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ふぇみんの書評

老人の美しい死について

朝倉喬司 著

  • 老人の美しい死について
  • 朝倉喬司 著
  • 出版社:作品社 価格:1,880円
 「週刊現代」記者時代から、犯罪ルポなどいわゆる〝事件もの〟を得意としノンフィクションで評価を得てきた著者が、ずいぶん挑発的なタイトルの本を出した。
 ところが、本書はその書名ほど「死」をテーマにはしていない。語られるのは、「三人の明治の人の『筋の通った』生死」であり、「美しき生と死」だ。実直に脇役を務め上げた84歳の歌舞伎役者(8代目市川団蔵)、家族を守るため働きづめに働いた64歳の農婦(木村セン)、『資本論』の名翻訳者である79歳のマルクス主義者(岡崎次郎)。3人に共通するのは「自らの仕事を天職と心得て、心に秘めた強い意志をもって生き抜き、最後は見事にその〝生〟に決着をつけた」こと。
 オウム真理教事件の時に著者がうっすらと直感的に感じた、生きることの意義や意味が蒸発した「生の空洞化」は、今や社会全体を覆うまでに増進して自殺者も減らない。他方で、「老人」を一方的な保護の対象や社会が抱えた厄介な部分と見なすような政策や風潮。そんな今の社会にぶつけるように書かれた強烈な「老人の生と死」。事件記者の気概が伝わってくる。(か)

風の巻く丘

マリーズ・コンデ 著/風呂本惇子ほか 訳

  • 風の巻く丘
  • マリーズ・コンデ 著 風呂本惇子ほか 訳
  • 出版社:新水社 価格:2,800円
 この小説の作者は、1937年、カリブ海の裕福な黒人家庭で生まれた。家庭ではクレオール語を話すことを禁じられ、仏式の仏語を話すようしつけられたという。
 エミリ・ブロンテの『嵐が丘』を下敷きに書かれた本書が、単なるパロディーにとどまらず、全く別の物語として命を吹き込まれているのは、カリブ海独特の歴史と地域性を背景に持つ人々の、強烈な存在感だ。
 主要人物だけではない。前半部に登場し、主人公の生い立ちを語る使用人ネリーをはじめ、乳母、魚売りの女、インドからの移民労働者たちの誰もがみな、それぞれの生き様を通し、人種・階級差別のもとで妊娠・出産、性というものが、いかに暴力や支配の犠牲になったかということや、植民地支配の傷跡が残る社会の様相を生々しく語る。その意味で、本書は女たちが語る、カリブの歴史とも言える。
 一方、物語に登場する男たちはみな、階級闘争と愛憎劇の中で無力化し、自滅に追い込まれる。
これは、富、白人文化、支配、父性といったものに対する作者の冷めた視線のあらわれと見てとることができるのではないだろうか。(梅)

父とショパン

崔善愛 著

  • 父とショパン
  • 崔善愛 著
  • 出版社:影書房 価格:2,000円
 ピアニストとして演奏活動をしながら、「平和と人権」をテーマに各地で講演を行っている、在日三世である著者は、21歳の時、外国人登録法の指紋押捺を拒否。裁判で闘い、再入国不許可のまま米国に留学し、日本から永住権を剥奪された経験を持つ。
 本書では「二度と戻れないかもしれない」と祖国を離れた、牧師であった亡き父親(崔昌華)やショパンと、自分の人生を重ねて語っている。
 日本からの解放後、キリスト教徒という理由でソ連軍による弾圧を受けた父親は1954年、祖国朝鮮を離れ、異国日本で、奪われた民族の人権の回復を求め、一生闘った。「日本人に同化するなと言われると、生きること自体が罪であるかのようにつらく、父親のつきつける『民族性』に苦しんだ」という著者の言葉が胸を打つ。日本人にも朝鮮人にもなれない自分を白紙に戻したいと、日本を出て留学。著者は永住資格の問題などから、国家・民族とは何かを突き詰め、祖国を離れた音楽家たちの人生に思いを馳せる。
 音楽も社会と切り離せないものということを強く感じ、人の尊厳を奪う国家とは何なのかを考えさせられた。(り)
【 新聞代 】(送料込み)
 1カ月750円、3カ月2,250円
 6カ月4,500円、1年9,000円
【 振込先 】
 郵便振替:00180-6-196455
 加入者名:婦人民主クラブ
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