(c)宇井眞紀子
東京育ち。大学時代にカトリック教会の活動を通じ、フィリピンのストリートチルドレンを支援するボランティアに参加したことが、今よりずっと多感だった学生の自分にとって、強く印象に残る出来事となった。世界のアンバランスな経済構造に問題を感じたことが参加のきっかけだったが、貧しいけれど、人と人の距離が近く、頼り合うのが当たり前というフィリピンの人たちに、貧困のイメージを覆されたという。
「卒業論文では、日本へ出稼ぎに来ているフィリピンの女性たちを探し、インタビューした。一番最初に話を聞いたのは、エンターテイナービザで来日していた若い女性。待ち合わせの喫茶店に行くと彼女の隣には強面の男性の姿が…。女性たちを日本に呼び寄せ、仕事の仲介をする悪名高いブローカーだった。
「その男性、席に座るなり『俺ビール』って言うんです。怖かったー。でもインタビューが終わったら『姉ちゃん、頑張れよ』と励まされたりして(笑)」 その後も次々に人に会い、生の声を聞き続けた。世の中にはメディアに取り上げられることのない声なき声がある。この体験が書く仕事の原点となった。 大学を卒業後、専門紙記者や雑誌編集などを経て、フリーランスとなり、ホームレスの人々が販売する雑誌「ビッグイシュー日本版」等での仕事を始める。
リーマンショックの少し前から、ビッグイシューの販売者に若いホームレスの姿が目立つようになっていた。彼らは中高年の販売者に比べ、雑誌販売が長続きしない、コミュニケーションを取りたがらないなどの問題があり、ビッグイシューのスタッフたちもどう接していいのか悩んでいたという。それなら個別に話を聞こうと始まったのが、『ルポ 若者ホームレス』のきっかけとなった若年ホームレス50人聞き取り調査だった。 浮かび上がったのは、貧困など生育家庭に恵まれていない、学校や職場でいじめの経験があり、自己肯定感が持てず、仕事が長続きしない若者の姿だった。
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