
(c)落合由利子
タイトルに惹かれて見た美術展がある。2023年と24年に東京都現代美術館で行われた『あ、共感とかじゃなくて。』『翻訳できないわたしの言葉』(以下「共感展」「言葉展」)だ。「言葉展」は、日本社会の多様な言葉をめぐる企画展。アイヌやろう者など、言語を奪われ周縁化されてきた人々の声が響くような展示で、「標準語」「国語」に関する認識を揺さぶる問いに満ちていた。両展が忘れられず、学芸員―八巻香澄さんを調べたのも初めてのことだった。
「作家を軸にした展覧会が多いなか、私はテーマを先に決めてから作家に依頼するんです。『翻訳できない』という言葉はネガティブにも聞こえますが、作家たちからは『翻訳しなくてもいい私の言葉を伝えたい』と言われました。相手への信頼感、相手を理解しようとする気持ちなど、ポジティブな思いを込めています」
展覧会では、企画過程で読んだ本を並べたコーナーを毎回作る。参考文献コーナーがある展覧会は珍しい。他者への想像力、対話の可能性等を考える「共感展」でも、感覚特性のある人などに向けたガイドブックや耳栓といった鑑賞用ツールの提供など、先駆的な取り組みを随所で感じた。「ドラァグクイーン・ストーリーアワー(子どもへの絵本の読み聞かせ)」等関連イベントも目を引いた。
「LGBT理解増進法(保守派により内容が後退した法)が成立した時期だったからか、読み聞かせ会には批判的な意見が殺到しました。そのカウンターとして、応援のメッセージもたくさんいただきました。美術館は様々な価値観に出合える可能性を提供する場であるため、“見知らぬ誰かのことを想像する展覧会”というテーマを館として貫くことができました」
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