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ふぇみんの書評

ウトロ ここで生き、ここで死ぬ

中村一成 著

    ウトロ ここで生き、ここで死ぬ
  • 中村一成 著
  • 三一書房2800円
 京都府の在日朝鮮人集住地域ウトロの取材を続けてきたジャーナリストによる、20年余りの記録の集成。ウトロの成り立ち、劣悪な住環境、差別・抑圧…。今は亡き1世たちの打ち解けた昔語りを素のままに載録し、多くの資料で裏打ちする。2世・3世の徐々に変化していく意識も、日々の会話の中から丁寧に掬い上げる。  長い闘いの中で、南北の対立を超えた「小さな『統一』」が育まれ、そこに多くの日本人も深く関わってきた。田川明子さん(本紙7月25日号1面)は、女性住民たちの力を引き出し後押しした。韓国の市民運動や国連の勧告等による状況の急展開。それを先導した人たちの着実で力強い言葉も記されている。  少なからぬ人々を引き寄せてきたウトロ。その魅力を筆者は「豊穣な『逸脱』」と言う。「市民社会」の平安から排除されたがゆえに獲得した、おおらかで苛烈な生活感覚は、不穏が迫るこの状況での手本になるだろう。(葉)

夢を見る 性をめぐる3つの物語

石原燃 著

  • 夢を見る 性をめぐる3つの物語
  • 石原燃 著
  • アジュマブックス1800円
本紙1月25日号1面に登場した著者が語っていた作品が収録される、待望の戯曲集。性をめぐる3作品が1冊にまとめられた。  「夢を見る」では、〈私〉がヘルと呼ばれる年配の女性の話を聞く。ヘルは戦争中の南洋で「慰安婦」だった日本人。日本人だからこその複雑な構造から、「慰安婦」だったと名乗り出た人はごくわずかだ。その事情も踏まえて、著者は敢えてこの物語に取り組んだ。「蘇る魚たち」は男性から男性に対する性暴力の影響がテーマだ。3人の主人公の起伏の激しい感情や、言葉に揺さぶられる。「彼女たちの断片」では中絶をめぐり女性たちが語り合う。家父長制や中絶方法、経口中絶薬を話題にして、1人の中絶の経過を6人の女性が見守る。女性たちの長い独白が印象的だし、短いセリフにもハッとする。  一見個人的経験を語るセリフが大きな社会性をはらむテーマにつながる。そのダイナミズムを、戯曲として文字でたどることで、じっくりと反芻できる。(三)

戦争花嫁ミチ 国境を越えた女の物語り

田村恵子 著

  • 戦争花嫁ミチ 国境を越えた女の物語り
  • 田村恵子 著
  • 梨の木舎1700円
著者はオーストラリアで文化人類学の研究を行う中で、戦後「戦争花嫁」として渡豪したミチと出会い、人生を聞き取ってゆく。ミチの物語には、戦争・日豪関係・ジェンダーと、さまざまな問題が垣間見える。海軍の嘱託としてニューギニアで勤務したこと、婚約者の戦死、戦後を迎え、進駐軍のオーストラリア人ガスとの出会いと未婚での出産、ガスの帰国…。そのまま異国の恋人から音沙汰なしとなる女性もいた中で、ミチはガスからの知らせを受け、出産した子ども2人との渡豪を決意する。  当時は白豪主義、さらにオーストラリア人が戦中に日本人から受けた虐待や豪本土空襲の記憶も新しく、ミチも白い眼を向けられた。渡豪後は7人の子どもを育て、夫婦関係に苦労しつつ仕事に励んだ。「人生は戦いの連続だ」と語ったミチの物語は、著者にとって研究成果のみならず、一見平凡な日本人女性の経験した、知られざる戦争や人生を解き明かす貴重な共同作業となった。(タ)
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