農村で生きられるありようを
宮城・南三陸町出身の山内明美さんは、大学院でコメの研究をしている。3・11の大震災で故郷は壊滅し、町役場で働いていたいとこはまだ見つかっていない。故郷を何度か訪れ、問い直さずにいられなかった。東北とはいったい何なのか。
「『ケガヅ』と呼ばれる風土があるんです。ケ=日常、に必要な食べ物が欠けるケガチ、ケガヅ。昔から飢饉や洪水、津波に見舞われました。いくたびも乗り越え、私の故郷も若者が都会に出て限界集落に近いけれど、それなりに暮らしは近代化してこの先も一次産業でやっていけるかなと思っていましたが。甘かったです」
原発事故もあって、復興のめどが立たない。5代続く農家を継ぎ、いまは200頭の食用牛も飼育する弟からの電話は深刻さを増す。
「牛肉市場が半値くらいに暴落して、この状態が2年も続いたらもう原発で働くしかない、と。福島の農家はもっと苛酷でしょうけれど」
一方で、宮城県が掲げる壮大な復興計画は大企業や外資が参入する「アグリビジネス」「サラリーマン漁業」。だれでもいい、一日も早く救いに来てほしいと願う地元の人たちも少なくないという。
「農業、漁業も改革が必要なことはみんな分かっているけれど、利益を追求する企業のやり方は、果たして地元の雇用促進になるでしょうか。正社員ではなく非正規、季節労働者になる可能性だってあるのに。生活できず都会に出た人がホームレスや低賃金労働者になるケースも多いです。農村で人口を抱えるありようを整えるほうが、食糧自給率も上がります。村って封建的で暮らしにくさもあるけれど、ホームレスは出さない。昔から自然発生的な福祉社会になっているからでしょうね」
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やまうち あけみ
1976年宮城県生まれ。高校卒業後、家業の手伝いや民俗資料館で勤務。大学進学で東京へ。現在、一橋大学大学院言語社会研究科で稲作とナショナリズムを研究。赤坂憲雄、小熊英二との共著『「東北」再生』もある。