放射能汚染が未来世代に及ぼすもの 「科学」を問い、脱原発の思想を紡ぐ
綿貫礼子 編
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- 放射能汚染が未来世代に及ぼすもの 「科学」を問い、脱原発の思想を紡ぐ
- 綿貫礼子 編
- 新評論1800円
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ミナマタ、チェルノブイリ、フクシマと続く科学技術による被害を、女性の視点から丁寧に問い続けた筆者のエネルギーに感銘と感謝の思いだ。
2011年に予定されていたチェルノブイリ25周年の国際科学会議に出席する予定で本書は書き始められていたが、3・11の東日本大震災と福島第1原発事故によって加速した。チェルノブイリでの被害調査が低線量被ばく、特に子どもたちに起きているがん以外の多様な病気の広がりを解き明かしている。またセシウム137汚染地域での女性の生殖機能の悪化や、思春期で被ばくした後汚染地域で生活する女性の健康など、リプロダクティブ・ヘルスの視点が貫かれている。そして低線量被ばくを小さく見積もらせるIAEAを国際原子力ムラと指摘している。
著者は今年1月亡くなったが、本書はフクシマ後の私たちにとって指針になる一冊になった。(片)
原発危機と「東大話法」 傍観者の論理・欺瞞の言語
安冨歩 著
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- 原発危機と「東大話法」 傍観者の論理・欺瞞の言語
- 安冨歩 著
- 明石書店1600円
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東大話法―自分の立場で、都合よく、うそであっても、自信満々に話し、批判する者をバカにする。背景にあるのは東大という権威であり、原発危機もそこから起きた。だが、これは東大を頂点とした日本中の大学に根付いた仕組みであり、人事評価と密接にむすびつき、学問の自由などとは無縁の伏魔殿を形成してきた。原子力ムラは、まさにその典型である。
打破するには? 東大話法を見抜き、笑い飛ばすことだと著者は言う。正論である。しかし、実のところ、これが一番難しいのではなかろうか。なぜなら、多くの人間が東大という権威に憧れ、あちら側に組み込まれたいと願っている。東大話法の使い手になりたいのだ。批判する側に、なりたくてもなれないコンプレックスがある限り、東大話法は生き続けるであろう。まずは私たちのメンタリティーを変えることから始めねばなるまい。311後の教育はどうあるべきか。そのことを考えさせてくれる書として読んでほしい。(た)
- エジプト革命 アラブ世界変動の行方
- 長沢栄治 著
- 平凡社820円
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2011年1月25日、カイロのタハリール(解放)広場に老若男女100万もの人が集まり、「民衆は体制の打倒を望む」と叫んで、ムバラーク大統領らの退陣を求めた。
著者はエジプト近代史の該博な知識をもとに、人々が放逐しようとした体制とは何か、何を期待しているのかを明らかにし、革命がアラブ世界の地殻変動に及ぼす影響まで触れる。ソーシャルネットワークを通じて自然発生的に集まった若者によって革命が起きたように受け止められがちだが、実は抑圧からの解放、社会の公正を求めて繰り返し立ちあがり、弾圧されてきた何世代にもわたる民衆の長い抵抗の歴史の上に今回の革命があることが分かる。
新自由主義の弊害を背景にして、人々が具体的に求めたものは、賃上げ、正規雇用への移行、社会保険の適用などであり、日本における市民の要求の類似に驚く。Youtubeに映る広場の人々の笑顔の輝きが、読了後ぐっと身近に感じられる。(ま)