働かない 新装版 「怠けもの」と呼ばれた人たち
トム・ルッツ 著 小澤英実、篠儀直子 訳
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働かない 新装版 「怠けもの」と呼ばれた人たち
- トム・ルッツ 著 小澤英実、篠儀直子 訳
- 青土社4200円+10%
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「働かない」状態は、窃盗のような犯罪行為より人々の怒りを買う場合がある。専業主婦は、生活保護受給者は、野宿者は怠けている…とその怒りが相手への暴力行為にすら発展することがある。
この本が書かれた動機も、著者の息子が休暇の間に家にばかりいて働かないことへの著者による「怒り」から生まれた。ただし、著者は自らの息子への怒りに困惑と疑問を覚える。彼の怒りの源を、著者の文化的背景である英米の「怠け者(slacker)」と呼ばれた人々の歴史から探っていくのだ。
ちなみにここに出てくる怠け者の一部は労働運動の活動家である。労働時間の規制、休日、有給制度等は運動によって勝ち取ってきた。その重要さを、「馬車馬のように働きたい」などと馬にとっても迷惑な発言をする某国首相は潰したいのだろう。さてこの本に登場する「怠け者」はほぼ男性ばかりである。だからこそ、「怠け者の女性」であることの重要さもこの本を読むと見えてくるのだ。 (栗田隆子)
シモーヌ 2025年夏号
青山薫、菊地夏野、げいまきまき、戸谷知尋 編
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- シモーヌ 2025年夏号
- 青山薫、菊地夏野、げいまきまき、戸谷知尋 編
- サッフォー1800円+10%
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フェミニズム雑誌シモーヌが、装いも新たにリニューアル創刊。心から嬉しい ! 特集1「食とジェンダー」は、イスラエルの「ヴィーガン・ナショナリズム」等、食に潜む暴力構造、可能性を掘り下げる。
今一番読まれたいのは特集2「フェミニストが知っておきたいセックスワーカー運動」。タイ人少女人身取引事件を機に、高市首相も女性たちも「買春者処罰規定」導入に前向きだ。フェミニズムの中で最も対立と分断を生むこの議論。1980年代にセックスワーカーの活動家が提唱した「セックスワーク」の政治的意味、2004年に性売買特別法が制定された韓国・欧州・台湾の当事者運動、「買春者処罰」導入が当事者に及ぼす悪影響等からは、「セックスワーク」が「詭弁」でも「推奨」でも「構造的差別や搾取を容認している」のでもなく、あくまで働きたいワーカーの権利と尊厳を問題にしていると分かる。
「分断と孤立を超える」をモットーとする本書を傍らに立場を超えて議論をしたいのだが。(諍)
写真師 島隆 日本初の女性フォトグラファー
蓑﨑昭子 著
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- 写真師 島隆 日本初の女性フォトグラファー
- 蓑﨑昭子 著
- 皓星社2500円+10%
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幕末の1864年に、日本初の女性写真家を名乗った島隆(しま りゅう)(1823~99)についての評伝。産業や文化が盛んだった群馬県桐生に生まれ、幼少期に寺子屋で鍛えられて、江戸で一橋家の祐筆(文書記録係)に。しっかり者の隆を作り上げた。32歳の時、年下の霞谷(かこく)と結婚する。夫と共に、写真の技術や薬剤調合を学び、写真機を製作。互いに撮影し合い、残された写真が本書に載るが、眼差しからは意志の強い人物が読み取れる。好奇心が旺盛で、撮影のセンスも良かったと著者は書く。
1996年に桐生市の島の家から、写真や書状など大量の遺品が発見され、生涯が掘り起こされ、光が当たる。夫の多才な業績の陰に隠れていた隆を、より浮かび上がらせたのは、元地方紙記者の著者だ。近年、隆夫妻を取り上げた芝居もできた。
夫没後、桐生で写真館を開き、行政訴訟を起こし、マンガン鉱の開削も始めた。和歌や書も嗜む。なんともパワーウーマンだ。今も残る隆が撮った写真を見てみたい。(ま)