漢拏山へひまわりを済州島四・三事件を体験した金東日の歳月
金昌厚 著/李美於 訳
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- 漢拏山へひまわりを 済州島四・三事件を体験した金東日の歳月
- 金昌厚 著/李美於 訳
- 出版社:新幹社 価格:1,500円
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現在、東京に住む金東日(キム・ドンイル)さんは、「済州島四・三事件」の体験者だ。1948年4月、朝鮮半島・済州島で民衆抗争が起きた時、16歳の学生だった金さんは、山で活動する組織と村の間で情報を伝達する連絡員だった。翌年、山で逮捕され、拷問を受け、光州刑務所に送致された。朝鮮戦争中は組織活動に加わり、智異山で逮捕され釈放後、一時済州島に帰るも監視される日々が続き、島を出る。やがて、叔父の紹介で結婚した男性と日本へ密航するが、旧「宗主国」での生活は苦労の連続だった。本書は彼女の半生記であり、韓日の歴史を生き抜いた「在日」女性の貴重な証言記録である。
彼女が「冷凍庫の中の凍った肉」と表現する、沈黙させられてきた四・三事件の体験とその後の人生は、凄絶で波乱に満ちている。その中で希望を失わなかった彼女の強さに感動すると同時に、日本が朝鮮半島に与えてしまった負の遺産を感じずにはいられない。(り)
マリー・キュリーの挑戦科学・ジェンダー・戦争
川島慶子 著
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- マリー・キュリーの挑戦 科学・ジェンダー・戦争
- 川島慶子 著
- 出版社:トランスビュー 価格:1,800円
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物理学者マリー・キュリーのフェミニズム的伝記かと思ったら違った。マリーやその娘、彼女たちと親交のあった女性科学者たちが置かれていた時代背景を厚く取り扱ったジェンダー科学史の本だ。 マリーと同じくノーベル賞を受賞した長女イレーヌをはじめ、母の伝記で有名な次女エーヴ、イレーヌのライバルで核分裂の概念を打ち立てた物理学者リーゼ・マイトナー、イレーヌの夫フレデリックに師事した物理学者、湯浅年子などが登場し、当時の文化や戦争に翻弄された女性科学者たちの生涯が描かれる。
欧米でフェミ的視点からの女性の伝記が出始めたのは1970年代以降。つまり、いま30代以上の人が子どものころ読んだ偉人伝はフェミ的ではない。マリーが行った研究内容や当時の物理学の状況にほとんど触れられてないのは残念だが、本書には最新のジェンダー研究からの情報がたくさんつまっている。改めて新しい伝記物を読み直してみたくなる一冊だ。(水)
- 世界の「平和憲法」 新たな挑戦
- 笹本潤 著
- 出版社:大月書店 価格:1,600円
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2008年5月の「9条世界会議」発起人の一人で、「グローバル9条キャンペーン」などにも取り組み、コスタリカの留学経験も持つ著者が、世界中で平和条項の入った「平和憲法」が誕生し、「武力によらない平和」が実現した様子や今後の平和構築のあり方を描く。
軍の独裁政治とアメリカの軍事支配により紛争の絶えなかった中南米のパナマでは1994年に軍隊を廃止し、米軍をパナマから撤退させた。2008年にはエクアドル新憲法ができ、米軍など「外国軍の軍事基地を禁止する」とした。お手本は日本の憲法9条や、軍隊を廃したコスタリカ憲法12条だった。
「平和憲法」には「独自の力」があると著者。しかし違反の事実に市民が提訴したり、積極的な外交努力を行わなければ「絵に描いた餅」に。日本は今こそ自衛隊と日米安保ありきの冷戦型思考から脱却すべきだとも。普段は弁護士として家事事件を扱い国家間紛争との類似性を見いだす著者の、憲法への気概を感じる。(登)