- 女性作家評伝シリーズ 壺井栄
- 小林裕子 著
- 新典社2100円
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壺井栄は、村全体が姻戚・共同体の濃密な人間関係の小豆島を出、同郷の革命的詩人繁治と東京で自由結婚。
本書は栄の実人生を精細に追うのでなく作家としての栄像を浮かび上がらせたとのこと。
作品には栄が生前、声高らかには語らなかった女性の抑圧された立場への反発や怒りが浮かび上がる。また左翼文学者の陣営に参加し、その立場で発言しつつも仲間の男性たちの中に存在する女性差別に反発、それを作品世界にどう表現しているかを検証している。
栄は多様な小説を量産できるプロの作家だが、女性に負わされた社会的負荷を見抜く批判精神とそれを優しくふうわりと差し出す技巧を持っていて、栄の個性があざやかに光る。
また、巷間言われる「郷土愛の作家」「母性の作家」とは違ってジェンダー意識に目覚めた作家としての壺井栄を再認識できる。作家・佐多稲子との交流も随所にあって懐かしい。(敏)
カウンセラーが語る モラルハラスメント
谷本惠美 著
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- カウンセラーが語る モラルハラスメント
- 谷本惠美 著
- 晶文社1500円
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モラハラ。それは自分が問題に向き合えないストレスの発散のために、態度や言葉で相手の人格・世界観を否定し、相手を支配、操作することに依存する精神的暴力。モラハラ行動の一つ一つを取れば、身体的暴力と違い「暴力」に見えにくい。その暴力に気付かずに加害者のモラハラパーソナリティに日々自分を合わせていると、自尊心が破壊されていく。精神的DVとほぼ同義だが、親子関係でもみられるし、職場のパワハラにも当てはまると思う。
著者は女性のためのカウンセリングルームを主宰。「あなた」と被害者に語りかけ、被害に気付いた後にどんな選択肢を取ろうとも「あなた」が人生を取り戻すことが大事なのだと、被害者の細かい心の揺れに触れながら、取り戻し方を指し示す。同時に加害者の行動に理由をつけ、直ると期待することの無意味さも説く。読んでほしい友人たちの顔が浮かんだ。(登)
ぼくが遺骨を掘る人「ガマフヤー」になったわけ
具志堅隆松 著
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- ぼくが遺骨を掘る人「ガマフヤー」になったわけ
- 具志堅隆松 著
- 合同出版1400円
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兵士よりも女性や子どもたちを含む民間人の犠牲が多かった沖縄戦。人々の遺骨の多くはいまも原野、山中、壕やガマに置き去りになっている。著者は30年前に、ひとりで遺骨発掘に取り組み始め、語られない沖縄戦のいくつもの実相を遺骨から知った。軍民混在となった南部では、軍は住民を守るどころか楯にした。安全なガマはもっぱら軍隊が占領。下半身だけが見つかった遺骨は手榴弾での「自決」と見られ、軍国教育の酷さを物語る。
「遺骨や遺品をひとりでも多く家族の元に帰してあげたい」と沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」(沖縄の言葉でガマを掘る人の意)を立ち上げ、時にホームレスたちと発掘したり、DNA鑑定の結果、遺族を捜し出すことにも成功している。「沖縄戦を海の向こうの出来事ではなく、本土でも繰り返されたかもしれない地上戦だったととらえてほしい」と著者。(室)