長くテレビ番組などを手がけ、50代になって本格的に映画を製作、介護やフェミニストの生き方なども追ってきた松井監督の最新作は、『不思議なクニの憲法』だ。安倍政権が改憲を掲げるであろう今夏の国政選挙に向けて「日本国憲法のことを、せめてこのくらいは知って考えようよ、と伝えたくて作りました」と話す。
思い立ったのは、昨年の5月3日。だが、憲法がテーマというだけで、これまで喜んで協力してくれた支援者の中にも去っていく人がいた。いつから政治や憲法について話せなくなったのか。その理由を、学生運動にも参加していた松井さんは「自分たち世代の失敗が大きい」と振り返る。「当時の学生たちは普通に就職して出世し、体制側にいった人も多い。一部の人が起こした内ゲバは今も社会のトラウマになっている。私はそこまで運動に入り込めなかったけれど、世代的な責任というか、うやむやにしていたものを自分なりに整理しておきたいという思いが、いつもあったのね」
映画には大勢の人びとが登場し、「私にとっての憲法」を語る。昨年の夏、全国で自分のために立ち上がった若者たち。子どもに託す未来を真剣に考え始めた親たち。沖縄のおじい・おばあの戦争体験から平和を受け継ごうとする若者もいる。その憲法を変える問題点はどこにあるのか、専門家の解説や改憲派の主張も取り入れられ、初めて憲法を考える人にも理解しやすく作られている。ナレーションは、彫刻家イサム・ノグチを育てた母を描いた映画『レオニー』にも出演した竹下景子さんが引き受けてくれた。
雑誌のフリーライターをしていた20代、俳優のマネージャーを務めた30代、プロデューサーとして活躍した40代。視聴率も意識しながらテレビドラマや番組を手がけ、男性優位だった職場で、負けじと走り続けた。47歳の時、吉目木晴彦さんの芥川賞受賞作『寂寥郊野』を読んだのが、映画監督に進むきっかけに。
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