万引き依存症
- 斉藤章佳 著
- イースト・プレス1500円
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『男が痴漢になる理由』で、痴漢は性依存症であり治療が必要と説く依存症専門家の著者による書。
万引きは軽く見られるが、被害総額は1日約13億円、貧困ゆえばかりでなく、再犯率も高い。痴漢と同様、「プロセス・行為依存」「衝動制御障害」だから、一度引き金が引かれれば、行為は止まらずエスカレート。特徴や社会生活の中での治療プログラムの必要性なども性依存症と似ているが、万引きの特徴は女性に多いことと、夫からの抑圧、家事・育児・介護負担のストレス、孤独、喪失感など多くは家族関係の欠落を埋めるために依存していること。認知症や摂食障害の関連もあるが、現代において誰もが万引き依存症になりうると。
真の意味での「犯罪抑止」「刑罰」とは何か-。依存症の視点は、刑事司法にも新たな光を当てる。孤独から万引き依存症に陥った高齢男性を福祉・行政・医療が連携して依存症から遠ざける取り組みは、今後求められる犯罪抑止の姿なのかもしれない。(登)
ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち
ナタリア・ホルト 著 秋山文野 訳
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- ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち
- ナタリア・ホルト 著 秋山文野 訳
- 地人書館3500円
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かつてコンピューターとは、人のことを指した。複雑かつ膨大な宇宙開発にかかわる計算をこなすのは、優れた自然科学、とりわけ数学の学識を持ち、航空宇宙分野に応用できる有能な人材だ。本書はアメリカの宇宙開発においてなくてはならなかった、コンピューター(計算手)と呼ばれた女性たちの歴史を記している。
育休制度もなかった当時、女性たちが仕事と家庭の両方をこなすのは並大抵ではなかった。だが、国家機密としての人工衛星や月面探査に携わる女性たちは、単なる同僚以上の結びつきで、この仕事にやりがいを見出す。その基盤を築いたのは優れた女性リーダーによる注意深い人材育成の功績でもある。
宇宙開発は軍事とも表裏一体で、研究は政治的事情にも翻弄された。やがて、機械化により計算手は不要となったが彼女たちはさまざまな分野で高い技能を発揮し続けた。その道は、現在の女性研究者やエンジニアの活躍にもつながっている。(梅)
セックスワーク・スタディーズ 当事者視点で考える性と労働
SWASH 編/
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- セックスワーク・スタディーズ 当事者視点で考える性と労働
- SWASH 編/
- 日本評論社1900円
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セックスワークについて考える時、自分の立ち位置がどこなのか、いつも戸惑う。私はセックスワーカーではないが、セックスワークとまったく無関係に生きてきたわけではない。自分がその気になれば性的なことをお金に換えることができると知っていたし、実際試したこともある。もしも自分がセックスワーカーなら、と考えたことは何度もある。
本書を読みながら、自分の中にある偏見を痛いほど自覚する。「正しい家族」を毛嫌いしているのに「正しい性」からは自由になれない。セックスワーカーへのスティグマがシングルマザーに対するスティグマと重なり私を激しく動揺させた。
セックスワーカーの健康と安全のために活動するSWASHが開催した講座を基に、わかりやすくていねいに、さまざまな角度から説明される。セックスワーカーにとって何が大切なのか、何が問題で何が有効な支援か、本書が提起する数々の知に目を開かされる。(順)