生活の延長に、戦争があるんです
内戦中のシリアへ1人で取材に? 危険は感じないのかなど聞きたくて、大阪の下町にあるアジアプレス・インターナショナルに玉本英子さんを訪ねた。
シリアではアサド政権といくつもの反政府派が激しく対立し、現在は化学兵器の使用をめぐり米露政府の思惑も絡んで、ますます情勢が複雑化している。今年3月、シリア北東部に入り取材した玉本さんに、本紙7月25日号に寄稿してもらった。その後東京で行ったふぇみん主催の講演会では、「この2年間で10万人以上もの人々が亡くなった現実は厳しい」などと、今もシリアに暮らす人々との関わりも含めて熱く語った。
玉本さんが現在の仕事に就くきっかけは、1994年、「会社員時代に偶然テレビで見た〝焼身決起〟でした」。ドイツで、クルド人移民の男性が自分にガソリンをかけて火を付け、機動隊に突っ込む映像に文字通り衝撃を受けた。「なんで、そんなこと、するんやろう」。知りたい思いだけで、ボーナスで買ったビデオカメラを持ち、まずはクルド人がいる欧州へ向かった。
オランダにはトルコ系クルド人移民が大勢住んでいた。90年代前半、トルコではクルド人の中に独立闘争が起きていて、クルドゲリラとトルコ軍が戦闘状態だった。ゲリラを支援するクルド人の村をトルコ軍が焼き討ちし、多くの人が都市部や近隣国へ逃れていった。クルド人が集まるカフェや招かれた家でそんな話を聞いた。焼身決起は人々の抵抗の意思表示だった。
バブルという時代が背中を押し、会社を辞めてクルドの人々に会いに出かけるようになる。日本に戻ると派遣会社で働きながらお金を貯めては、また出かける生活に。ある時、フリーの記者集団、アジアプレスを知り、関わるようになった。そして、トルコのクルド人の現場に通いながら、ジャーナリストの仕事を覚えていった。
玉本さんが、経験から学び、心得としているのは、自分の価値観や思いこみで他人を測るな、ということ。最初の経験は会社員時代の92年だった。
続きは本紙で...
たまもと えいこ
1966年東京都生まれ。大阪府在住。広島の被爆者である父から、戦争はいけないと聞かされて育つ。今までにビルマ、アフガニスタン、イラク、コソボ、シリアなどを取材してきた。現在は本の執筆でも多忙。体力づくりのためのジム通いが趣味。