き取り調査をしたことはなく、柔道部の保護者にもそのような話をしたことがなかったにもかかわらず、母親が話したとされる内容が記載されていた。
「今回事故があったことで、1年生の保護者の皆さん柔道部をやめることのないようにお願いします(電話でAさんと話しをした部員の母親の話)。今回の事故について(A子)の母親は、柔道部、柔道部員の責任でもないし、学校の責任でもない。こんなに激しく頭をぶつけたことはない。柔道部員の保護者や先生方に心配をかけて申し訳ありませんということ。また道場(特活室)で倒れたことは、何かあるかもしれないので、良い環境の中で(タタミ)やらせたい。ということ」などが書かれていた。

当日の様子については、
「6人目の生徒と乱取り後(A子さんは)泣き始めたため、7人目の生徒が乱取りを申し込んだが、足が痛いため乱取りをしていない。本人は3分間の休憩に入り、窓際で座って休んでいた。他の生徒は7本目の乱取りをした。乱取りを終わった6人目の生徒が、泣いている理由を本人に聞くと『足全部が痛い』と返答した(生徒からの意見聴取より)。

練習に参加せず、乱取り開始から5〜6分後、窓際の壁のところでしゃがみ込む(生徒からの意見聴取より)。前屈みになり顔を覆い、大きな声で泣き出した。前屈みのまま前のめりに倒れていく。6人目に乱取りしていた生徒が声をかけたが、応答がなかった。よだれを出していた。仰向けに部長がすると、苦しそうになり声をあげる」と書かれていた。
両親の
生徒からの聞き取り報告書
A子さんの両親が、1年生部員と保護者の協力を得て、中央公民館で弁護士が聞き取り調査を行った。「一中柔道部1年生部員聞き取り報告書」A4版2枚つづりにまとめる。

「(3年生が引退してから)2年生のSが部長となる。顧問が選任したが、他の生徒たちは知らされていなかった。部長が“集中攻撃”と称するものを始めた。最初は遊び感覚で、2年生同士でやっていたが、だんだんエスカレートした。道場に鍵をかけてやっていたこともある。標的にされた生徒は、鼻と口から血を出していた。標的を決めるのは部長である。初めのころは、練習前とか休憩時間とか練習以外の顧問がいない時に行っていたが、次第に練習中にも行うようになった。標的は1年生で弱い者に集中していた

「(事故当日)1回目の乱取りを始める。部長は1年生に負け、足を痛めてカッカしていた。A子は足の痛みがひどくなり、途中で休憩を取る。それを見て部長は激怒した。A子の襟をつかみ、引きずり出した。『いやです。いやです』と言ったが、数回投げつけた。その後、柱に数回怒鳴りながら叩き付けた。その際、柱に頭部を打ち付けた。その後、体を持ち上げるようにして数回頭から叩き付けた。他の部員はその様子をイジメを超えたリンチだと思ったほどだ。恐ろしくて止めに入れなかったし、自分が何をされるか分からず、怖かった。その後は、部長はイスに座り、A子を正座させ、説教した。『反省文を原稿用紙800字で書いてこい』と言う。そのうちA子は『頭が痛い』と泣き、うつ伏せになった。部長は『大袈裟に泣くなら救急車を呼ぶぞ』と怒鳴り、泣いているA子の襟をつかみ、廊下に向かって引きずり出した。その途中で容体が急変し、意識がなくなり、口からよだれが出て呼吸困難に陥った」
学校の
生徒からの聞き取り調査
教頭も、A子さんの両親とほぼ同時期に部員から聞き取り調査を行った。
2年生部員が「Sによるイジメがあった」と証言。教頭はその証言を公にせず、「そんなこと言うもんじゃない」と恫喝。
帰宅した2年生部員が親に相談し、親が学校に抗議して発覚。教頭が謝罪した。
被害者 女子。身長175センチ。
中学から柔道をはじめた。
加害者 部長の男子。身長180センチ。体重120キロ。小学生から柔道を始めた。
中学2年生で、東北大会、全国大会に出場している実力者
加害者の親の対応 12/29 A子さんの母親が、2回目の柔道部保護者会で「A子を見舞ってほしい」と依頼したところ、Sの母親は「私は何回もA子さんに会っている。看護士からも詳しい話を聞いている。あんな状態のところに子どもを連れて行ったら、ショックを受けて心のケアが大変だ」」と発言。Sの母親が病院に勤務していることから、校長も「専門家が言うのだから、見舞いに行くのは控えたほうがいい」と発言して、とりやめになった。

Sの母親は一度もA子さんの見舞いに来たこともなければ、自分の息子が事件を起こしたことをAさんに打ちあけることも、謝罪もなかった。

3/11 Sの母親は、2回目の柔道部保護者会でSによる暴行の事実が指摘されると、「私はA子さんのことが心配で、仕事の合間をぬっては病室を訪れている。息子はやっていない。無実だ。息子はひどく傷つき、柔道着に袖を通すことはないと思う」と泣きながら訴えた。
A子さんの母親が、一度もSの母親が見舞いに来たことがないことを指摘すると、「すみませんでしたね」とケロリとして言ったという。

学校側が作成した事故報告書に登場する、A子さんの母親から話を聞いたという保護者はSの母親であることがのちに、学校側の回答で判明。
背 景 同校は県内屈指の柔道強豪校で、全国大会の常連。
他の被害者 2003/6/ 柔道部で2年生部員が頭を強打し、入院。記憶障害を起こして3ヶ月通院していた。
刑事告訴 両親が、顧問を刑事告訴。Sについては、当時14歳に満たないことから断念する。

2004/7/ 両親が顧問と副顧問を刑事告訴。
2005/9/ 顧問2人を業務上過失傷害で書類送検。
2008/8/ 福島地検は、女子生徒がひと月前の練習でもけがをしていたことから、因果関係を「断定できない」として、顧問2人を嫌疑不十分で不起訴。両親が不起訴不服申し立て。
2008/10/ 福島検察審査会が「不起訴相当」と判断。
民事裁判 2006/8/ 女子生徒と両親が市や県、男子生徒らを提訴。
判 決 2009/3/27 福島地裁郡山支部で、見米正裁判長は学校側の責任を認め、市や県などに約1億5600万円の支払い命令。
このうち、約300万円は元部長を含む3者に連帯して支払うよう命令。

元部長の男子生徒は女子生徒が重大な障がいを負う結果は予測できなかったとしたが、事故のきっかけは元部長の練習の範囲を逸脱して少女を投げた暴行にあると認定。
顧問2人について「日ごろから部員の個々の技量に応じた安全対策を講じていなかった」とし、特に顧問は1カ月前の傷害を認識しながら「具体的な対策をほとんど取らなかった」と判断。また、「校長らが責任逃れをしようとした疑いが強い」と認定。
参考資料 「政経東北」2006年2月号、2005/12/20讀賣新聞・福島版、須賀川市のサイトhttp://gyousei1.city.sukagawa.fukushima.jp/cb/hpc/Article-1266.html
 2009/3/28毎日新聞・福島版、2009/3/28河北新報





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