ドキュメント アメリカ先住民 あらたな歴史をきざむ民
鎌田遵 著
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- ドキュメント アメリカ先住民 あらたな歴史をきざむ民
- 鎌田遵 著
- 出版社:大月書店 価格:2,800円
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「鯨を殺すな、インディアンを殺せ」とは2000年以上も捕鯨を生業にしてきたマカ族に投げられた言葉だそうだ。「犬とインディアンはお断り」の張り紙が町の中心部のレストランに貼られていたという記述もある。先住民を殺し、その頭皮の一部を持っていけば報奨金をもらえた時期もあった。
7世代に及ぶこうした白人らの蛮行に耐え、生き抜いた先住民の今は、それではどうなっているのか? 20年にわたり100以上の部族を訪ねたという著者が、形を変えつつ過酷な現状が継続している事実を赤裸々につづったのが本書である。告発されるのは、差別と蔑視を引きずる白人たちやその政策のみではない。時に部族社会とそこを牛耳る人々も対象となる。その中で、物質的豊かさ重視のアメリカ的価値観に染まらず、奪われた文化・精神の再興をめざす人の姿がまぶしい。
先住民と黒人、似ているようで違う両者の社会をめぐる描写も印象に残った。(束)
エネルギー政策のイノベーション 原発の終わり、これからの社会
飯田哲也 著
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- エネルギー政策のイノベーション 原発の終わり、これからの社会
- 飯田哲也 著
- 出版社:学芸出版社 価格:1,600円
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東日本大震災と東京電力福島第1原発事故をきっかけに、多くの人は主体的にエネルギー源を選択したいと考えるようになった。原発に頼らず再生可能エネルギー(再エネ)を活用したいと言う人々がいる一方、電力不足は原発が停止しているせいだとか、再エネは発電量が不安定かつ高コストなので現実的でないと言う人々もいる。
著者は環境エネルギー政策研究所の代表であり、総合資源エネルギー調査会基本問題委員会の委員としても活躍している。震災後のエネルギー政策見直しの議論をする場だ。議題は原子力、電力システム改革、再エネなど広い範囲にわたる。
著者は再エネの活用を積極的に訴えている。具体的な政策例を示し電力供給量もコストの問題もクリアできると言う。
委員会では委員が多いこともあって発言できる時間は短い。本書は著者の主張が詳細にわかるよいチャンスであり、とても興味深い。(谷)
弱者の居場所がない社会 貧困・格差と社会的包摂
阿部彩 著
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- 弱者の居場所がない社会 貧困・格差と社会的包摂
- 阿部彩 著
- 出版社:講談社 価格:740円
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最近言及されることの多い社会的包摂。内閣府にも社会的包摂室ができたが、その社会的包摂(ソーシャルインクルージョン)とは何だろうか。社会的排除の反対の概念である。貧困であることはお金がないだけでなく、さまざまな人間関係、社会から排除される。
過去1年間に電気料金、ガス料金を滞納した経験は各4.7%、4.5%の人があるという。健康保険証をとりあげられた世帯は全国で30.7万世帯。必要な服が買えない人も5世帯に1世帯…等のデータに慄然とする。
「格差が大きい社会はすべての層の人々の状況を悪化させる」というウィルキンソンの主張を紹介。誰もが尊重され、役割があり、つながりをもち、包摂される重要性を、自らの活動体験も織り交ぜながら伝える。だがどのように社会的包摂は可能なのか。
『子どもの貧困』の著者が社会的包摂をイメージしどう実現するのかを語った、そのワークノートとして重要だろう。(衣)