(c)井上陽子
犯罪を繰り返し、人生の大半を刑務所で過ごす人たちがいる。2006年に出版され、大きな反響を呼んだ『累犯障害者』(山本譲司著)を記憶している人もいるだろう。累犯障害者とは、犯罪を繰り返し、社会と刑務所とを行き来する知的障害者を意味する。私も今、身近でその問題に直面している。友人がアルバイトとして雇っていた男性が突然、「暴行事件」の被疑者として逮捕、勾留されたのだ。友人から相談を受けてすぐに頭に浮かんだのが、かつて取材をした辻川圭乃弁護士だった。
国選弁護人の経験も多い辻川さんが弁護士になったのは1990年。まだ累犯障害者に対する問題意識も薄かった時代である。国選弁護人として刑事事件の被疑者・被告人と出会うなか、あることに気付いた。 「会う人会う人に知的な障害を思わせる部分があって。どうしてこんなにいるんだろうと」
生育歴からていねいにひもといていくと浮かび上がってきたのは、適切な支援を受けられないどころか、搾取、虐待されてきた人生だった。 「雇い主に保険金をかけられて殺されそうになったり、〝知り合いにやくざの親分がいて、大阪湾に沈められた人間が何人もいる〟という脅しを真に受けて大金を渡してしまった人もいます」
そこに知的障害という「困難」が関わっている。相手の言うことがわからなくても「どこがどうわからないか」を説明できない。相手の言動に迎合してしまう傾向もある。悪意ある相手にその特性を都合よく利用された結果、被害者にも加害者にもされてしまうのだ。その後も、知的障害を理由に供述が信頼されないなど不利は続く。冤罪に巻き込まれることも多い。
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