- おカネが変われば世界が変わる
- 田中優 編著
- 出版社:コモンズ 価格:1,800円
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現在経済危機がどこまで広がるか不安が高まっている。でも、おカネの循環の範囲が小さければ影響は小さいはず。
ゆうちょなどの銀行に預けたおカネが原発や道路に使われてしまうのなら、もうひとつのおカネの流れをつくろう、という動きが現実化してきている。市民がつくるバンク、NPOバンクだ。
本書は15年の歴史ある未来バンクから、最近の日本のNPOバンクまでを取り上げ、さらに世界に広がるNPOバンクを取り上げる。
NPOバンクはどのようにつくるのか。出資者の集め方は、関連の法律は、融資の審査は、返済のリスクを避けるには、など非常に実践的だ。
日本のNPOバンクは消費者金融の規制強化のあおりをくらい、監査や登録などで規制を受けるようになったため、配当しないことで適用の除外を求めた。日本ではまだNPOバンクの認知度が低い。
北海道NPOバンク、女性市民信用組合設立準備会などを紹介。ほか様々なNPOバンクが生まれてきた。多重債務者の救済のためのいわてNPOバンク、生活サポート生活協働組合・東京などが興味深い。(赤)
- 聖母像の到来
- 若桑みどり 著
- 出版社:青土社 価格:3,400円
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西洋美術史学者であった著者は、フェミニスト活動家としても発言し行動するなど、そのパワフルな姿に勇気づけられた人も多かった。本書は、若桑さんの博士学位請求論文であり、この論文を提出直後に倒れ、惜しくも急逝した。
16世紀にイエズス会のザビエルとヴァリニャーノが日本での布教活動の際、日本人が聖画を大変好んだので、それを供給するためにセミナリオで司祭と絵画制作の技術者の養成を始めた。
著者は、日本でのキリスト教美術の受容の様態を①布教初期―画像輸入時代 ②布教中期―画像制作時代 ③禁教・迫害・潜伏期―変装・変容時代、と特徴づける。
弾圧と破壊から生き延びた、二つの《聖母十五玄義図》は日本人の手によって描かれたことが証明される。また潜伏したキリスト教徒にとって《聖母観音》は、観音像が聖母像の代替ではなく、変容した独自の聖母像として信仰の対象となったという。
全編220点という図版が駆使され、若桑図像学により、日本キリスト教美術が世界史の中に位置づけられていく面白さを体験することができる。(ふ)
- 赤ちゃんを産む場所がない!?
- 阿部知子 編著
- 出版社:ジャパンマシニスト社 価格:1,300円
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産婦人科医不足、相次ぐ産科の閉鎖、救急時の搬送拒否…タイトルにある「産む場所がない」は本書にも寄せられた、多くの妊婦が困惑した揚げ句に発した言葉だ。なぜこのようなことが起きたのか。衆議院議員で小児科医の阿部知子さんが今の産科医療の現状と原因、今後の提案をまとめた。
産科の現状はいくつもの原因が複合したもの。したがって著者の提言も多岐にわたる。助産師と医師との役割分担や関係のあり方、助産院や診療所と大病院の役割分担とネットワークづくり、女性医師が働き続けられる現場づくり、医療事故の補償など医療界全体がかかわる問題など。また産科での出産が火曜日の昼間に多いという表を示し、陣痛促進剤や帝王切開を多用する今日の産科医療の在り方を変えるためにも分娩を健康保険適用する必要性を説く。
ほかに岩手県遠野市など地方自治体独自の先進的な取り組みなども紹介。また「子宮と地球にやさしい病院」で知られる東京・まつしま病院の産婦人科医、佐々木靜子さんらとの対談もある。
現状分析と提案が簡潔に示された処方箋がここにある。(登)