労働再審⑤ケア・協働・アンペイドワーク
仁平典宏、山下順子 著
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- 労働再審⑤ケア・協働・アンペイドワーク
- 仁平典宏、山下順子 著
- 大月書店2600 円
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変化しつつある「労働」をどうとらえるか。このシリーズを本紙でも数度紹介してきた。今回はケアと労働がテーマである。
介護保険制度等で、家事や介護やボランティアでしかなかった活動が、賃労働として確立された。それはもちろん、今まで主に女性が担ってきたアンペイドワークが賃労働として確立した画期的なことだったのだが、コインの裏表のように多くの「働く貧困層」が生まれていると指摘される。
「介護の社会化」について、質はともあれ歓迎していた向きには、この労働の主婦化という現象は衝撃的である。しかもその介護労働すら内部に身体介護、生活援助などのジェンダーの階層性を抱える。
それは今はやりの「ケア」をどう位置付けるかにもかかわる。また労働と労働ではないものとの線引きすらあいまいにしていく。
日本型福祉社会を支えた男性正社員稼ぎ手システムが崩れつつある今、労働、活動、しごとをどう問い直すのか。興味深い。(衣)
自分の生を編む 小原麗子 詩と生活記録アンソロジー
小原麗子 著 大門正克 編
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- 自分の生を編む 小原麗子 詩と生活記録アンソロジー
- 小原麗子 著 大門正克 編
- 日本経済評論社2900円
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岩手県に在住し「麗ら舎読書会」を主宰する著者の半世紀にわたる詩や随筆等を集めた作品集。
「嫁にやる・もらう」が普通、「結婚」という言葉すら聞かれなかった時代、母や親戚が「嫁に」と持ってくる話に、若き著者は抵抗する。そして「宙吊り」のまま生きていくことを選ぶ。
戦後、高度成長期の機械化・効率化で農村の生活は変わり、女の体のリズムは壊れたと著者は感じる。いろりを囲む温かな家族の美しさ、田植えの賑やかさといった
風景も奪われた。しかし一方で著者はそうした光景が女の犠牲の上に成り立つことを見抜き、戦時中に自死した姉の姿を重ねる。その目はさらに「慰安婦」へと向けられる。
「家」に抵抗した著者は、しかし地域にとどまり、書き続けることに自由を見いだした。作品は半世紀以上もの生活記録でもあり、女性の生きた道をたどる一冊だ。
女って大変だと共感しつつ、豊かな言葉の世界を感じられるのもよい。(梅)
- 増補 ポピュラー音楽と資本主義
- 毛利嘉孝 著
- せりか書房2500円
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CD売り上げトップを走り続けるAKB48。そのファンがベストメンバーを選ぶ選挙権はCDを買わないと手に入らない。儲ける側にこれほど都合のいいシステムも、ファンにとっては愛の行為。大衆を対象にするポピュラー音楽は資本主義と抜き差しならぬ関係にあるが、著者は両者の共犯関係だけでなく、初期のロックが持っていた緊張関係をも指摘する。
ともすれば「自由な自己表現の手段である」と考えられがちな音楽が、いかに音楽産業やテクノロジーの発展、メディアの変化などと密接な関係にあるか。その双方向の関係の歴史がダイナミックに描き出される。
著者は、ヨーロッパでの文化運動としてのDiY、つまり自分たちで好きな音楽を作り、仲間とともに聴いて楽しむという動きを紹介し、コミュニティーに根ざした音楽の生産・消費活動にこれからのポピュラー音楽の可能性を示す。音楽産業は不況だが、逆に私たちの音楽生活が豊かになる道が見えてくる。(ま)