(C) 落合由利子
東京都写真美術館・チーフキュレーターの笠原美智子さん。キュレーターは博物館・美術館における作品収集や、展覧会の企画・構成・管理監督などを行う専門職。笠原さんは2005年、世界有数の美術展「ヴェネチア・ビエンナーレ」で、日本館コミッショナーとして「石内都 マザーズ」展を(翌年、東京都写真美術館でも)開催したことで知られる。母の遺品や身体を写した石内作品は、母親を一人の女性として捉え直し、戦後日本のさまざまな女性の意識の変化を表している。革新的な展覧会で好評を博した。この年のビエンナーレは、初めて総合ディレクターに女性を起用し、女性作家や女性キュレーターの活躍が顕著だった。が、「女性がことさらに強調されたのは、男性中心主義であったことの証左だ」と笠原さんは言う。
最初に企画した展覧会は1991年、ジェンダー規範を問い直し、女性アーティストのパワフルな作品を集めた「わたしという未来へ向かって 現代女性セルフ・ポートレイト」。ジェンダー視点による展覧会は、自分の問題であり、男性中心の抑圧的な社会を見直すために必要不可欠と考える笠原さんのライフワークになった。98年には、従来の男の性的欲望を反映したヌード写真とは違う、女性作家による新たな身体の表象を試みた「ラヴズ・ボディ ヌード写真の近現代」展を開催した。
「女性には好評でしたが、中年男性が期待外れと肩を落とす姿を見て〝やった!〟と思いました。賛否両論が出るような、既存の価値観を変えていくような問題提起ができたと思える瞬間がうれしい。日本では写真を含め美術作品は社会と結びついていないように思われがちですが、展覧会は社会を批評するものでもあります」
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