アマテラスと天皇 〈政治シンボル〉の近代史
千葉慶 著
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- アマテラスと天皇 〈政治シンボル〉の近代史
- 千葉慶 著
- 出版社:吉川弘文館 価格:1,800円
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アマテラスというと、日本の国の開祖、神武天皇より前の女神だ。なじみのない存在だが、幕末から軍国主義の時代にいたるまで、政治的に多用されてきた。本書はアマテラスの政治シンボルとしての創出から解体までを追う。
幕末、薩長の下級武士と一部公家により成立した維新政府は、その政治的正当性を補強するためには幼い明治天皇を担ぐだけでは不十分で、幕末の大塩平八郎の乱など世直し運動でシンボルとして使われ民衆に親しまれていた「アマテラス」を使ったという。
神道の国教化は「教義論争」を招いてしまう。立憲政治のもとで薄まった「アマテラス」は宗教から切り離され世俗化するが、民衆運動の激化を押さえるため神がかり的な国体論が軍部とともに暴走する。
どんな政治勢力も政治シンボルと無縁ではない、と著者は言う。無害化しているかのような象徴天皇制にも埋火が残る。壮大なテーマの見取り図だそうだが、面白い。(衣)
電力自由化 発送電分離から始まる日本の再生
高橋洋 著
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- 電力自由化 発送電分離から始まる日本の再生
- 高橋洋 著
- 出版社:日本経済新聞出版社 価格:1,600円
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日本の電力事業は原発推進を目的とする総括原価方式、地域独占体制など「諸制度の束」によって形成されてきた。
経産省総合資源エネルギー調査会基本問題委員会委員である著者は、市場メカニズムを活用する電力自由化の立場から、この「諸制度の束」の問題点を整理しつつ、再生可能エネルギーを基本とした自律分散開放型の電力システムという考慮すべき構想を提言する。だが、実現に向けた処方箋は、公益事業として法定独占にある電気事業の分割「民営」化=市場メカニズムの導入に帰結する。
電力自由化を支持する自然エネルギー推進派の飯田哲也氏が述べているように「自然エネルギー拡大と発送電分離は、本来的に別の政策」であり、自然エネルギーの普及にはさまざまな政策誘導が必要となってくる。
安全な電力がライフラインとしてすべての人に提供されるために、どのような「諸制度の束」を織り成すべきか、本書の問題提起を受けつつ議論が必要である。(ち)
- 第十堰日誌
- 姫野雅義 著 吉野川シンポ実行委 編
- 同実行委発行 七つ森書館発売 価格:1,500円
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四国・吉野川、江戸時代、農業用水確保のために造られた「第十堰」は、260年間機能してきた。しかし90年代、新たな可動堰建設計画が浮上、釣り人でもあった著者は第十堰を守る運動を始める。
推進側の論理を崩すのは、緻密な検証をもとにした適確な反論だ。一方で、頑張りすぎないスタイルの運動は、住民意識をも変える。そしてついに全国初、公共事業争点の住民投票が実現した。
日誌は、急逝した著者が運動当時に綴ったコラムを、かつての運動仲間たちの手によりほぼ原文どおりの形で編集されたもの。国交省や政治家に対するユーモアを交えた鋭い皮肉も書の根にあるのは自然に対する尊敬の念だろう。
川は渇水もあれば、洪水もあり、流路も変わる生き物のようなものという言葉には目が覚める思いがした。機会があればぜひ第十堰をこの目で見て、原発、エネルギー、ダムの問題も含め、自然とのつき合い方、生き方を考えたい。(梅)