1992年3月12日に一坪反戦地主が建設大臣に提起した審査請求の裁決書。裁決日は1998年4月7日


                      建設省経収発第273号の2

                       平成10年 4月 7日 

審査請求人

上原成信 殿

                         建設大臣 瓦  力

裁決書の謄本の送付について

 平成4年3月5日付で貴殿が提起した審査請求に対して裁決を行ったので、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第42条第2項の規定により裁決書の謄本を送付する。


                        建設省経収発第273号

裁 決 書

 審査請求人

 上原 成信

 上記審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成4年3月5日付けで提起した審査請求について、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第40条第2項の規定に基づき、次のとおり裁決する。

主文

審査請求を棄却する。

事実

1.審査請求に係る処分

 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法(昭和27年法律第140号。以下「駐留軍用地特措法」という。)第14条において適用する土地収用法(昭和26年法律第219号。以下「法」という。)第47条の2に基づき、沖縄県収用委員会(以下「処分庁」という。)が平成4年2月12日付けでした権利取得裁決及び明渡裁決(平成2年(権)第14号、平成2年(明)第14号、以下「本件処分」という。)

2.審査請求の趣旨

 本件処分を取り消すとの裁決を求める。

3.審査請求の理由

 請求人が主張する審査請求の理由の要旨は、次のとおりである。

(1)請求人は、法第43条第1項の規定により意見書を提出しており、さらに公開審理において意見陳述する旨申し入れておいたにもかかわらず、処分庁はその機会を保障しないまま審理を打ち切った。しかも、既に決定されていた期日を一方的に取り消し、審理を打ち切り、裁決を強行したため、口頭意見陳述の機会のみならず文書による意見提出の機会も奪われた。本件処分は、意見陳述の機会を不当に奪ったままなされたもので取消しを免れない。

(2)本件土地には補償対象となる物件がないとされているが、地主はこれを確認する機会が与えられず、処分庁は、地主に現地立入りを保障すると合意しながら、これを一方的に破棄して裁決を強行した。本件処分が地主の現場立会もなく作成された土地調書及び物件調書に基づいてなされたもので、これらには虚偽の事実が記載されている可能性が強く、取消しを免れない。

(3)普天間基地は、国際連合の軍隊(以下「国連軍」という。)も使用している事実があるにもかかわらず、裁決書主文の2(土地の使用方法)において、「日本国に駐留するアメリカ合衆国軍隊の飛行場地区の進入灯敷地として使用する」とし、同裁決書の理由第4(裁決申請の違法について)において、「国連軍が使用しているとの明らかな事実は認められない」としているのは、明らかな事実誤認である。

(4)駐留軍用地特措法及び同法に基づく裁決申請は憲法に違反し、本件処分は取消しを免れない。

(5)駐留軍用地特措法第14条において、土地収用法第5章第1節は適用除外されている。したがって、処分庁には駐留軍用地の使用又は収用についての裁決権限はない。

(6)収用委員会の構成委員に不適格者がいるのではないか。不適格者のいる収用委員会のなした本件裁決は違法無効である。

               理由

1.審査請求の理由(1)について

 法第43条第1項においては、土地所有者等は裁決申請書の公告があったときは、その縦覧期間内に収用委員会に意見書を提出することができ、また、法第63条第1項においては、損失補償に関する事項を除き、同法第43条第1項の規定により提出した事項について、これを説明する場合に限り、審理において意見書を提出し、又は口頭で意見を述べることができるとしている。これらの趣旨は、審理の促進を図るため、損失補償以外の事項についての当事者の発言が無用に又は不当に審理を長引かせることを防止することにより、収用委員会の中心的な職責である損失補償に関する事項に審理を集中させることにあり、審理においては、提出した意見書に記載した事項を説明する場合に限って、意見書の提出又は口頭の意見陳述等ができるにすぎない。

 さらに、法第64条においては、収用委員会の審理手続について収用委員会会長に審理指揮権を与えるとともに、土地所有者等が述べる意見等が既に述べた意見等と重複するとき、裁決の申請に係る事件と関係がない事項にわたるときその他相当でないと認めるときは、これを制限することができることとし、審理の合理的かつ能率的な進行を図っている。

 これらの法の趣旨を総合的に勘案すれば、収用委員会の審理においてどこまで意見陳述を許すかなど具体的な審理の進め方に関すること、あるいはいかなる時期に審理を終結させ、裁決を行うかということについては、全て収用委員会の裁量に属するものと解される。

 本件についてみると、請求人は、法第43条第1項に規定する意見書を提出したと主張するが、その概要は、(1)今回の強制使用の裁決申請は、憲法前文、第9条、第14条、第29条、第31条等に違反する違法、不当なものである、(2)具体的には公開審理の場で陳述を行う、などというものである。

 そこで、処分庁は請求人らの意見も踏まえながら、延べ8回の公開審理を開催し、請求人らに対し期日及び場所の通知を行い、請求人らに公開審理に参加し意見を述べる機会を与えるとともに、述べられた意見に対し、必要に応じ自らの見解を示し、あるいは関係者に説明を求めるなど適正な審理の進行に努めたことが認められる。そして、請求人らからは、審理の中心である損失補償に関する事項についても具体的に意見が述べられたことから、処分庁はこれ以上の有効な主張はないものと判断し、審理を終結し、それまでの審理と職権による現地調査の結果等に基づき裁決を行うに至ったものであり、その判断は合理的な裁量の範囲内であったと認められ、本件処分に違法、不当はない。

 よって、請求人の主張は失当である。

2.審査請求の理由(2)について

 法第36条第2項の規定によれば、土地調書及び物件調書を作成する場合には、防衛施設局長(以下「起業者」という。)は、土地所有者等を立ち会わせた上、これらの調書に署名押印させなければならないこととされている。これは、法第38条の規定に基づき、法の定める手続により作成された調書の記載事項に対し、起業者、土地所有者等はその真否について異議を述べることはできないという効力(以下「推定力」という。)が発生することによるものであるが、法第36条第2項でいう土地所有者等の立会は、調書作成の全過程で、土地所有者等に立会の機会を与えることを要求しているものではなく、調書が有効に成立する署名押印の段階で、調書を土地所有者等に現実に提示し、記載事項の内容を周知させることを求めているものと解するのが相当である。

 また、土地所有者等は調書の記載事項が真実でないと認める場合には、調書に、法第36条第3項に基づき、異議を附記して署名押印することができ、これにより、調書の推定力を排除することができる。調書への署名押印の際に土地所有者等が異議を附記した土地及び物件については、起業者が審理手続の中で調書の記載事項が真実に合致することを立証する責務を負うが、収用委員会は自ら職権により、調査を行い真実の把握に努めることを妨げるものではない。

 さらに、土地所有者等が調書への署名押印を拒んだ場合又は署名押印することができない場合には、法第36条第4項に基づき、起業者は市町村長の立会及び署名押印を求めなければならないこととされ、市町村長が署名押印を拒んだ場合には、法第36条第5項に基づき、起業者からの申請により、都道府県知事は当核都道府県の吏員に立会及び署名押印させなければならないこととされている。これらの場合においても調書には推定力が与えられ、土地所有者等はその記載事項の真否について異議を述べることはできなくなるが、同条但書に基づき、土地所有者等は法第63条による収用委員会の審理における意見書の提出又は口頭の意見陳述等によって、調書の記載事項が真実に反していることを立証することができる。

 本件についてみると、土地調書及び物件調書には、異議を附記して代理人の署名押印がなされており、調書に推定力は発生していない。しかしながら、処分庁は、法第65条第1項第3号に基づき、自ら職権により、平成3年11月12日、現地調査を実施し、調書の記載事項が真実に合致することを確認していることが認められる。

 この現地調査に関し、請求人は、調書の記載事項の真否を確認するため、自らが現地に立ち入り、現場確認すべきことを主張しているが、これは法第63条第3項に基づく「土地若しくは物件を実地に調査すること」の申立てを行ったものと見受けられる。しかしながら、一般的に、法第63条第3項に基づく申立てに対しては、収用委員会は当該申立てが相当であると判断される場合に限ってこれを認め、土地所有者等の現地立入りを含めて法第65条第1項に基づき必要な処分を行えば足り、その採否については広範な裁量権が付与されていると解される。本件において処分庁が請求人の申立てを認めなかったのは、上記のように処分庁が職権によって現地調査を実施し、所期の目的を達成することができたため、請求人の申立てによる現地立入りはもはや不要であると判断したものであり、その判断は処分庁の裁量の範囲内のもので、何ら違法、不当はない。

 よって、請求人の主張はいずれも失当である。

3.審査請求の理由 (3)について

 請求人は、国連軍が普天間飛行場を使用していることから、本件裁決申請が日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安全保障条約」という。)を根拠とする使用目的を逸脱すると主張するが、日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定第5条第2項に基づき、国連軍は、日本国政府の同意を得ることにより、日米安全保障条約に基づいてアメリカ合衆国の軍隊(すなわち、本件でいう駐留軍)の使用に供せられている施設及び区域を使用することができることとされている。そして、昭和47年5月15日に、この同意がなされており、普天間飛行場は、日米安全保障条約に基づき駐留軍の使用に供せられている施設及び区域であることから、駐留軍に対して認められている使用目的の範囲内で国連軍が普天間飛行場を使用しても、何らの違法を生じるものではない。

4.審査請求の理由(4)について

 条約及び法律は、国権の最高機関たる国会によって合憲と判断された上でそれぞれ承認され、成立したものであり、それ自体合憲性の推定を受けるところ、行政機関は、それに基づき所管する業務を執行する機関である。収用委員会は、準司法的機能を有するとはいえ、行政機関であるから、個々の法律を違憲と判断する権限を有しないものというべきである。

 よって、請求人の主張は失当である。

5.審査請求の理由 (5)について

 土地収用法においては、土地等の収用又は使用について裁決をなす権限を定めた第4章第2節をはじめとし、その随所に収用委員会の権限の定めがあり、これらの規定は駐留軍用地特措法第14条第1項によって、同法第3条の規定による土地の使用又は収用の場合にも適用されることから、収用委員会は、駐留軍用地特措法による場合にも当然、土地収用法の定める権限を有するものである。仮に、駐留軍用地特措法第14条第1項において、土地収用法第5章第1節の規定の適用を除外しなければ、同法第51条において「この法律に基づく権限を行うため、都道府県知事の所轄の下に、収用委員会を設置する。」と規定されている以上、駐留軍用地特措法第3条に基づく権限を行うため、更に別個の収用委員会を設置する結果にならざるを得ない。

 駐留軍用地特措法第14条第1項が土地収用法の適用に当たり特に収用委員会を設置することを主たる内容とする土地収用法第5章第1節の適用を除外したのは、このような制度上の重複矛盾を避けようとしたことによるものであって、本件について処分庁が裁決権限を有することは論を俟たない。

 よって、請求人の主張は失当である。

6.審査請求の理由(6)について

 収用委員会の委員の除斥事由は、法第61条第1項に規定されているところであるが、処分庁の構成委員が法定の委員の除斥事由に該当するとは認められない。

 よって、請求人の主張は失当である。

 以上、請求人が主張する審査請求の理由は、いずれも本件処分を取り消す理由にはならない。

 よって、主文のとおり裁決する。

           平成10年4月7日        

             建設大臣  瓦   力       


 資料提供:「沖縄・一坪反戦地主会 関東ブロック」上原成信

 テキスト化:仲田博康



沖縄県収用委員会・公開審理][沖縄・一坪反戦地主会 関東ブロック