ブッシュの対イラク攻撃準備と国際情勢(]X)
日本のマス・メディアと対イラク戦争−−−−−−−−
ブッシュ政権に同調し対イラク戦争を煽り始めた日本のマス・メディア

2002年12月27日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局


 広河隆一氏は、最新号のオンライン・マガジン「HIROPRESS.net」(Wed, 25 Dec 2002)で、イラクの「申告書」に対する評価をめぐって朝日新聞が12月21日付の社説で「イラク政府は恐れよ」と恫喝したことを批判し、「朝日は恐れよ」と切り返した。全く同感だ。ブッシュの違法で何の正当性もない対イラク侵略戦争をいさめるのではなく、逆にイラクの政府と民衆にブッシュと一緒に襲いかかったのである。読売も産経もびっくりだろう。
 もちろん問題は朝日だけではない。イラクの「申告書」を「重大な違反」と決め付けた米パウエル国務長官の発言を全てのマスコミが大きく取り上げ、イラク攻撃で足並みをそろえたのだ。私たちはブッシュ政権の勝手な言い分「重大な違反」の垂れ流し報道は“ジャーナリズムの死”とは言えまいか、そういう観点から、対イラク戦争準備と世論操作の先兵になった日本のマス・メディアを批判しようと思う。
    http://www.hiropress.net/



(1)報道陣、ジャーナリスト各位に良心の有無を問う。
 私たちは報道陣各位に対し、ジャーナリストとして良心の一片があるか否かについて、一人一人に問いたい。確かにパウエルはイラクの申告書について「重大な違反」と表明した。しかし、それがどうしたというのか?それが10年以上にわたる制裁で疲弊し荒廃した国にアメリカが一方的に侵略する根拠になるのか?何の罪もないイラクの子どもたちや一般民衆を大量に殺す根拠になるのか?

 ブッシュの対イラク戦争は、アメリカという国がイラク民衆をどんな残虐な形で、どれほど多く殺すかを私たちの前に明らかにするだけではない。多大な犠牲者の屍の上にようやくにして闘い取られた国際法をどんな形で打ち破るかを示すだけでもない。日本と世界のマス・メディアが、結局はその無法で非道な侵略戦争にどんな恥ずべき形で加担したか、その良心を問う分水嶺でもある。

 日本と世界のマス・メディアの責任は重大である。ロサンゼルス・タイムズは伝えている。72%の米国民が、現在のブッシュ政権が示す証拠ではイラクを攻めるのに不十分である、国連の承認なしに単独で攻撃することに反対する人々が68%にまで増えている、と。米国民の好戦的意識はゆっくりとだが着実に変化している。だからこそブッシュとパウエルは、どこまで国連を巻き込むか、確たる証拠もなしにどうやって「デタラメな証拠」を「証拠らしく誤魔化すか」に全力を挙げているのだ。だからこそマス・メディアの報道姿勢が決定的に重要なのである。


(2)なぜ侵略者でありイラク民衆をこれから何千人、何万人と殺す側アメリカを批判しないのか。−−平気でデマと虚偽を伝える、堕ちるところまで堕ちたマス・メディアの報道姿勢。
 真実が虚偽となり、虚偽が真実とされている。今にも攻め入ろうとするアメリカの側、侵略者の側が「正義」とされ、何の正当な理由もなく攻められようとしているイラクの側、被侵略者の側が「不正義」とされている。加害者が「善」とされ被害者が「悪」とされている。こんなバカなことがあるだろうか。

 イラクに関して言えば、国際法上のイロハも完全に無視されている。人非人フセインとイラク民衆には国際法など贅沢だと言わんばかりだ。しかし、改めて問いたい。
  イラクは隣国を侵略したか?否。今にも侵略しようとしているか?それも否。
  イラクは米国を侵略したか?否。今にも侵略しようとしているか?それも否。
 国際法上、このような侵略や脅威を与えていない国に対して、理屈も何もなく武力制裁を懲罰として課すことはできない。やればやった方が、国際法違反であり、侵略者として罰せられるべきものである。この国際法を適用すれば、今攻撃されようとしているイラクこそがアメリカに反撃する国際法的権利を有しているのである。こんな当たり前のことが、なぜ一言も新聞紙上で、TV報道で触れられないのか?新聞社、TVのジャーナリストの一人一人に問いたい。
 日本や世界のマス・メディアから徹底的に擁護されているアメリカこそが侵略者として断罪されるべきところが、逆にイラクこそが日本と世界のマス・メディアから「悪の権化」とされ戦争もやむを得ないとするキャンペーンが張られているのである。恥ずかしくないのだろうか?「公平と中立」さえ投げ捨て、真実を語らず、真実を調査しなくなった報道機関は、報道の名に値しない、単なる「権力の手先」である。

 俺は持っても良いがお前は持ってはならない。俺の仲間は殺されたら仕返しするがお前の仕返しは許さない。なぜ世界最大の大量破壊兵器保有者が偉そうな顔をして、イラクの大量破壊兵器を云々できるのか。なぜ新聞やTVはこの問題を問い質さないのか。アフガンの民衆は9・11とは無関係なのに、なぜ殺しても良いのか。NYの犠牲者は人間だがアフガンの民衆は虫けらなのか。なぜ新聞やTVはブッシュの大量殺戮を非難しないのか。


(3)アメリカの心理戦争に追随する恥ずべき日本のマス・メディア。デマとウソの連呼で人間性を麻痺させ洗脳する1ヶ月の始まり。
 イラクが国連に提出した大量破壊兵器開発計画の申告書について、国連のUNMOVICとパウエル長官やブッシュ大統領がそれぞれの評価を明らかにした。「いよいよ始まったか」というのが私たちの実感である。それはアメリカが持つ巨大なマス・メディア権力を通じた情報操作であり、それに追随し従属する日本のマス・メディアの世論誘導である。

 案の定、12月20〜21日以降、全紙が同じトーンで埋め尽くされている。
−−全紙が「米大統領が“失望”」と伝えた。
−−「米、“イラクは重大違反”申告書 武力行使強まる」「イラク攻撃 米、来月最終週に決断」「申告書“重大違反” イラク攻撃現実味」「イラク一段と窮地」(読売)。
−−「イラク申告書 米“重大な違反”」「米、攻撃へ環境整備」(毎日)
−−「イラク申告書に具体的反論 米“記載漏れ”指摘」「イラク 開発疑惑答えず」(朝日)。
−−「米“重大な違反”断定 武力行使の時期探る」(産経)。
−−「“申告に重大違反”断定 米、イラク包囲網狭める」(日経)。
−−社説もまるで金太郎飴だ。「残された時間はあとわずかだ」(読売)「イラク申告書 国際社会の疑念に答えよ」(産経)。朝日はすでに紹介した「イラク政府は恐れよ」。

 全紙に見られる特徴は、パウエル長官の「重大違反」表明が一面トップや国際面トップの扱いにされたのに、これとは正反対に、同じ日にUNMOVICが出した評価がほとんど無視されたことだ。もちろん米政府の記者会見は時期、内容とも計算されたものである。これによって国連査察団の「評価」は小さくどこにあるのか分からない扱いにされた。お見事。まるでパウエル評価が国連安保理評価にすり替えられたかの感がある。

 「重大違反」、英語でmaterial breach。−−この言葉こそ国連安保理決議1441で最大の論争点になったものである。結果的には、「自動開戦」を示唆するこの規定は、米英以外の常任理事国の反対で最終条項には盛り込まれなかったが、パウエルは意図的にこの「用語」を連発し国際世論に刷り込ませようとしているのである。この「用語」は国連憲章第7章に定められた「武力行使の根拠となる国際法上の特別な用語なのだ。この「重大違反」の連呼、連呼、連呼。繰り返し、白も百回言えば黒になる類のデマゴギーが始まったのだ。毎日毎日新聞やTVから聞こえる「重大違反」の決まり文句、米欧系、そして日本の巨大マス・メディアの徹底的なネガティブ・キャンペーン、フセインとイラク国民を「悪」「虫けら」「唾棄すべき対象」「人間以下」で洗脳する1ヶ月が始まった。日本と世界中の民衆のまともな感覚を麻痺させ、理性と人間性を徹底的に奪い取る1ヶ月の始まりである。
※国連安保理決議1441では、第1項、第4項にそれぞれ「重大な違反」という用語が使われている。しかしこの決議の結論でもある第13項では、「義務違反が続けば“重大な結果”に直面するであろう」という別の表現にされた。そして「重大な違反」にしても「重大な結果」にしても、その後は国連安保理への「報告」と安保理「会合」なのである。「自動開戦」ではない。

 私たちは、こうした米が主導する世論誘導と洗脳にどこまで対抗できるか。日本の民衆と世界の民衆が、戦争屋たちの常套手段であるこのようなネガティブ・キャンペーンにどこまで迷わされることなく、惑わされることなく、理性と人間性を保持できるか。せめぎ合いの1ヶ月が始まった。
※ユーゴ空爆の前には、ミロシェビッチが「悪役」だった。ヒトラーのユダヤ人迫害を連想させる「民族浄化」(エスニック・クレンジング)という「用語」が考案され、セルビア人の「悪」と「非道」が繰り返し洪水のようにマス・メディアに氾濫し、「あいつらなら皆殺ししてもやむを得ない」という国際世論があっという間にでっち上げられた。米の広告会社と米政権とが結託して作り上げた虚像だった。(『戦争広告代理店−−情報操作とボスニア紛争』講談社)

 ブッシュ政権、今イラク攻撃を取り仕切るパウエルの目論見は、ただ一点、「イラク攻撃はやむを得ない」という国際的な世論誘導作りに成功するか否かである。
 「査察に不誠実なイラク」「何かを隠しているイラク」「重大な違反」「フセインは悪者」等々、今やブッシュの広報部と化した米欧系マス・メディア、それにただ追随するだけの日本のマス・メディアを総動員して、イラク攻撃支持の国際世論の流れを作り出し、その勢いで石油利権の保証では前進したがまだ最後の一線である攻撃を渋るフランスやロシアや中国を突き動かすことだ。
 

(4)「イラク:査察の真実」を知りも調べもせずにアメリカのデマ宣伝・情報操作を鵜呑みにする日本のマス・メディア。
 上述のように、イラクの申告書は、何の理由もなく、「新しいものがない」というだけで日本のマス・メディアにウソと決め付けられた。そして「恐れよ」「疑念に答えよ」の大合唱だ。今のところ国連の査察団は「正しいともウソとも言えない」としているのに、である。代わりにパウエルが差し出した「米の具体的反論」「記載漏れ」を全面的に信頼し紙面をパウエル情報で満たすのだ。彼らマス・メディアは、1991年以来の国連査察団の困難な作業全体を検討し詳細に調べたのだろうか?彼らの今現在の翼賛報道を見る限り、米英政府とその翼賛報道機関と化した米マス・メディアの口移しをしているだけで、真実を追究する姿勢など微塵もない。翼賛化した米のマス・メディアの報道をただ垂れ流すだけの安易な情けない報道姿勢は、もはや「ジャーナリズムの死」と言えるのではないか。

 イラク査察の歴史と真実を少しでも知ろうとした者は、アメリカが言う「疑惑」がどれだけデタラメなことか、分かるはずである。各紙の論説委員や執筆者はイラク査察について知ろうとしたのか、調べようとしたのか。教えて欲しいものである。
 12月8日、NHK・BSで放送された「イラク:査察の真実」をぜひごらん頂きたい。イラクびいきでも何でもない元米海兵隊員スコット・リッター氏が1998年に査察が中断するまでの7年間に現場で指揮した査察の詳細な経過と成果が1時間半にわたって時系列に語られている。そこには1995年段階で、すでにイラクの大量破壊兵器はほとんど破壊され、たとえ残されていたとしてもそれは隣国の、従って米の脅威などにはならないほどのものでしかないということが、査察を取り仕切った現場の最高責任者の立場から自信を持って明確にされている。
 そして1995年に査察団の最終報告書を出そうとした、まさにその時に、米英から横やりが入り、CIAなど諜報機関からの様々な「秘密情報」が「提供され」、まだまだ「大量破壊兵器」は残っている、査察をやり直せとの邪魔だてが入ったことが暴露されている。しかも、である。その情報のほとんどはいわゆる「ガセネタ」だったのだ。仮に情報そのものは正しかったとしても、兵器解体済みという査察団の結論の大勢に変更がない情報でしかなかった。
 また1998年の査察中断に至る過程も、実はアメリカが仕組んだ策略であったことが自身の体験を交えて詳しく証言されている。彼はバトラーと米国連大使の前で「いついつまでにイラクと紛争を起こせ」「そうすれば米軍が攻める手はずになっている」と強制されたというのだ。UNSCOMは米の言いなりにならなかったエケウス氏が事実上やめさせられアメリカ言いなりのバトラー氏に査察委員長が交代してから完全に米のスパイ機関化したこと、その結果としてUNSCOMは国連安保理の信頼を完全に失い、自滅してしまった経緯も詳しく暴かれている。−−こうした過程と経緯は、今では全てがイラクのせいにされているのである。
 これとは別に、リッター氏の証言、『スコット・リッターの証言 イラク戦争 ブッシュ政権が隠したい真実』(合同出版)が星川淳氏の翻訳で出版された。同様の査察の真実が詳しく述べられている。この証言の中に、上記のドキュメンタリーが実はリッター氏が映画製作会社を設立して作ったことが紹介されている。是非、あわせて読んで頂きたい。

 要するに米は「査察」を終わらせたくなかったのである。なぜか。それは、査察の終了は、とりもなおさず「経済制裁の解除」につながるからである。国連制裁の解除は、米の中東戦略の根幹が崩れれることを意味する。難癖を付けて「査察」を続けさせ、制裁を解除させず、それによって中東支配、突き詰めれば中東の石油資源の支配を継続させようとしたのである。


(5)マスコミが無視した、米の評価とは対照的なUNMOVICの「初期評価」。
 このようなアメリカの前科を無視して、一体如何なる理由で、米が12月19日に発表したイラクの申告書に関する反論が、正しいとできるのか。1995年当時と同様、アメリカなら難癖と言いがかりはいくらでも作ることができる。パウエルの「反論」もいわばこの類の難癖と言いがかりにすぎないのだが、日本のマス・メディアは、なぜか鵜呑みにするのだ。なぜイラクは「疑惑」で、アメリカは「正しい」のか。その根拠について日本の新聞社、報道機関各位に聞きたいものである。

 アメリカが強硬な姿勢を押しつけようとし続けているにもかかわらずUNMOVICのブルクス委員長はより慎重な、開戦に持ち込もうとするアメリカとは距離を置いている。パウエルの「重大違反」発言の直後にブリクス委員長は以下のような報告を行った。言うまでもなく、UNSCOMとブリクス委員長は「ハト派」でも何でもない。イラク攻撃に必ずしも絶対反対でもないし、封じ込め政策を支持するかのような姿勢でもある。その彼が以下のような報告を行っているのだ。
 @ 査察は何の障害もなく、査察対象へのアクセスは迅速に行われている。98年にUNSCOMの監視下にあったマスタードガスの保管場所を確認した。大統領宮殿の査察も他と変わりなく行われている。
A イラクの12/7付の申告書については、まだ十分検討する時間はないと前置きした上で、イラクは大量破壊兵器の保有も開発計画もないと言い、他の国は反対の証拠を持っていると言うが、UNMOVICはどちらかの主張が正しいという立場には立っていないと表明。申告書は他の証拠や文書で補強されなければ信頼を得られない、さらに検討が進めば追加の文書を要求するかもしれないと言うにとどまっている。アメリカが声高にわめいている「重大違反」には何も踏み込んでいない。
B 全体的には新しい重要な情報はあまり含まれていない、その意味では「不十分」としながらも、この申告書の中で取り上げられている新しい問題について個別にていねいに取り上げている。
−−例えば、アメリカがウラン濃縮用と決めつけるアルミ管はミサイルの材料に使われたと報告されたが、今後査察する。
−−UNSCOMによって破壊された化学工場が民生用として復興されたが、違反でないか今後よく検討する。
−−化学兵器の材料については新しく説明が行われたが、それは化学兵器の使用量をめぐる理解につながるかもしれない。逆に、矛盾したデータを含む「空軍文書」の詳細な検討を行っている。等々。「疑惑を投げつける」のではなく、事態を明らかにしよう、証拠と査察でどちらが正しいのか明らかにしようという姿勢が見て取れる。
C 最後にブリクス氏は、もしイラク政府が大量破壊兵器を持ってもいないし、作る計画もないということを証明することができない場合でも、戦争でイラクを破壊するのではなく、査察を続けることが大量破壊兵器の封じ込めにつながると査察活動の意義を強調している。
    http://www.un.org/Depts/unmovic/recent%20items.html

 UNMOVICのブリクス委員長は、委員長による初期評価後に、米英がイラク批判を強めていることについて、「米英に安保理決議違反の確証があるのなら、それが何なのかわれわれに伝えるべきだ」と不満を表明したという。IAEAのグウォズデキ報道官も同様の不満を表明した。「どこへ行き、誰と会うべきなのか。現場は具体的な情報を求めている」と。バウチャー国務省報道官も「機密情報をUNMOVICに提供を開始した」と述べたようだ。しかし1995年以降の米のUNSCOMに対する撹乱工作と一体どこが違うのか。彼らは「ガセネタ」とデマをいくらでも出せるのだ。
※米が「反論」として提示したのは、ウラン濃縮用アルミ管(これは「画策」とされている)、マスタードガス砲弾500発(「行方不明」とされている)、炭疽菌・ボツリヌス菌(「隠匿の可能性」とされている)。等々。

 ブリクス委員長の初期評価を受けた後で、国連安保理では議論が行なわれた。アメリカの強硬な重大違反の決めつけは、安保理諸国を説得もできず、安保理全体の合意にもならなかった。ロシアは「重大違反」の決めつけそのものを批判した。安保理は1/9に第2回の評価と報告をブルクス委員長に求めただけで、イラクに対して「警告」を行うことさえ行っていない。ヒステリックなアメリカの決めつけとは対照的な査察団の動きと国連安保理での議論をマスコミ諸氏はどう見るのか、聞きたいものだ。


(6)米による経済制裁の徹底的な締め上げを知るなら、1998年以降の「大量破壊兵器開発」など、ウソとデタラメであることは一目瞭然。
 イラクが脅威!?−−ちょっとでも現状を調べた者なら、こんなバカな発想は出てこないはずだ。ブッシュにとっては確かに攻める相手を過大評価し「悪の権化」にでっち上げることが必要だ。しかし心ある者なら、少し考えれば分かることである。

 1991年以来、イラクは極めて厳しい経済制裁の下に置かれている。乳幼児死亡はサハラ以南のアフリカ並に激増し、「民族抹殺」の様相を呈している。国連の人道調整局の責任者が抗議の辞任をするくらいだ。1996年に、これでは本当にイラクが民族として破滅させられると知った欧米の人道団体や米英以外の常任理事国が尽力して、米英の妨害と反対を押し切りやっとのことで「石油・食糧交換プログラム」という形で石油輸出が、食糧確保のためだけ許されることになった。ところが、これもまた米が指揮する「査察委員会」が事細かな規制の網の目を張りめぐらすというもので、「大量破壊兵器」開発につながったり、軍民両用の物資はことごとく禁止された。鉛筆でさえ、黒鉛は砲弾製造につながるとして禁止されるという具合だ。仮にイラクが米の目を盗んで、抵抗を試みたところで、脅威を与えるほどの「開発」ができないことなど、アメリカが一番よく知っているはずだ。

 日本のマス・メディアはどこまで、この経済制裁の実態を知っているのか。いやそもそも知ろうとしたのだろうか。イラクは今や、湾岸戦争時と比べても、国力は劇的に衰退し、インフラは崩壊し、民衆は生活もできない状況に陥っている。兵力は当時の半分〜3分の1に激減し、おそらく戦力は4分の1、5分の1にまで落ちているだろう。仮にこんな国が「アルミ管」「マスタードガス」「炭疽菌・ボツリヌス菌」をわずかばかり隠し持っていたからと言って、それがあの世界最大の大量破壊兵器保有国であり、現に広島・長崎でそれを使用して大量虐殺した国であり、今もまた核の先制使用さえ辞さないと凄む国であり、更に寸分の動きすら瞬時にキャッチする偵察衛星能力を持ち、圧倒的な制空権を持つ国であり、しかも現に飛行禁止区域を設けて空爆をしまくっている国が、恐れる理由など、一体どこにあるというのか。日本の報道機関各位にぜひお聞きしたいものである。


(7)既成事実を積み重ねることで反戦平和運動に無力感、敗北感を植え付けることが狙い目。大手メディアに対抗して、真実を広めよう。
 いずれにしても、これからの1ヶ月、一番重要なのは、アメリカの心理戦争、宣伝戦に騙されないこと、負けないことである。対抗することである。VTR「イラク査察の真実」、そして小冊子「スコット・リッターの証言」はその最も有効な武器である。

 もう一つは、次々と打ち出される戦争準備と戦争挑発行為に挫けないことである。無力感・敗北感にとらわれないことである。敵は勢いを付けるためにどんどん強行するだろう。かつてのベトナム反戦運動、湾岸戦争の時にはなかったほど、全世界の反戦平和運動は来るイラク侵略に反撃態勢を整えている。戦争が始まる前から数万人、数十万人、50万人、100万人という動員を示したことはこれまでなかったことだ。彼らは、万が一始まれば連日行動を打つ構えである。侵略軍アメリカが撤退するまで続くだろう。私たちも同じ構えである。




NHK・BSワールドドキュメンタリーシリーズ
スコット・リッター氏が制作・監修した内部告発映画!対イラク戦争反対の武器にしよう!
「イラク・査察の真実」
制作 ファイブ リバース プロダクション (アメリカ 2001年)

「アメリカの国連大使とUNSCOMの委員長が、査察団の団長である私に、イラクに行って衝突を起こせ、そうすれば、安保理の承認がなくてもアメリカはイラクを空爆できると言ったのです。」(元国連査察団長スコット・リッター)
■ 『証言』本とドキュメンタリーをワンセットで。運動の武器にしよう!
 これは元国連査察団団長スコット・リッター氏による内部告発のドキュメントです。NHK・BSでこの12月8日に放送されました。1時間半の長編で、国連査察特別委員会(UNSCOM)の査察の実態を時系列を追って詳しくフォローしたものです。証言者の証言と現場フィルムが多数使われており、第一級のドキュメンタリーと言えます。反戦平和系のサイトでもほとんど注目されていないため、あえてVTR評をここに掲載することとし、ぜひとも多くの皆さんにこのVTRを見ていただくよう、お薦めしたいと思います。

 ちょうど時を同じくして12月中旬に、このリッター氏の証言『イラク戦争:スコット・リッターの証言−ブッシュ政権が隠したい真実』(合同出版)が出版されました。私たちの署名運動の呼びかけ人にもなっていただいている星川淳氏の翻訳です。実はこの本の最後の部分に、このドキュメンタリーの経緯や逸話が書いてあります。VTRの最後にはリッター氏が「構成」となっていたのですが、彼自身がわざわざ映画製作会社を設立して作ったことが紹介されているのです。つまり驚くべきことに、彼はこのドキュメンタリーの内容面の助言者というだけではなく、制作者でもあったのです。大手メディアが相次いで無視する中で苦労して作った様子が目に浮かぶようです。そしてこの本では、FBIとCIAが彼を「売国奴」に仕立て上げるために、彼の妻の身辺調査をやり、彼女がかつてソ連市民であったことを色々調べ上げているということも暴露されています。真実を告発しようとする人にアメリカという国は一体どのような仕打ちをするのかを、このドキュメンタリーと本は示しているのです。VTRとこの本を併せて見て、そして読んで欲しいと思います。

■ 再び現在、国連査察の行方がイラク開戦のカギを握る。
 この2つのリッター氏の告発はまさにタイムリーです。というのも現在、国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)によるイラクに対する国連査察が、米によるイラク侵攻のカギを握る目下の最大の焦点になっているからです。アメリカはかつて国連査察をどのように牛耳り引き回し、結局は査察そのものを戦争の道具に仕立てていったのか、そのアメリカの犯罪性を元査察団長の口から語られているからです。

 先日12月19日、そのUNMOVICによってイラクが国連安保理に提出した「申告書」の「初期評価」が出されました。ブリクス委員長は「兵器に関する新しい情報はない」「我々はイラク側の協力が足りないことを問題にしてきたし、これからもそうする」と語り、しかし査察現地でのイラク側の協力姿勢については「あらゆる場所に迅速にアクセスできている」と一定の評価をしました。結論は査察の継続と強化です。

 ところがこれに対して、日本と欧米のマスコミは、戦争を煽る一大キャンペーンを張ったのです。このブリクス委員長による「初期評価」をほとんど報道せず、逆にその記者会見にぶつけるように行われた米パウエル長官の、つまりアメリカの一方的で勝手な解釈−−国連安保理決議に対する「重大な違反」−−を大々的に報道したのです。洪水のような異常な垂れ流し報道でした。文字通り、アメリカの開戦の思惑を先取りするものであり、イラク攻撃やむなしの雰囲気作りを先導するものになりました。

■ 1998年の査察の中断はアメリカが仕組んだ策謀だった。
 米政権は今回もイラクの「申告書」を国連安保理決議1441に対する「重大な違反」であると決め付けました。現在についても、過去についても、「イラクは査察を妨害してきた」「大量破壊兵器をまだ隠している」というアメリカの主張は、果たして真実なのでしょうか。この番組を見ると、アメリカの主張のウソとデマが透けて見えます。

 番組は、11年前、湾岸戦争が終結してから査察が始まり、1998年12月に一旦中断するまでの7年間の査察の舞台裏を描いています。とりわけ査察がアメリカの意向を受けて当初の技術的なものから政治的な思惑、陰謀と策略を込めたものに変質していく様子が描かれています。それは同時に、査察の主導権が国連から離れていく過程でもありました。それがスコット・リッター氏だけではなく、当時の多くの査察官からの証言を中心に描き出されています。

番組は、1998年12月、米英軍によるイラクへの大規模空爆の場面から始まります。イラクへの「査察」の真の目的は、空爆を正当化するものであった−−アメリカの意図は、番組の後半に鮮明になっていきます。UNSCOMは、すでに1995年にイラクには大量破壊兵器はない、と判断していたのですが、1997年7月、中立的立場を尊重するエケウス委員長に代わって、ごりごりの親米派バトラー氏が新しい委員長になってから、アメリカ寄りの査察に変わっていくのです。
 新任のバトラー委員長は、スコット・リッターが苦労して作り上げた現地査察組織(CSCI)の査察官に対して、従来の取り決めを破棄して「隠蔽」された武器の査察を継続せよと指示します。ところが数ヶ月にもわたって必至に査察をやっても新しい事実は出てきません。ある時、米CIAからの情報で、重要な施設だと指摘されたイラク西部の現場に出向くと、そこで査察官を待っていたのは、砂漠に掘られた空の塹壕でした。1995年以降、特に1997年以降の米が指図するバトラー委員長下での査察では、こうしたことが毎日のように繰り返されたのです。
 1997年12月、CSCIの査察官は、不満を本部へのクリスマスカードにぶつけました。「仕事がないなら帰国させてくれ!」と。そこでスコット・リッターは、CSCIが作った疑わしい施設のリストを提示して、査察の許可を求めたのです。

○元UNSCOM主任査察官ロジャー・ヒル(オーストラリア):
「アメリカから入手した情報の多くは不正確だったり、全く間違ったものだったりしました。中には、我々の査察を攪乱するための情報ではないかと、思われるものもありました。」
○スコット・リッター:
「リストにはかなり重要な施設も含まれていました。私がバトラー委員長を説得していると、アメリカの大統領補佐官から電話が入りました。アメリカは、提案された施設について査察団の派遣を認めるという趣旨の電話でした。それを聞いた委員長は、我々が出したリストの内容を承認しました。つまり、UNSCOMの活動は、アメリカが主導権を握っていたと言うことです。そして、アメリカの目的は、大量破壊兵器の廃棄よりもイラクと衝突するような状況を作り出し、軍事力行使のきっかけを得ることだったのです。イラクは、衝突が起きるくらいなら、査察団を追い払おうと決めました。」

■ 衝突をあおろうとしたアメリカの意図は挫かれた−−スコット・リッターは米国連大使とバトラー委員長による策謀を拒否する。
○スコット・リッター:
「国連の代表であるUNSCOMとイラクとの間で衝突が起きない限り、アメリカは戦争を始められません。アメリカ人査察官のリッター対イラクではだめだったのです。そこでアメリカは、イラクの大統領関連施設の査察を要求し始めました。イラクは大統領宮殿とその周辺の敷地に査察官が入るのを拒んできました。」

 アメリカに仲介を求められた国連のアナン事務総長は、危機の打開を目指してフセイン大統領と会談しました。
○アナン国連事務総長:
「国連の武器査察の再開についてイラク政府と合意しました。」
○元CSCIリーダー クリス・コプスミス:
「UNSCOMは、大統領宮殿に大量破壊兵器が隠されているとは思ってはいなかったので、あそこは査察のリストには入っていませんでした。」
○スコット・リッター:
「アメリカは、アナン事務総長に合意をまとめさせておきながら、UNSCOMに対しては、その合意に従うな、と要求してきました。」
○オルブライト米国務長官:
「フセイン大統領の強硬な姿勢には憤りを感じます。次の査察で約束を破ったら深刻な結果を招くでしょう。」
○スコット・リッター:
「私は、査察再開に関する計画書を作るよう、指示されました。そして、それを持ってホワイトハウスに行き、安全保障担当者に説明しました。草案は承認されましたが、査察の対象にイラクの国防省を付け加えるように求められたんです。」

 イラク国防省は、以前からUNSCOMが目を付けていた場所でした。しかし、確かな証拠がなかったため、査察するには、あまりにもリスクが大きいと考えられていたのです。そこでバトラー委員長とリッターの二人は、アメリカのリチャードソン国連大使に呼び出されました。その場で、驚くべき陰謀と策謀が明らかにされ、リッター自身に指示されたのです。

○スコット・リッター:
「私とリチャードソン国連大使、バトラー委員長、ドルファー副委員長、アメリカの国連副大使が同席しました。バトラー委員長が黒板の中央に縦の線を引き、査察のプロセスとアメリカの動きを書き入れました。横に日にちを書いて、ある日付を丸で囲むと、私にこう言いました。『この日までに衝突を起こせば、アメリカはいついつまでに空爆を実施できる』と。衝突を起こすとは、どういうことだ、と聞くと、『国防省の査察を実施して、その後で、アメリカは空爆を開始する。空爆は五日で終わらせなければならない。ラマダンが始まるからだ。』と言われました。とんでもないことです。アメリカの国連大使とUNSCOMの委員長が、査察団の団長である私に、イラクに行って衝突を起こせ、そうすれば、安保理の承認がなくてもアメリカはイラクを空爆できると言ったのです。」

■ 日本のマスコミ報道を貫く予断と偏見に満ちた人種差別主義−−戦争レイシズム。
 その結果、イラクは国防省の査察を受け入れました。しかし査察では何も出てきませんでした。バトラー委員長は、通信傍受の権限をアメリカに委譲し、アメリカは、スパイ活動を行いました。こうした不正にリッターは、疑問を持ち、UNSCOMを辞任します。
 リッターが辞めた後、UNSCOMは、歯止めを失ったかのように急速にアメリカのスパイ機関と化していきます。査察についての取り決めを一方的に破り、バース党本部の査察を強行したのです。そして、このバース党本部の査察をついにイラクは拒否し、米英はイラク空爆を強行したのです。ここにようやく、アメリカは「査察妨害」というでっち上げの「大義名分」を振りかざしてイラク攻撃を遂行し得たのです。1998年12月17日のことです。「砂漠の狐」作戦と名付けられました。 

 私たちが現在、毎日接する新聞やTVの報道に、このような過去の「査察の真実」に基づいたものがあるでしょうか。皆無と言っていいでしょう。こうした誤った報道姿勢の背後には、アメリカは正しいがイラクは「隠している」「怪しい」という予断と偏見、その実は人種差別主義−−戦争レイシズムがあるのです。



[紹介]
「元国連大量破壊兵器査察官スコット・リッターの証言
イラク戦争 ブッシュ政権が隠したい事実」
ウィリアム・リバーズ・ピット+スコット・リッター〔著〕 星川淳〔訳〕 合同出版

アメリカ空爆とリンクした国連査察の実態を暴露
  ――イラク戦争反対を勇気づける好著

 ご存じの方も多いと思いますが、翻訳者星川淳氏はあの『非戦』(幻冬舎)をまとめたグループ(「sustainability for peace」)の一人です。米英によるアフガン報復攻撃に反対して、またアメリカ支持一辺倒のマスコミ報道への批判として、氏と仲間たちは『非戦』をまとめたのでした。そして今、星川氏が、「もっと大きな愚行」であるイラク攻撃に対しての「緊急出版」としたのが本書です。
 本書の帯には「イラク攻撃は前代未聞の愚行だ」とあります。文字通り本書は、今アメリカがあれこれの口実を設けて目論んでいるイラク攻撃なるものが、いかに大義なき、薄汚れた戦争であるのかを鮮やかに暴露しています。どうしたやり方でそれを鮮明にしているか。独立系サイトを中心に多数のエッセイや論考を発表しているピットと後で紹介するスコット・リッターは、「アメリカがイラクと紡いできた長い歴史」を明らかにすることと、この「いかがわしい戦争をめぐる“手強い事実”」とでもってそれをやりとげています。前者は「20世紀のイラクで起きたこと」と題する本書の第二章に、そして後者は「インタビュー 『大量破壊兵器査察』の証言」という第三章に主に記述されています。

(1) イラクに対する米英の干渉と侵略の歴史を暴露――「20世紀のイラクで起きたこと」
 本書の圧巻はなんと言っても第三章のスコット・リッターの証言なのですが、それに先立つこの章もアメリカの犯罪的な歴史を負けず劣らず暴露しています。
 例えば、1979年の反米ナショナリズムとイスラム原理主義を掲げる民衆蜂起によってシャーが退任に追い込まれた後のイランに対する、イラクを利用した米の介入、特に当時のレーガン大統領がイラクへの戦争協力を続けながら、イランに不法な軍事援助(イラン=コントラ・スキャンダル)を提供したり、化学兵器の使用を知りつつ対イラク軍事援助の秘密計画を支持したり、といった話は非常に貴重であり、是非この書の一読を勧めたいと思います。
 現在アメリカが進める対イラク戦争の直接の原因を導いている問題でもある、湾岸戦争における、父親ブッシュ大統領による反対勢力を使ったフセイン政権の転覆工作とその失敗についても詳しく紹介されています。湾岸戦争後もイラクのクウェート侵攻時から開始された経済制裁は続行されました。この制裁が引き起こした様々な欠乏によって100万以上とも伝えられるイラク民間人が死亡したことは周知の通りです。また戦争終結から今日まで、米英軍による空爆が常態化していることもメディアで報じられることはほとんどないものの心ある人は知る所です。

(2)もはやイラクは大量破壊兵器を所有し得ない。国連査察はアメリカ空爆の口実作りのためにあった――「インタビュー 『大量破壊兵器査察』の証言」
 イラクへの国連査察の本質を突く鋭い証言は、本書第三章の圧巻部分ですが、その前に、この証言を行ったスコット・リッター氏その人についての紹介があります。
 彼は退役海兵隊員であり、諜報職員です。1988年から90年まで旧ソ連の軍縮査察にたずさわり、90年の湾岸戦争では米海兵隊員としてイラクとサウジアラビアでミサイル探知などの特殊部隊任務を遂行しました。除隊後、91年から98年までUNSCOMの一員としてイラクで働きました。2000年大統領選では何とブッシュ(子)陣営を応援した共和党員なのです。
 彼はまさにアメリカの体制側エリートの一人です。そうした人物の一人が自らの研究と経験に基づいて、自らの母国が今目論んでいる戦争が、これまで勝ち取られてきた国際法・慣習、国際秩序に照らしていかに不正義なものであるかに警鐘を乱打しているのです。彼は自らのこうした行動を「自分の国を愛するがゆえ」と言います。またアメリカの真の「民主主義」のためだ、と言います。日本で右から左まで言う「愛国」だの「民主主義」だのと比べて、その志の高さ・深さにおいて考えさせられざるを得ません。

 リッター氏の証言の内容は実に詳細で多岐にわたっています――アメリカがイラク攻撃の口実にしようとしているイラクにおける大量破壊兵器の能力は90〜95%まで検証可能な形で廃棄されたこと。廃棄の対象は、生物・化学・核兵器と長距離弾道ミサイルを製造していたすべての工場、およびそれらの工場に備えられていた装置、そしてそれらの工場が作り出した生産物の大部分に及ぶこと。国連査察は徹底したものであったこと。イラクのその後の動きには大量破壊兵器開発を臭わせるものは皆無であること。一方国連査察には「まるで、殺人事件の凶器が発見できない失態を恐れた刑事が、捜査令状に凶器の捜索を指示せず、裁判の場で、発見されなかったという事実を証拠として言いたてるような」検査悪用のケースがあったこと。大統領宮殿に入った時の査察がこれにあたること。アルカイダとイラクがつながりようもないこと。リチャード・バトラーが査察プログラムのいくつかをCIAに丸投げしてしまったこと、等々。
 アメリカとそのアメリカのキャンペーンに毒されつつある世界の異常さに、「イラクのスパイ」との中傷をも物とせず警鐘を鳴らそうとする熱意なり、真実を語っている者のみが持っている強さがひしひしと感じられる証言です。

 もちろんリッター氏の証言には星川氏が指摘するように、劣化ウラン弾の使用に触れていない、石油問題を過小評価しているとの過不足はありますが、彼の証言を読むことは、私たちがイラク戦争反対を真実の声として世界に伝える際の力となり、強い勇気を与えてくれることです。

(3)国連査察の本質を示すもの――98年国連査察団はアメリカ空爆の口実作りを行った
 そして、証言の白眉は、98年の国連査察団の動向について語られる部分です。
 1998年当時のUNSCOMを率いたリチャード・バトラーがアメリカ高官と示し合わせ、爆撃と査察のタイミングをすり合わせる行動に出たような事が、結局98年UNSCOMの査察官たちがイラクを引き上げざるをえない原因を作りました。この不正常な関係に抗議したことが、リッターの退任の理由になったのです。
 アメリカとその影響下に置かれた国連査察団のなんたる無法!違法!98年国連査察団引き上げの真相が語られます。この書を読めば非がどちらにあるかは明白です。

 イラクが出した「申告書」にアメリカは「重大な違反」があると騒ぎ立てています。もはや開戦を前提としてその口実を嗅ぎ回る、探しまくっている姿勢でしかありません。アメリカのジャーナリズムはそれをセンセーショナルに書き立て、それに全く追随しているのが日本のマスコミです。こういう時、もう一度冷静にそもそも何故イラクに侵攻する必要があるのかを問い直す作業が必要です。本書はそのための最適の書の一つです。現在11カ国で翻訳化が決定され、アメリカではすでに12万5千部、イギリスではそれ以上の売れ行きを示し、反戦平和運動の力強い味方になっていると言われています。対イラク戦争に反対する人々のみならず、およそ真理・真実を愛する人々に是非一読願いたい好著です。
(大阪 M・K) 
なお、翻訳者星川氏自身による紹介を次のサイトで見ることができます。
★気刊メールマガジン「星川 淳@屋久島発 インナーネットソース」
  http://innernetsource.hp.infoseek.co.jp/
★「屋久島インナーネット・ワーク」 http://www.hotwired.co.jp/ecowire/




ブッシュの対イラク攻撃準備と国際情勢:

(T) カナナスキス・サミットと米ロ「準同盟」化の危険性
    −ブッシュ政権によるイラク攻撃包囲網構築の到達点と反戦平和運動の課題について−

(U) 米中東政策の行き詰まりと破綻を示す新中東「和平」構想
    −−ブッシュ政権がなかなか進まない対イラク戦争準備に焦って、
       「仲介役」の仮面すら投げ捨て公然とシャロンの側に立つ−−

(V) イラク攻撃に備え、先制攻撃戦略への根本的転換を狙うブッシュ政権

(W) 国際法・国際条約・国連決議を次々と破り無法者、ならず者となったブッシュのアメリカ
    −− 鏡よ鏡よ鏡さん。この世で一番のならず者はだーあれ −−

(X) [資料編] NHK ETV2000 より 「どう変わるのかアメリカの核戦略〜米ロ首脳会談を前に」

(Y) 米ロ首脳会談とモスクワ条約について
    −−米ロ「準同盟国」化で現実味増したブッシュの先制核攻撃戦略

(Z)「兵器ロビー」
    20年ぶりに復活する米軍産複合体

([)ブッシュ政権の露骨な戦争挑発行為と対イラク侵攻計画
        −−対イラク戦争阻止の反戦平和運動を大急ぎで構築しよう

(\)ブッシュのイラク攻撃と国連査察問題
        −−再び急浮上しようとしている国連査察の実態を暴く

(])イラク「無条件査察」受け入れ後の米の対イラク戦争をめぐる情勢について
        −−国連を舞台にした二転、三転の熾烈な外交戦、それと並行して進むブッシュの戦争への暴走

(]T)絡まり合うイラク情勢とパレスチナ情勢−−−
        イスラエル軍が再び議長府を攻撃

(]U)こんなウソとデタラメがイラク攻撃の論拠になるのか?
    −−国連と世界各国の民衆をバカにする9/12ブッシュ国連演説と9/24ブレア報告−−

(]V)なぜイラクの犠牲者について語られないのか?
    −−「10.7 一周年 ブッシュの対イラク戦争に反対する大阪集会」基調報告より−−

(]W)国連安保理決議1441に抗議する
         −−ブッシュは「強制査察」を開戦の口実にするな