越境し生き抜く少女の成長の物語
韓国の若手女性作家、姜英淑さんによる、小説が初めて日本語に翻訳された。
不思議な小説だ。
脱北した女性を主人公にした小説だと聞き、北朝鮮からの脱出とその後の悲惨な体験のドキュメンタリーに近い作品、さらに日本の私たちに刺さるようなものを予想して読み始めた。
『リナ』は、そうした予想を越えていた。
物語は国境から始まる。主人公のリナは両親や幼い弟と共に国境を越えP国をめざす。リナが住んでいた国は北朝鮮を思わせ、P国は韓国のようにも思えるが、作品では何も明らかにされない。一行は兵士に脅され、ガイドにだまされ、列車に乗り、バスに乗り、南をめざし、歩く。歩いているうちに一行の赤ん坊は死んでしまい、さらにリナは家族と別れて捕まり、化学工場の強制労働をさせられる。そこでリナは工場の監督にレイプされる。ほかの女たちも。リナたちは監督を殺し逃げる。
だが再び家族と出会った時、リナは両親や弟と共にP国に行くことをやめる。リナは女の子だったから家族から疎まれていたからかもしれない。淡々とした乾いた文章がリナの旅を進めていく。リナにとって、次第にP国に行くことが目的ではなくなっていく。
リナは働き、生きていくためにウソの自分の物語を歌い、殺人も犯す。それでも世話になった老女の元歌手を養い、ピーという男の子の面倒を見、彼はやがて恋人となる。もうひとり一緒に逃げる女性とも関係ができる。彼女自身が選ぶ「家族」がそこにはある。
南アジアのゆったりと流れる川べりの売春村までが舞台となる。
続きは本誌で...
カン ヨンスク
1966年韓国江原道春川生まれ。10代のころは走り幅跳びの選手だった。ソウル芸術大学の文芸創作科卒業。対話文化アカデミー勤務。『リナ』で2006年韓国日報文学賞を受賞。『リナ』(現代企画室、吉川凪訳)は初の邦訳出版。