物語としての発達/文化を介した教育 発達障がいの社会モデルのための教育学序説
津田英二 著
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- 物語としての発達/文化を介した教育 発達障がいの社会モデルのための教育学序説
- 津田英二 著
- 生活書院2300円
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発達障害をできるだけ早く「発見」し、「療育」すべしという空気が強まっている。何よりもそれが本人の「生きづらさ」解消につながるとも言われる。
しかし著者は「迷惑な人」を特定し社会に適応させるべく「治療」しようとする社会の危うさと、他者との摩擦と傷つきを避けようとする私たちのありようこそが「障害」であると指摘する。そして発達障害も含め、人の発達を他者との関係の物語としてとらえ、物語を紡いでいくための拠点として具体的な実践例の紹介とともに「都市型中間施設」を提案する。
固いタイトルとは裏腹に、自身の心の揺れや迷いを率直に吐露しつつ、平易な語り口の文章がていねいに綴られている。発達障害にまつわるさまざまな「問題」を自分の問題として向き合うための材料とヒント、そして矛盾に満ちた人間という存在への愛がたっぷりと詰め込まれた一冊である。(葉)
99%のための経済学入門 マネーがわかれば社会が見える
山田博文 著
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- 99%のための経済学入門 マネーがわかれば社会が見える
- 山田博文 著
- 大月書店1900円
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経済学は、本来「経世済民」の学であり、「1%の富裕層と『勝ち組』のための学問ではなく、99%の生活者のための学問」と説く著者が、グローバル経済や日本の経済政策の課題などを分かりやすく解説している。
特に、日本は、2001年からの、小泉元首相によって推進された構造改革と規制緩和によって、実体経済よりも金融経済が優先されるアメリカ型の経済社会が出現し、OECD諸国の中でもトップクラスの貧困・格差大国になったことを厳しく批判する。
外需依存・ドル依存から脱却し、介護・福祉・医療といった社会保障の分野での国内需要の拡大こそ必要で、この分野は環境や省エネ分野とともに今後大きく成長が見込める、という著者の意見に至極納得する。
本書を読むと、安倍新政権の経済政策がいかに危ないものかということがよく分かる。景気対策は誰のための対策なのか、99%の市民はだまされてはいけない。(り)
Japanレポート3.11
ユディット・ブランドナー 著、ブランドル・紀子 訳
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- Japanレポート3.11
- ユディット・ブランドナー 著、ブランドル・紀子 訳
- 未知谷1600円
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東日本大震災と原発事故後、様々な視点の書籍が出版されたが、本書もその一冊。来日した外国人ジャーナリストが、震災に絡んで人々を訪ね、話を聞いた。
経産省前のテントで座り込む人たち、京大原子力実験所の小出裕章さん、被災地の幼稚園、福島・双葉町の人々などを訪ねる。そこで語られる外国人らしい、しがらみのない言葉にはっとさせられる。例えば、仮設住宅を「みすぼらしいコンテナーのようなバラック」と言う。日本人なら言いにくい感想だが、日常生活が破壊された姿が強く伝わり、厳しい現実が浮かび上がる。著者が講義した大学の学生たちに対しては、原発事故に対する感想に失望したと率直な意見を述べるが、突き放すわけではなく、次の感想や行動を引きだそうとする姿勢が見えてくる。
著者は自分がルポした人々が、被害をその後どのように克服し、どう生活しているのかを心配する。国境も人種も超えたつながりこそ、絆だと気づかされる。(三)