(c)落合由利子
映画『絶唱浪曲ストーリー』は、めまいのように見る者を巻きこんでいく。浪曲師・港家小柳の迫力の口演。その芸に惚れて弟子入りした小そめの熱い思い。90歳代の曲師・玉川祐子が楽譜なしで弾く三味線の勢い。 こんな世界があったかと目を開かれるが、その世界へのカメラの近づき方も尋常でない。いったいどんな監督が撮ったのか。その問いの先にいたのは、繊細な「野性」の人だった。
川上アチカ監督が浪曲を知ったのは8年前。「日本で、魂を震わせる音を探したい」とフランスの映像作家に相談され、探し当てたのが小柳師匠だった。舞台を見るなり揺さぶられた。 「物語が目の前に立ち上がり、丁丁発止の三味線からも即興のエネルギーがうねり、これはラップだ!と思いました」 大道芸から始まった浪曲も、ラップも、ともに路上育ち。 「旅芸人だった小柳師匠にもストリート気質が流れていて、旅の風雪に磨かれたその節回しは誰にも真似できない。若者にもきっと響く魂の芸だから、なんとか拍手の数を増やしたい」
そんな思いで舞台を撮り始め、弟子に稽古をつける日々にもカメラを向けた。すると懐かしい人間関係が見えてきた。 「これを言ったらまずいとか、気にしながら生きている私たちと違って、すごく正直。良い意味でワイルドな世界です」
その野性に共振するように、カメラは相手に思い切り近づき、その懐に飛び込んでいく。そもそも監督自身がそんな風に世界や現実に関わってきたのではないか、と思わせるように。
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