会長コメント

 本日の収用委員会において、平成8年3月29日に起業者那覇防衛施設局長から裁決申請のあった伊江島補助飛行場ほか12施設のうち嘉手納飛行場にかかる申請において、平成9年3月11日に地主より土地所有者を誤っているとの申立があり、当収用委員会で先例、判例、学説等検討してまいりましたが、本件申請については、駐留軍用地特措法及び土地収用法等関係法令に照らして審査した結果、一部却下することを決定しました。

 なお、却下の理由等については、裁決書記載のとおりであります。

         平成9年5月9日       

      沖縄県収用委員会      

         会長代理 当山尚幸     


裁決書

日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びこ日本国におげる合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法に基づく使用裁決申請事件

(嘉手納飛行場)

沖縄県収用委員会


平成8年(権)第8号  

平成8年(明)第8号  

裁決書

(嘉手納飛行場)

起業者 那覇市久米1丁目5番16号

    那覇防衛施設局長 嶋口武彦

土地所有者 静岡県清水市

 (略)

 平成8年3月29日付け裁決申請及び明渡裁決申立てのあった、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法に基づく使用裁決申請事件(嘉手納飛行場)について、次のとおり裁決する。

 なお、この裁決に不服がある場合は、裁決書の正本の送達を受けた日の翌日から起算して30日以内に建設大臣に対し審査請求をすることができる。


 主文

起業者の申請はこれを却下する。

なお、却下する部分は下表のとおりである。

所在

実測面積(m^3)

土地所有者

持分

嘉手納町字東野理原350番地

590.20

石原○○
石原○○
石原○○
石原○○

6,264分の3
6,264分の1
6,264分の1
6,264分の1

事実

第1 起業者の裁決申請及び明渡裁決申立並びに補正の申立について

1 起業者は、平成8年3月29日、当収用委員会に対し、日本国に駐留するアメリカ合衆国軍隊の用に供する土地の使用権原を取得するため、嘉手納飛行場内にある沖縄県中頭郡嘉手納町字東野理原350番、地目、宅地、実測面積590.20平方メートル(以下「本件土地」という。)について、土地収用法第40条第1項及び第47条の3第1項に定める書類を添付のうえ、裁決申請及び明渡裁決申立(以下「本件申請」という。)をした。これに対し、当収用委員会は、平成8年6月6日にこれを受理し、同年10月24日、裁決手続開始の決定をした。
 
(なお、同法第40条及び第47条の3は、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法(以下「駐留軍用地待措法」という。)第I4条によって、同法に基づく裁決申請等がなされる場合に適用される規定である。裁決申請等をなすにあたって検討する土地収用法の各規定も全て同様であるから、以下においては特に断りを付さないこととする。
 また、駐留軍用地特措法第14条第2項の規定に基づく同法施行令4条により字句の読み替えがなされているので、同条所定の読み替えを行ったうえで、土地収用法の検討を行うこととする。)
 本件申請に必妻な前記添付書類のうち、同法第40条第1項第2号及び第3号所定の書類並びに第47条の3第1項第1号及び第2号所定の書類には、本件土地の共有者として1,120名の氏名及び住所の他、下記4名の氏名及び住所が記載されていた。

 静岡県清水市(以下略)

 石原正一(昭和61年9月19日死亡)の法定相続人

 (略)

2 起業者は、平成9年3月21日、当収用委員会に対し、前記石原正一(以下「亡石原正一」いう。)の前記法定相続人4名に替えて、新たに石原正一(以下単に「石原正一」という。)(往所、静岡県清水市(以下略))に係る補正の申立てをした。
 理由は、本件申請書等に亡石原正一の法定相続人4名を共有者として記載したのは、亡石原正一を本件土地登記薄謄本に共有者として記載されている石原正一と誤認したためであり、真の共有者は石原正一であって、亡石原正一は本件土地の共有者となったことがなく、したがって、同人の法定相続人4名もまた共有者ではないからというものであった。

第2 起業者の説明による誤認の理由

 起業者によって当収用委員会に提出された疎明書及び平成9年3月27日開催の公開審理における起業者の説明によれば、誤認の生じた理由はおよそ次のとおりである。
1 本件土地は、昭和59年9月、いわゆる一坪共有地主約820名の共有となった。このため、起業者は本件土地について、共有権の移動、共有権者の住所の移転等を把擢するため、土地登記薄謄本、住民票、戸籍謄本等の交付を受けるなどして、継続的に確認調査を行ってきた。
2 本件土地の真の共有者である石原正一について、昭和62年3月30日、売買を原因とする共有権移転登記手続きがなされた(なお、本件土地については、本件申請と同様の申請に対し、昭和62年2月24日に裁決がなされたが、その前昭和60年l l月14日に裁決手続開始の登記がなされていたため、同人は同裁決の名宛人となっていない〉。
3 そこで、起業者は、第2の1により交付を受けた登記薄の記載に基づき、清水市に対し、氏名石原正一、住所静岡県清水市(略)と記載して同人の住民票の交付を依頼したところ、同市から氏名石原正一、住所静岡県清水市(略)は、昭和6I年9月19日に死亡した旨記載された昭和62年10月I2日付住民票除票が送付されてきた。
4 起業者はその後、住民票除票に記載された亡石原正一の戸籍謄本を取り寄せて同人の法定相続人を調査し、亡石原正一の前記法定相続人4名を調査対象者として調査確認のうえ、本件申請をした。
5 ところが、本件申請後、石原正一と亡石原正一は別人であること、本件土地の真の共有者は石原正一であって、亡石原正一の去定相続人4名は本件土地に関し全く権利を有していないことが判明した。

第3 当収用委員会の調査により判手した事実

 当収用委員会において調査したところ、前記第2の事実が間違いないことの他、次の事実が判明した。
1 石原正一は、那覇地方法務局嘉手納出張所昭和62年3月30日受付第2115号をもって、本件土地について持分1,044分の1の共有名義を取得した。
2 起業者は、石原正一についてはもちろん、亡石原正一についても戸籍附票の取寄せをしていない。
3 亡石原正一について、起業者は本件申請後、ようやく平成8年11月5日付の戸籍附票の取寄せをした。

理由

第1 本件申請の法律違反

1 土地収用法によれば、起業者が収用委員会に裁決を申請するときは、同法40条第1項第1号に定める書類の他、第2号及び第3号に定める書類を裁決申請書に添行しなければならない。本件申請においても裁決申請書に第2号及び第3号に定める各書類が添付されていることはもちろんである。しかし、当該第2号に定める書類には前記のとおり亡石原正一の法定相続人4名の氏名及び住所が記載され、真の権利者である石原正一の氏名及び住所が記載されていない。第3号に定める書類についても同様である。本件申請には、すでにこの点において瑕疵がある。瑕疵はそればかりではない。同法第36条第2項によれば、第3号に定める書類を作成する際に所有者に立会いをさせなければならないのに、起業者は、石原正一に立会いをさせていない。
 なお、第47条の3第1項第1号及び第2号に定める書類についても同様である。
2 起業者は、前記疎明書において、誤った住民票が送付されてくることまでは予想せず、送付されてきた住民票の記載をそのまま信じたことが誤認の原因である旨釈明する。
 しかし、右住民票除票では、亡石原正一の死亡年月日は、昭和61年9月19日となっており、一方、本件土地の登記簿謄本では、石原正一の名義の登記がなされた年月日は昭和62年3月30日となっていて、両者の関係はきわめて不自然である。それを思えば、たとえ誤った住民票が送付されてくることを予想していなかったとしても、それをそのまま真の権利者の住民票と信じたのは軽率である。これに加え、戸籍附票を確認すれば容易に避けられる誤認であったことを考慮すれば、誤認したことについて起業者に過失があったことを否定することはできない。
3 本件申請の添付書類には前記瑕疵がある。そして、その瑕疵は起業者の過失によるものであった。一般に裁決申請に起業者の過失による瑕疵がある場合、当該申請は、違法な申請として、土地収用法第47条により却下の対象となる。本件申請も上記と同様却下の対象となることを免れない。

第2 起業者の補正申立に対する判断

1 起業着は、本件申請に存する違法が土地収用法第47条の却下要件に該当するにもかかわらず、本件申請の補正申立てをし、これまでの手続きを続行するよう求めるので、当収用委員会は前記のとおり原則却下と考えるが、補正を認める特別の事情があるか検討する。
2 起業者の主張する理由は次のとおりである。
(1)公告・縦覧が適正になされている以上、真の権利者及び関係人には意見書提出の機会は与えられており、その権利保護に欠けるところはない。
(2)真の権利者等の権利保護に欠けるところがないにもかかわらず、それ以前の手続きにおける軽微な瑕疵を理由に本件申請を却下することは、公共のために必要な土地について迅遠な収用手続の確保を旨とする法の趣旨にもとる。
3 当収用委員会は、土地収用法に基づく収用あるいは使用の場合であれば、起業者の見解も一理あることを否定しない。しかし、本件申請は、駐留軍用地特措法に基づくものである。
 同法に基づく本件申請の補正を認めることが妥当であるか否かという問題と土地収用法に基づく裁決申請の補正を認めることが妥当か否かという問題とは同一ではない。理由は、前者においては下記の点を考慮して起業者と真の権利者との間の利益衡量をしなければならないのに対し、後者こおいては、その点は考慮の余地がないからである。
(1)駐留軍用地特措法第7条第2項は、防衛施設局長は内閣総理大臣から使用認定の通知を受けた後、速やかに土地所有者及び関係人に通知すべきことを定めている。通知を受けることにより土地所有者及び関係人は、速やかに、しかも、確実に使用認定のあったことを知ることができ、使用認定に対する不服申立ての機会を確保するうえで、使用認定の告示に優る事実上の利益を受けることになるのである。しかし、もし仮に、真の所有者を誤認した場合でも補正が認められるとすれば、真の所有者及び関係人から結局このような利益を奪うことになる。
(2)駐留軍用地特措法第I5条第1項第1号によれば、裁決申請が却下されたときでも一定の期間裁決申請の対象となった土地等を使用することができるとされており、裁決申請が却下された場合でもある程度公益が確保される方途が講じられている。
4 駐留軍用地特措法に基づく本件申請の補正を認あた場合、前記(1)の事情により、石原正一及び関係人の利益は損なわれ、一方、補正を認めず却下した場合でも、前記(2〉の事情により起業者に生じる不利益は軽減される。以上によれば、補正を認めることが石原正一及び関係人の利益を損ねる反面起業者の利益に偏するすることになることは明らかである。
 当収用委員会としては、本件申請を却下せざるを得ない。

第3 却下の範囲について

 本件申請には亡石原正一の法定相続人4名に係る部分に瑕疵がある。この瑕疵は土地収用法の却下要件に該当する。しかも、前記したように補正を認めることは妥当でない。しかし、瑕疵のあるのは亡石原正一の法定相続人4名に係る部分だけであり、ほかの共有者との関係では瑕疵はない。
 共有持分については、一部共有持分だけを裁決申請することも認められるし、また、一部共有者だけの裁決申請を取下げることも認あられる。したがって、本件申請では瑕疵ある部分のみを却下する。
 よって、主文のとおり裁決する。

 平成9年5月9日

 沖縄県収用委員会

会長代理 当山 尚幸 印
委  員 西  賢祐 印
委  員 高良 有政 印
委  員 大城 宏子 印
委  員 比嘉  堅 印
委  員 渡久地政實 印




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