子どもの悲しみによりそう 喪失体験の適切なサポート法
ジョン・ジェームスほか 著 水澤都加佐ほか 訳
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- 子どもの悲しみによりそう 喪失体験の適切なサポート法
- ジョン・ジェームスほか 著 水澤都加佐ほか 訳
- 大月書店2400円
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ひとはさまざまな出来事を通じて、悲しみや怒りといった否定的な感情を抱く。それは人間の正常で自然な反応なのに、幸せや喜びの感情はプラスで、悲しみなどつらさを伴う感情はマイナスという固定的な観念が、私たちを縛っている。悲しみに向き合わないままだと「未完」の喪失をひきずることになると、本書は言う。
3人の著者たちは、自らの喪失体験と回復へのプロセスを基にして、悲しみに向き合う人たちへのサポートを長年行っている。
死別、親の離婚などの喪失体験をしている子どもたちを援助するためとして書かれたこの本には、その際心得ておくべきことが具体的に書かれている。
例えば間違った「喪失に関する神話」。泣いてはいけない、時間がすべてをいやす、忙しくせよ、強くあれなど、誰もが聞いたことのある言葉が並ぶ。
でも実は、悲しみをありのままに受け入れ、喪失を素直に悲しむことが大事なのだと気づかせてくれる本だ。(知)
管野スガ再考 婦人矯風会から大逆事件へ関口すみ子 著
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- 管野スガ再考 婦人矯風会から大逆事件へ
- 関口すみ子 著
- 発行=白澤社 発売=現代書館2500円
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アナーキストらが明治天皇の暗殺を企てたというフレームアップにより幸徳秋水ら12人が処刑となった「大逆事件」は、明治期の一大思想弾圧事件だった。敗戦後には、冤罪の事実が知られたが、一方で、処刑者中、唯一人の女性だった管野スガに対しては現在に至るも「妖婦」説が根強い。
スガは入獄前、幸徳秋水との自由恋愛、同居によって、既に周囲から「妖婦」の非難を浴びた。また、以前の事実婚の相手、荒畑寒村は「放縦淫逸な生活に沈湎して…男と浮名を流す…」と戦後、自伝でこの妖婦説を定着させた。
本書は当時の新聞や処刑前の日誌などを検証し、男たちのまなざしからではなく、生身の全身像をすくいだすことで、妖婦説への疑義を試みたものである。そこには新聞記者として公娼設置に反対の論陣を張り、キリスト教婦人矯風会の活動家であり、しかしそれではあきたらないかのように「革命家」へと一気に跳んだ稀有な女性の姿が浮かんでくる。(束)
ルポ 刑期なき収容 医療観察法という社会防衛体制
浅野詠子 著
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- ルポ 刑期なき収容 医療観察法という社会防衛体制
- 浅野詠子 著
- 現代書館1800円
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「2002年に強行採決された「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」という長い名の法律(略して「医療観察法」)をご存じだろうか? この法に基づき、刑務所のような二重フェンスに囲まれた「病棟」に強制収容されているのは、心神喪失等の状態で傷害、殺人、放火などの事件を起こし、不起訴や無罪、執行猶予になった触法患者。全国30カ所、800床は常に満床だと言う。
このほとんど知られていない法・施設に、2年の取材期間をかけてメスを入れたのが本書。
国が掲げる「目的」は、治療と社会復帰。確かに、刑務所とは比較にならない手厚い医療体制はとられている。しかし、入院患者1人当たり年間2200万円の公費をかける真の目的は何か?
検察官次第で措置が決まり、触法行為から数年経って入院となるケースもある。入院期間には上限がなく、法施行後の8年半で患者37人が自殺している。(JO)