目の前に座っている作者、池内美絵さんはストレートの黒い髪にピンクのフレームの眼鏡で、文学少女のような雰囲気だ。ここでも作品と作家のギャップにとまどう。
しかし当の池内さんは、「そんな特別なメッセージを伝えたいわけじゃないです」と笑う。愛媛で育ち、高校のデザイン科を卒業後、京都の美術短期大学へ。現在は3つのアルバイトをかけもちしながら、作品を制作している。小学1年生の時、タイムカプセルに漫画家となった自画像を入れた。「うしろに、背表紙に〝本〟って書いてある本がいっぱい並んでて、今住んでいる部屋と重なるんです。友だちに〝ある意味、夢かなってるんや〟と言われて、言われてみればそうなのかなって」
一方で、「作品をたくさん売りたいとか自分を美術家として社会的に認められたいとは思ってない」と話す。「美術家に限らず、何か肩書をつけられそうになると逃げ出す性質があるみたいで」
27歳で広告デザイナーを「引退」、以来ずっと今の生活を続けてきた。作品は、生活の中でふと気になったものが素材になる。「リース」の素材となったティッシュぺーパーは、恋人がセックス後に使ったティッシュを取っておいたものだ。経血は月経カップなる生理用品を手に入れたのがきっかけ。カップにたまった経血の鮮やかな色に見とれ、においや味がないのに驚いた。「ケミカルナプキンを使っていた時はにおいがきつかった。あれは経血のにおいじゃなかったんですね。このきれいさを人に見せたいと思ったんですが、そのまま見せても伝わらないなと。私が受けた印象を伝えられるようなものをと考えたらお菓子になりました」
体長約20センチ強のタンザニアオオヤスデやクロゴキブリを飼っている。「ヤスデはイベントで見て一目惚れ、ゴキブリは部屋に出た幼虫を何度か殺すうちに気になってきて、飼ってみようかなと」。作品の制作過程もヤスデやゴキブリの飼育も逐一記録し、友人たちに知らせる。カードに仕立てれば実家にも送る。
続きは本誌で...