『NHK腐蝕研究』(2-2)

《あなたのNHK》の腐蝕体質を多角的に研究!
《受信料》強奪のまやかしの論理を斬る!

電網木村書店 Web無料公開 2003.11.6

第二章 NHK《受信料》帝国護持の論理 2

ちょっと“低次元”ですが……

 しかし、数字こそが全てである。そういい切っていいほど、数字は重要なのだ。だからこそ、新井直之自身も、ちょっとした掛け算をやってみせたのではないか。高度成長期の池田勇人首相や、部数だけ“世界一”を誇る読売新聞の務台光雄社長が、ともに詳しい数字をベラベラまくしたてる能力をお持ちだったのは、偶然の一致ではない。

 そんなわけで、池田勇人なみの暗記能力もない自分に合わせて,ボチボチ数字を整理してみたい。ひとまとめにしておけば、何かの役に立つだろう、と思い立ったのが運のつき。大変なジャングルに踏み込んでしまった。さすがはNHK。毎年一回の国会審議もくぐり抜けねばならぬこととて、ガードは固い。仕掛けは複雑怪奇。“芸術的”でさえある。ただし、こちらにも、雑種動物的な嗅覚がある。

 「局内でささやかれる話では、地方ではともかく、大阪ではNHKの受信料を支払っているのは該当数の約五十パーセント、東京でも六十パーセント以下であるという」(『現代』’76・5)

 これが五年も前の話。執筆者は、伊勢源三郎(NHK職員・仮名)となっている。「巨大NHKを内部告発する」というタイトル。自筆かどうかは確かめようがないが、内部事情に詳しいレポートであることは、比較すればよくわかること。これを信じて、あらゆるデータの裏をかぎまわるのだ。

 まず、現在の状況を整理してみよう。

 NHKの公式発表は、見事な二枚舌になっている。昨一九八○年の受信料値上げに向けて、第二次NHK基本問題調査会(中山伊知郎会長=故人)を通じての発表があった。この“調査会”そのものもあやしいが、受信料問題で一番大きな紙面を使ったのは、大手では『東京新聞』だけのようだ。そこでの収納実態についての要約は、こうなっている。

 「――受信料値上げの落とし子、不払い世帯の増加はNHKにとって頭が痛い。前回値上げ時には『無理解』(営業総局)による不払いが一挙に倍近く増え、五十三年度上半期には二十六万世帯に達した。意図的な『不払い』ではなく『常時不在』の滞納組約五十四万件などを合わせると、不払い世帯は全部でざっと九十万世帯、七十五億円」(『東京新聞』’79・5・28)

 これには、「労使の言い分」というコーナーがあり、「NHK労組本部書記長奥田良胤氏」の談話もあるが、受信料の数字にはふれていない。

 ところが、翌年には『毎日新聞』の投書欄での読者の追及に答えて、「NHK営業総局業務推進部 担当部長 塩田敏男」の名前入りの説明が載った。そこには、こうある。

 「NHKの受信契約は全国で約二千九百万にのぼり、受信料制度は大多数の国民の皆さんの支持を得ていると考えています。全国の世帯の一割が不払いとのことですが、常時固定的な不払い者が一割もいるということではありません。激しい世帯の移動にともない、一時的に未契約の世帯が常にこの程度発生するということです。つまり、初めて生まれた世帯(年間七十万)が契約するまでの間、転居先不明だった世帯が転居先で再び受信料を払い始めるまでの間(年間の転居世帯三百万)、また、単身や共働きで不在の日が多く面接できない世帯など、一時的に受信契約がされない世帯が発生しては順次契約されていくという経過をたどっているわけです」(『毎日新聞』’80・3・14)

 こういう最近の発表記事の特徴を一言でいうと、NHKのいう「受信契約数」と比較すべき日本全国の「世帯数」とか、「テレビの設置台数」とかを、まったくあげないことである。それを追求せず、“たれ流し”の報道をする新聞も新聞。

 しかし、一番恐ろしいのは、NHK一万七千人の“沈黙”の共犯である。そして噂の日放労は、組合の“班会”とやらで、受信料問題で個人的発言をしないよう、組合方針の“徹底”を図っているという。これを民放に引き直せば、民放労連(日本民間放送労組連合会・一万人)の組合員は、CM収入に反対するなとか、資本主義に反対するなというところまで行きつく。

 資本主義国ニッポンの国民が、資本主義にでも現行憲法にでも、反対なら反対といえるのが、言論の自由ではないか。NHK職員だろうが、日放労の組合員だろうが、受信料制度に疑問を持つのは自由のはずだ。それを、こともあろうに、労働組合の方針で箝口令を敷くとは、恐れ入った話。しかも、そのような労働組合を使っての言論統制は、証拠上からも明らかなのである。

 昨年九月一日付『日放労』(機関紙)は、「80年代中期方針(案)」となっている。いわゆる「議案書」だが、過去五年間の総括と、今後五年間の運動の基調方針。しかし、そのどこにも、受信料収納率の実状は報告されていない。あるのは、当局発表の数字だけ。

 「受信契約数 二千八百二十四万一千
  不払い者数     九十八万四千
          (八○年三月末)

 放送の自由をまもるのに十分な巨大さである。このたたかいによって、われわれはまたこの人たちと契約の誇りをもてることになった」

 またも“上田語録”風の美文調だ。同じ議案の地方報告のなかには,すでにふれたように、「収納率低下の現実の前に視聴者にはむしろおろおろしてしまう」という、率直な悩みが訴えられている。そういう現場の労働者が、本気でNHKの将来を考えるというのなら、そして、国民一人一人の“放送時間請求権”を保障してくれるというのなら、受信料の一口や二口は出す気になるのだが……。真実を隠す美文には共感できるわけはない。

 数字に偽りがあって、なんで“誇り”を持てるのか。NHK当局さえ増大を認める「無理解」の拒否者が“少数派”だから、それは無視するのか。労働組合の真の“誇り”は、少数者の民主的権利をも保障し、貧しいものの“真実”を守り抜くところにあるのではないか。


(2-3)意識的不払い者の激増と数字のカラクリ