物語は3.11以後の幻想的な情景から始まる。米兵が残した混血孤児のミッチと友人のヨン子は、60歳を超え、多くの友を失った今も記憶の森を彷徨っている。
「ホーム」の仲間で、7歳で池で溺死したミキちゃん。そのスカートのオレンジ色の記憶は、その後の“事件”の中で、日々の暮らしの中で波状的に膨らんでいく。
オレンジ色は爆発の炎の色? 原発事故への忸怩たる思いの中で、著者は「小説の役割」を問い、「何が間違っていたのか」を問う。
原爆、ベトナム戦争、湾岸戦争、チェルノブイリ…と、呼び起こされる歴史の記憶。マイノリティーの目を通して浮かび上がる、人間の尊厳、温かさ、生きづらさ、愚かさ。
人称も時間・空間も自在に変化する壮大な物語に、初めはとまどうが、いつしか引き込まれ、読者自身の記憶とも交差していく。
世界中で流されてきた大量の涙の先に何を見ればよいのか。祈りとも言える希望の光も見えてくる。(JO)
- アルビノを生きる
- 川名紀美 著
- 河出書房新社2200円
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アルビノと呼ばれる人たちのことを、これまで積極的に知ることがなかった。彼らの多くが弱視で紫外線にも非常に弱いこと、人と違う外見でいじめられたり、子どものころから刺激の強い薬剤を無理に使用して金髪を黒く染めている人も多いことを知った。
今、そうした人たちがゆるやかにつながり、それぞれの形で発信をしている。金髪に白い肌の赤ちゃんを「我が家の王子様」とウェブサイトに掲載する人、オフ会にはカラフルな服を着て集まる子どもたち。「日本アルビニズムネットワーク(JAN)」の存在も大きい。
その流れはアルビノだけでなく、やけどや先天性のアザなど、他の「見た目」問題にも広がっていく。「見た目」で苦しかったこと、「見た目」には分からないしんどさを語り合う場を持つことで、人々は力を得る。また、「うちの家系ではない」と言われ疎外され苦しみを抱えていた母親も変わっていく。
改めて「見た目って何?」と考えさせられた一冊。(梅)
原子力 負の遺産 核のごみから放射能汚染まで
北海道新聞社 編
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- 原子力 負の遺産 核のごみから放射能汚染まで
- 北海道新聞社 編
- 北海道新聞社1500円
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「負の遺産」として、処分場誘致に動く北海道・幌延、六ヶ所村の再処理工場、高速増殖炉もんじゅ、そして福島の汚染などを、専門家インタビューと共に紹介する。「推進派」を取材対象の中心に据え、実名の記述にこだわり、積み上げた事実で語らせる。書き手は原子力に対する「否」の考えを明確にしながら、なお、「答えはあくまで、社会全体で出さなければならない」「私情を廃し、深い取材で問題提起を続けたい」と言う。
青森県六ヶ所村に住む私が、六ヶ所村の現実をどう話したらいいのか。自分でもきちんと分かっているのか。自問し続けたこの2年半だった。
六ヶ所村民は今、原子力に不信感を持ち始めているが、「反対派」に全面的な賛成をしているわけでもない。村長と議会は強硬に推進を主張して譲らない。日本一豊かになった村の財源を維持できるかどうかが、村民の考え方を左右するのか。「下北の選択は、この社会全体への問いでもある」という指摘は、重く厳しい。(菊)