分断されないフェミニズム ほどほどに、誰かとつながり、生き延びる
荒木菜穂 著
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分断されないフェミニズム ほどほどに、誰かとつながり、生き延びる
- 荒木菜穂 著
- 青弓社2400円+10%
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女性の二極化・分化が進んでいると言われて久しい。連帯はうまくいかないことも多いのに、「女性同士ならわかりあえる」という幻想も流布する。なぜ女性は一緒に声を上げられないのか。著者の実体験を軸に、女性同士の関係性を再考した。例えば、わかり合えないことを前提に他者と関わることが連帯の可能性をひらく―として、ケア・フェミニズムの実践を提示。副題の「ほどほどに、誰かとつながり、生き延びる」の通り、他者と「敵か味方か」で向き合わず、互いの差異を認め、尊重し合える関係を築きたいという祈りが通底する。
本書は、多様な女性それぞれの事情への想像力の必要性を繰り返し強調する。差別や抑圧を生みだすジェンダー構造を直視し、闘う相手を見誤らないこと。そして、社会構造に自分を位置付け、加害の可能性があるかもしれないという自覚の重要性を訴える。自らの問い直しからしか連帯への一歩は踏み出せないと突きつけられる一冊。(春)
教室から編みだすフェミニズム フェミニスト・ペダゴジーの挑戦
虎岩朋加 著
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- 教室から編みだすフェミニズム フェミニスト・ペダゴジーの挑戦
- 虎岩朋加 著
- 大月書店2300円+10%
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教育学・社会哲学の研究者による本書は、「フェミニズムの思想と運動が息づく教育」=フェミニスト教育実践(ペダゴジー)とはどういうものか、どうしたら実現できるか、を論じる。
学校は「男とか女とかことさら取り立てない」建前をとっているが、そのことがかえって現実の不平等を意識させにくくしている、と著者は言う。この建前と現実の「二重基準」が、絶えず自分を他者の基準で判断する「二重意識」を生む。その結果、男女別定数や結婚・出産を機に研究職を断念する判断などを「仕方がない」という形で受け止めてしまう。
著者が強調するのは、抑圧された側も現状の維持と再生産に加担している、ということだ。たとえば「学校で女子トイレが長蛇の列なのは仕方ない」と思うのも、現状維持に参加している。おかしいことをおかしいと「意識」し、もやもやした気持ちを伝えあえる環境=「セーフ・スペース」作りが、教育の「挑戦」である。(雪)
新しい女は瞬間である 尾竹紅吉/富本一枝著作集
足立元 編
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- 新しい女は瞬間である 尾竹紅吉/富本一枝著作集
- 足立元 編
- 皓星社 2700円+10%
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「青踏」創刊期に「新しい女」のアイコンとして揶揄され、“同性愛”でメディアの餌食となった尾竹紅吉。21歳で陶芸家・富本憲吉と婚姻後は子育て・家事をしながら、富本一枝として発信を続けた。20歳時の表題作の力強さ、田園生活で自然を謳歌しつつ自身に厳しく向き合った小説…。女性史研究の一環だったり、スキャンダルの対象として扱われることが多く、一般から隔たってしまった一枝の文章を現代に引き継ごうと、この著作集は編まれた。
国家総動員法の翌年に「乳幼児保護法」が論議された際には、「ただ人口国策的見地で取上げられるのでなく」と兵力確保の企みを見抜き、子どもを健やかに養育するには母親の窮地にこそ対策を取るべきと、実情に即した問題を詳細に指摘した。これは現在の「少子化対策」への鋭い批判たりうる。
自身の激しい感情と格闘しつつ、弱い立場の人たちへの視線を持ち続けた一枝の言葉は、今も切れ味を失っていない。(葉)