「不安」は悪いことじゃない 脳科学と人文学が教える「こころの処方箋」
伊藤浩志、島薗進 著
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「不安」は悪いことじゃない 脳科学と人文学が教える「こころの処方箋」
- 伊藤浩志、島薗進 著
- イースト・プレス1700円
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「感情的にならず理性的に考えなければだめ」「不安をもつのはよくない」。一般的に正しいと思われがちだが、両方とも脳科学と人文学の立場からは否定されている。本書は、脳神経科学者の伊藤浩志と宗教学者の島薗進が「不安とは何か」を語り合う一冊だ。
伊藤は、不安とは危険を察知した時に起こる生体反応であり、生物の生存に重要な役割を果たしていると説明。島園は夏目漱石などを例に、不安を正面から見据えることが現代を生きる知恵と書く。さらに現代日本の不安の象徴ともいえる福島原発事故にも多く言及されている。 島薗は、政府や自治体が「正しい情報を知らせて過剰な放射線健康不安をなくす」とすることに疑問を呈す。福島市在住の伊藤も、除染で放射線量が下がっても分断された地域の人間関係が戻らなければ復興はないと書く。不安の多い今、不安とともに生きるすべを理解できる好著。(公)
シニアのための口腔ケア いつでもどこでもブクブクうがい
岡田弥生 著
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- シニアのための口腔ケア いつでもどこでもブクブクうがい
- 岡田弥生 著
- 梨の木舎1500円
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口はその人らしさを表す。笑うことは健康にもいい。長年歯科医療に携わってきた著者は、高齢者の口腔ケアの大切さを知ってもらおうと読みやすい本にした。
高齢者の多くが「もっと歯を大事にすればよかった」と後悔しているという。しかし今からでも遅くはない。毎日のブクブクや声を出す、よく噛んで食べるなど、そんなに難しいことではない。
実は口の中は病原菌で溢れている。歯周病が糖尿病などの病気と関連があることもわかってきた。しかし、よく噛むことで、唾液が分泌され、病気から身を守り、体の調子を整えたりする。口腔ケアの重要性がわかる。
また本書は歯科医療のあり方にも言及し、終末医療と食との関係、食べる行為の大切さを語っている。
口をきれいにすることは気持ちがいいし、表情を豊かにするのも精神的にいい。今日から「健口体操」。噛むことは顎のジョギング。いつまでも健康でいられるよう口腔ケアを怠らずに。(ぶ)
アイダ・ターベル ロックフェラー帝国を倒した女性ジャーナリスト
古賀純一郎 著
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- アイダ・ターベル ロックフェラー帝国を倒した女性ジャーナリスト
- 古賀純一郎 著
- 旬報社2800円
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日本では知る人は少ないが、米国では調査報道の先駆者として今も知られているアイダ・ターベルの400頁を超える評伝である。
彼女が生まれた19世紀半ばの米国は資本主義の勃興期にあたり、利益を最大化するためにあらゆる手段を使って独占が形成されていった「金ぴか時代」だった。女性には参政権すらなかった時代にジャーナリストという職業を選択した彼女は、巨大化したトラストの腐敗した実態を明らかにする調査報道に取り組む。こうした報道が契機となって社会の公正・平等を求める米革新時代へと転換していく時代の流れの中で彼女の生涯が語られる。
意外なことに彼女自身は自らをジャーナリストではなく歴史家と考えていたという。それゆえ主著『スタンダード石油の歴史』の目的は「最も完璧な独占体を構築できたのはなぜなのかの徹底解明を目指す」ことにあったと語っている。調査報道とは何であるのか、改めて思い起こさせてくれる一冊である。(ち)