冤罪 女たちのたたかい
- 里見繁 著
- インパクト出版会2500円
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多くの冤罪事件を取材しそれらを著してきた著者。本書は冤罪で闘った女性がテーマ。自らが事件の犯人とされ、冤罪を訴えた「徳島ラジオ商殺し事件」の冨士茂子さんと「東住吉事件」の青木惠子さん。逮捕された男性の冤罪を晴らすために支え、一緒に闘った「袴田事件」の袴田秀子さんと「布川事件」の桜井恵子さん。4人の雪冤を果たすまでの記録だ。
著者は、冤罪を生む原因に、警察の「見込み捜査」で「無理やり自白」を取り、検察は「無罪を示す証拠を隠して」起訴。裁判所は「検察を妄信し」きちんと調べないまま「疑わしきは罰する」ことを挙げ、厳しく批判する。
犯人とされた冨士さんと青木さんには、離婚経験があり、事件の時に一緒にいた男性は戸籍上の配偶者ではなかったなどの共通点があった。2人に注がれた男性の警察官・検察官・裁判官の冷たい目や偏見を著者は指摘。性差別や女性蔑視も冤罪の芽となりうることが恐ろしく、怒りに震えた。(ら)
- スポーツするえほん
- 中川素子 著
- 岩波書店1800円
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東京五輪を控える今、本紙かつての連載「絵本の本棚」執筆者である著者が、スポーツにまつわる絵本60冊を厳選し紹介した本。五輪熱狂の空気に「違和感と抵抗感」のある著者ならではの選書と筆致に、心と体がのびのび解放される心地がした。
絵本が伝えるのは、走ることそのものの魅力や歓び(『かけまーす どん』)、体の仕組みの不思議さと体を動かす爽快感(『とんねる とんねる』)、スポーツを通じて生まれるあたたかいつながり(『おはいんなさい』)そしてそれらは障害を持つ人も同じであること(『ろってちゃん』)…。
本紙連載「東京五輪は誰のため?」でもあったが、五輪にはマネー至上主義、環境破壊、性差別、人種差別、優生思想、植民地主義、ナショナリズムが絡みつく。スポーツの本来の歓びを伝える本書は、五輪への最高のアンチテーゼか。強制動員の空気には、『ネコリンピック』のように「何かいったかにゃ~」とかわしてみるのはいかが?(登)
大学による盗骨 研究利用され続ける琉球人・アイヌ遺骨
松島泰勝、木村朗 編著
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- 大学による盗骨 研究利用され続ける琉球人・アイヌ遺骨
- 松島泰勝、木村朗 編著
- 耕文社1800円
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今、朝ドラの舞台にもなっている北海道で、触れられることのない歴史がある。1869年に北海道では開拓使が誕生、先住民族のアイヌは土地を奪われ、言葉や文化を取り上げられ、植民地化された。さらにあまり知られていないが、アイヌの遺骨が墓から盗骨され、研究のために海外にまで送られたという衝撃的な史実もあった。
盗まれた遺骨は北海道大学など12大学に「標本」として保管されていた。京都大学ではやはり研究という名目で、沖縄の墓から琉球人の遺骨を盗骨している。「沖縄やアイヌであればかまわないという捉え方があったのだろうか」とは沖縄戦遺骨収集ボランティア具志堅隆松さんの言葉。日本政府には朝鮮や台湾に対してと同様、沖縄やアイヌに対する植民地支配の反省も毛頭ない。2018年までにアイヌの遺骨を返還した北海道大学からも謝罪の言葉はなかったという。
個人の尊厳とともに学問とは何か、人は何のために学ぶのかについても考えさせられる。(室)