佐々木さんが、「ドラムサークル」を実体験したのは、2003年1月。自身が翻訳した『ドラミング~リズムで癒す心とからだ』(R・フリードマン著音楽之友社刊)にたびたび出てくる「ドラムサークル」とはいったいどんなもの?と、はるばるサンフランシスコ郊外を訪れ、〝ドラムサークルの父〟アーサー・ハルの研修に参加した。
「単なる好奇心で行ったのですが、激しく心を揺さぶられました。知的障がいがあるという9歳の少女が、ベテランファシリテーター(リーダー)として活躍していたり、バリアフリーとは程遠い施設なのに、車いすの人がごく当たり前に参加していたり…。研修を終えて街に戻った時、世界に満ちる不安と混乱を体感して、ドラムサークルの場が、いかに肯定と受容に満ちた、安心できる場だったのかと、改めて感じました」
混乱する心を抱えて帰国し、その興奮を熱く語る佐々木さんに、友人は「あなたがやれば?」と。「まさか。翻訳の参考に自分の目で見ておこうと思っただけ」と答えた佐々木さんは、その2カ月後には初のドラムサークルを開催した。
「世界の太鼓の精霊たちに、使い走りとして動かされたとしか思えない」と、佐々木さんは笑う。
以来、たびたびアメリカでの研修に通い、国際認定ファシリテーターとして、アースデイ、障がいを持つ人の集まり、親子イベント、企業研修…と、世界中でドラムサークルを伝え、ファシリテーターを育てる佐々木さん。「ファシリテーター」は、一般にイメージする「リーダー」とは、大きく違うと言う。
「まず、ドラムサークルは、参加者のものであって、ファシリテーターのものではないというのが、大原則です。何かを『教える・導く』ではなく、『いま、ここ』で起こっていることを全身のアンテナで受け止め、参加者が次に行きたがっているところへ、それとは気付かれずに上手に行かせてあげるのが、ファシリテーターの役割です」
「生物の一つ一つの個体差は、上下のランクではなく、バラエティー。そのバラエティー豊かな声が、一斉にしゃべるのがドラムサークル」と語る佐々木さんは、「それぞれの個体がしっかりと受容され、エンパワーメント(力づけ)されることで、心地よいコミュニケーションや関係性のあり方を安全な形で体感する場」とも言う。
「非言語だから、否定されることがないし、大勢の音が重なるから失敗してもバレない(笑)。そして、全員が一斉に自己表現できるから、満足度が高いわけです」