ブッシュの対イラク攻撃準備と国際情勢([)
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ブッシュ政権の露骨な戦争挑発行為と対イラク侵攻計画
−−対イラク戦争阻止の反戦平和運動を大急ぎで構築しよう−−

2002年8月5日 平和通信 吉田正弘


T.すでに始まっているブッシュ政権による戦争挑発行為。

(1) ブッシュによる全面的な戦争挑発ゲーム。
 戦争のドラム・ビートが打ち鳴らされている。イラクに対する許し難い戦争挑発行為が繰り返されている。
−−米英は、最近再びイラクに対する侵略的な空爆を繰り返し始めた。7月だけでも7回。米英軍は、両軍だけも戦争を開始すると陰に陽に重ねて意思表示を行っている。
−−今年初めには、ブッシュ大統領自らがマスコミを前にCIAと政府機関にれっきとしたイラクの元首フセインを殺せと命令した。CIAの諜報・謀略活動は異常なほど活発化している。
−−同じく今年初めの「一般教書」では、世界中に向かってイラクを「悪の枢軸」と決め付け打倒すると表明した。大統領のこのような公式表明は「宣戦布告」である。
−−繰り返し繰り返しイラク攻撃は「先制攻撃」であると宣言している。
−−核戦略も変更し、場合によっては「核使用もあり得る」と脅迫している。
−−イラクの反政府グループに資金と武器を押しつけ、公然と反乱をそそのかしている。−−イギリスでは反政府グループによるクーデタ謀議が公然と行われた。もしフセイン打倒に協力すれば「君主制とヨルダン王家をイラクに復活させることをブッシュ政権が認めた」と陰謀めいた報道が流れた。近いうちにクーデタ首謀者を米政府が招待して会議を開くという報道も。
−−サウジアラビアが出撃拠点に使えないことを前提に、代わってクウェート、カタールなどを出撃拠点にすべく米軍基地を建設・増強し、米軍を周辺地域に大規模に展開している。隣国ヨルダンでは軍事演習をした。
−−そして7月に入って騒ぎ立てている侵攻計画の暴露合戦である。フルスケールで大規模侵攻する、いや中規模で侵攻するなど、次々と侵攻計画をマスコミにリークしているのだ。
−−それに合わせてペンタゴンと国務省担当者が中東を歴訪し、特にトルコでイラク攻撃について討議した。ヨルダンが侵攻計画にゴーサインを出した、どこそこは攻撃を黙認した、等々。イラクを恫喝し惑わせる形の報道が相次いでいる。
−−精密誘導兵器など兵器の大増産、石油備蓄。
−−米政府が、イラクの生物化学兵器攻撃に備えてワクチンを数十万人規模で飲ませると発表。イラクの攻撃から米国内を防衛するために、壮大な国家安全保障省を創設し、反撃体制を着々と進めている。等々。

(2) 緊迫するイラク側の臨戦態勢。
 これを戦争挑発と言わずして何と言おう。今年に入って、特に6月、7月以降露骨になった米によるイラク包囲網作りは、明らかに一線を越えている。当然イラク側でも防衛体制を必死に構築しつつある。イラク国民も身構えている。TVニュースではイラク国営テレビが少年兵2000名を軍事訓練へ送り出す光景を報道したことが伝えられた。フセイン大統領がバース党のクーデタ34周年記念の演説で対米勝利を誓ったと報じられた。米側の挑発で否が応でも急速に戦争ムードが高まっている。全てブッシュの戦争準備が引き起こした深刻な事態である。本当に許し難い行為だ。


U.「査察」から「問答無用」へ−−理由も根拠もないイラク攻撃。

(1) 今回のイラク攻撃は根拠も大義名分もない。
 数十万人の犠牲者を出すかも知れないのだ。中東地域全体を混乱の渦に巻き込むかも知れないのだ。なぜ途方もない惨禍を引き起こしてまでイラクに戦争を仕掛けなければならないのか。ブッシュ大統領はその根拠をはっきりと、まずイラク国民に対して、中東の民衆に対して、そして全世界の人々に向かって明らかにする義務がある。しかし彼は何も言わない。とにかくお前を倒す、お前を殺す。−−ただそれだけである。あまりに無理筋なのでさすがに「自衛のための戦争」という論理も打ち出せないでいる。国連や国連安保理で戦争の正当性を問われるので国連決議も必要ないと言う。
 アフガニスタン攻撃も確かに無法だった。しかしこれには「テロとの戦い」という表向きの「大義名分」が最大限利用された。かつて湾岸戦争の時、クウェートに侵攻したイラクを叩く、が大義名分となった。ベトナム戦争の時でさえ南ベトナム政府を支援するという「名目」があった。しかし今回のイラク攻撃はどうか。何もない。
 異常としか言いようがない。米政府も、共和・民主の両政党も、マスコミも、フセイン打倒は正当なもので議論の余地がないかのように振る舞い発言している。今アメリカのマスコミ報道で最大の、かつ根本的な欠陥は、ブッシュによるイラク攻撃の正当性、国際法上の根拠を全く問題にしていないことである。侵攻時期と侵攻方法だけが問題であるかのようだ。

(2) アルカイダとイラクとの「関係でっち上げ」に失敗。
 米政府は根拠を聞かれるたびに極めて抽象的に、小さな声で「テロ組織を支援している」「大量破壊兵器を作っている」「アメリカへの脅威だ」「イラクの大量破壊兵器がテロ組織に渡る可能性がある」と繰り返している。だが、彼らはそれらを大義名分に出来ないでいる。なぜか。でっち上げもできないほどこれらの根拠が薄弱だからだ。何一つ具体的な証拠を明らかにできないのだ。FBIやCIAや各国の捜査機関を全力投入し必死になって「9・11」に対するイラク関与の証拠を集めようとしたが、1年近く経っても何一つ立証さえできていない。

(3) 何も出ないことを知り一転して査察問題を無視。
 国連査察はどうか。どうやらブッシュ政権は、今回のイラク攻撃については査察問題に重点を置かなくなったようだ。
 そもそもイラク叩きの最大の道具だった国連査察や大量破壊兵器の開発といっても、1998年の国連査察団撤退と空爆強行で無理矢理査察を中断させたのは米政府自身である。最近スウェーデンの元外交官で1991〜97年の間国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)の査察官のトップをつとめたロルフ・エケウス氏が告発した。米が「国防省を見せろ」「大量破壊兵器以外の軍事施設も見せろ」等と無理難題を要求し、挙げ句の果ては「フセインの居場所を明らかにしろ」と、本来の査察とは関係のない要求を突き付けたため非常に困惑したというのだ。さもありなん。米にとって「査察」とは、イラクの防衛能力・軍事態勢・指揮命令系統などを探るスパイ活動の隠れ蓑であり、フセイン暗殺のために居場所を突き止める手段であり、圧倒的な米系マス・メディアを利用してイラクを陥れ言い掛かりを付けるための手段、戦争を挑発し開戦に踏み切る道具に過ぎないのだ。
 もうひとり米海兵隊出身の元国連査察官で、決してイラクびいきとは言えないスコット・リッター氏も、国連査察をめぐる米のウソ八百を暴露している。彼は自らの査察を踏まえて断言する。イラクには現在、アメリカや西側諸国に脅威になるような大量破壊兵器の開発・保有の事実はないと。
 そういえば、最近の米政府は査察問題を騒ぎ立てなくなっている。今国連が査察をやっても何も出ないことをブッシュ政権は知っているからだ。実際、湾岸戦争以降の長期にわたる禁輸と制裁の下でまともな形で兵器開発を再開できるはずもない。現に米軍部自身が「アメリカにとって脅威にならない」と本音を漏らしている。それでもなおイラクに大規模な攻撃を仕掛け、壊滅的な被害を与える根拠が一体どこにあるのか。
 7月上旬の国連査察をめぐる協議が不調に終わったのも、ブッシュ大統領が「査察を受け入れても拒否しても必ずフセイン政権を倒す」という姿勢を明確にしたためである。当然、イラク側とすれば、査察の結果何も出なければ、戦争を中止すべきだと求めたはずである。しかし米側はそれでは困るのだ。


V.ブッシュ・ドクトリン=「先制攻撃戦略」の真の意味。−−軍事覇権に支えられた石油・資源帝国主義の復活。

(1) 大義名分なきイラク攻撃のために編み出された「先制攻撃戦略」。
 ブッシュ大統領が6月1日、ウェストポイントの軍学校での演説で公式に表明した「先制攻撃戦略」が、イラク攻撃の基本的なスタンスである。彼は、戦場でどちらが先に手を出すかという戦術的な意味で言っているのではない。イラク攻撃の根拠も大義名分もないブッシュ政権が考えついた新しい(!?)侵略の論理なのである。イラクが大量破壊兵器を今現在開発しているか保有しているかはこの際どうでもよい。今現在の「完全な証拠」(absolute ploof)はなくてよい。イラクは将来必ず核を持つ。将来必ず核を使う。将来必ず米の脅威になる。何よりもイラクは「悪」なのだ。だから今のうちにせん滅せよ。煮ても焼いてもよい。国際法などくそ食らえというわけである。要するに、「先制攻撃」とは面倒くさい国際法の手続きをすっ飛ばして、理屈抜きにイラクを攻撃するとんでもない侵略の論理なのである。
 「先制攻撃戦略」についての面白いエピソードがある。ニューヨーク・タイムズのホワイトハウス担当記者デイビッド・サンガー氏は、ブッシュ政権の高官がこう語ったと言う。「イラクはまだ核兵器を所有していない。しかし核兵器を手に入れたらすぐに使用してくるだろう。問題は、それまで待つべきなのか、それとも先に叩くべきかだ。」これをホワイトハウスでは「パールハーバー問題」と呼んでいるらしい。かつて米政府は真珠湾攻撃を事前に知っていたが、「待ち」を選んだ。今回も、イラクに手を出させるか、あるいは先制攻撃をかけるか、というのだ。サンガー氏はブッシュの先制攻撃論を全面的に支持して続ける。「9・11」でアメリカはテロに対する脆さをさらけ出した。「待ち」を選んではならない。ニューヨークやロサンゼルスがイラクの核兵器や細菌兵器で攻撃を受けた場合、ブッシュ大統領に言い訳は許されない。アメリカがイラク攻撃をしたとき、加担するかどうかで「いい同盟国」と「悪い同盟国」に分ける。日本は決して「悪い同盟国」になってはならない。等々。(『週刊現代』2002年7月27日号)
 「ハト派」(?)と言われるニューヨーク・タイムズにしてこうである。こんなことが許されるならば、それならやられる前に先にやってしまえとなるだろう。世界中戦争だらけになるだろう。国際法秩序を根底から崩壊させる論理である。こんな乱暴なやり方を絶対許してはならない。

(2) ブッシュがここまでイラク攻撃に固執し異常な執念を見せる理由は何なのか。
 歴代のアメリカ政権の中でも今のブッシュ政権ほど傲慢不遜、暴君のような政権を見たことはない。何の根拠も正当性もなくイラクを壊滅させると息巻くだけではない。すでにアフガンとタリバンを壊滅させた。もはや今のアメリカには守らねばならない国際法も国際秩序もないと言わんばかりだ。温暖化問題に関する京都議定書の破棄、ABM条約の破棄とミサイル防衛の開発・配備、CTBT体制の破棄、核抑止から核使用へ、核実験再開準備等々、これほど一国至上主義的、これほど好戦的で戦争で事を決したがる政権をわれわれは知らない。文字通りアメリカ帝国主義という他ない。−−しかしこれら一連のユニラテラリズム的な暴走全体にはキーワードがある。石油と軍事である。そう考えると氷解する。ブッシュ政権が就任以来やってきた悪事の数々が全部つながるのである。
 問答無用のイラク攻撃にも、その背景には石油利権と石油支配の復活の狙いがある。否、それ以外に考えられない。われわれはもう一度、アメリカ帝国主義の有り様を、石油・資源帝国主義と軍産複合体帝国主義とからなる結合体として捉え直さなければならない。ブッシュ政権の陣容そのものがそうであるように、その政治権力構造を、石油・資源独占資本による世界支配の欲望、その石油・資源帝国復活を成し遂げるための軍事介入と侵略戦争の遂行、ペンタゴン=軍産複合体の復活の道具として、位置づけ直さねばならない。
 アメリカの石油・資源戦略、石油・資源独占資本による世界の石油・天然資源支配の計画を知ることなしには、現在のブッシュ政権の野望や軍事暴走、政治権力の基本性格を捉えたことにはならないのではいか。
 われわれは、「ブッシュ政権の石油・資源戦略、米石油・資源メジャーの先兵としての米軍の戦争拡大政策」を新しいテーマとして取り組んでいきたい。


W.アメリカン・バブルの崩壊とブッシュ政権中枢の金権腐敗構造の噴出−−危機打開策としての対イラク戦争?

(1) ブッシュ政権中枢の金権腐敗・不祥事をもみ消す手段としてのイラク攻撃。
 今アメリカは、ちょうど日本が10年前にバブル崩壊でのたうち回った時期を経験している。株価バブルの破裂は、金融不祥事が頻発した日本と同じように、「グローバル・スタンダード」といわれた株価至上主義経済アメリカの金権腐敗構造を明るみに出した。
 現在のイラク挑発はもう一つの側面がある。大統領や副大統領など政権中枢を襲い始めた不正経理疑惑、インサイダー取引、不正融資等々、「怒れる投資家たち」の反乱を抑え込み、目を外へ反らせる思惑があるのだ。かつてクリントンは下半身スキャンダルを反らせるためにイラク空爆をした前歴がある。アメリカの歴代大統領の常套手段である。

(2) アメリカの経済情勢とイラク攻撃との関係が重大な関心事に。
 NYダウはついに一時8000ドルの大台割れを記録し、崩落状況に陥った。ドルは持続的に低落し資本流出は危機は続いている。米国経済の最後の「砦」である住宅バブルがいつ破裂するのか。個人消費がいつ底割れするのか。金融経済の異常がいつどんな格好で実体経済の異常につながるのか。全世界が注目している。
 アメリカン・バブルの崩壊と「二番底」の可能性が大きくなってきた米国の金融的経済的危機の深刻化の中で、ブッシュ政権は中間選挙に向けて一体どんな手を打つだろうか。危機から目を反らせるため、あるいは戦争経済のカンフル注射でイラク攻撃に踏み切らせるのか、それともそんな余裕がないほど危機が激化し、逆にイラク攻撃どころではなくなるのか。イラク攻撃と経済危機の深刻化との綱引き、競争になりつつある。
 その意味で、アメリカと世界の循環的構造的危機の深刻化の動向は、反戦平和運動にとっても重要な関心事になってきた。


X.相次ぐブッシュの対イラク戦争計画のリーク−−心理戦争の様相。

(1) 侵攻計画策定が本格化した現れ−−相次ぐ暴露合戦。
 ニューヨーク・タイムズが7月5日にアメリカ軍が検討中のイラク侵攻作戦をすっぱ抜いて以来、次々とイラク侵攻作戦についての報道が出始めた。主なものに7月15日の中規模侵攻案を報じたウォール・ストリート・ジャーナル、そしてバグダッド急襲案を報じた7月29日のニューヨーク・タイムズなどである。これらに次いで7月31日には上院で公聴会が開かれ、更にいくつかの報道が行われた。8月1日にはワシントン・ポストが政権内部でのイラク作戦をめぐる対立を取り上げている。
 この一連の報道は、アメリカ軍の対イラク戦争が単なる一般的抽象的な意志表明の段階から、具体的現実的な侵攻計画作成の段階に既に入っていることを示している。おそらく最終的な作戦の決定こそ行われていないが、現場である中央軍、統合参謀本部で侵攻作戦の具体的なプラン作りのためにいろいろなプランが検討されているのは間違いない。米政権内部ではイラクに対して侵攻することは既に前提になっており、問題になっているのは具体的な時期、手段、攻め方だけ。何の根拠も大義名分もなしにブッシュ政権のトップが極秘裏に勝手に進めることに対して、漠然とイラク攻撃を支持する世論や民主党の一部にも少なからず衝撃を与えた。

(2) 米系マス・メディア総動員の心理戦争と国際世論形成。
 これらの報道は米系マス・メディアを総動員した心理戦争の開始でもある。第一に、イラク政権とその民衆に対する政治的恫喝として。第二に、米国民に対して、西側同盟国に対して、ブッシュ大統領の意志を鮮明に打ち出し、イラク攻撃の是非の議論を封じ込めること、戦争ムード、戦争やむなしの雰囲気を作ることで国際世論形成を作ることである。今回のニューヨーク・タイムズのリークそのものも軍内部からの意図的なリークであることに注意しなければならない。
 しかし、同時にこれらの報道はアメリカの政府内部、政府と軍の間の、支配層内部での矛盾と対立を明らかにしている。8月1日のワシントン・ポストの記事は、大統領側近の超タカ派−−チェイニー、ラムズフェルドらと、国務省・CIA・統合参謀本部・制服組の間のイラク侵攻の「リスク評価」をめぐる対立をあからさまに描いている。


Y.罪なきイラクの民衆、子どもたちの犠牲を無視する米の侵攻計画論争。

(1) かつての湾岸戦争とその後の経済制裁ですでに数十万人が犠牲に。
 アメリカは湾岸戦争で10万人、20万人のイラク軍兵士をせん滅させた。戦車諸共焼き尽くされた遺体の惨状を今も目に焼き付いて離れない。これとは別にわれわれが初めて見たテレビゲームのような大規模な空爆の下で一体何千人、何万人の犠牲者が出たのか不明である。
 それだけではない。湾岸戦争後、10年以上にわたる経済制裁の下で、イラクの経済は徹底的に封じ込められ破壊され、人民大衆の生活は悲惨を極めてきた。とりわけイラク人民にとって必要不可欠な生活必需物資、赤ん坊や子どもに必要な食料、薬、生活資材などを狙い撃ちするように輸入が事実上禁じられてきた。
 湾岸戦争とその後の、正当な理由が一つもない経済制裁の下で、一体アメリカは何人のイラクの民衆の命と生活を奪ってきたのか、一体どれだけの国家の経済基盤=インフラストラクチャを破壊してきたのか、一体どれだけの放射性物質(劣化ウラン)をまき散らし放射能汚染を拡大してきたのか、一体何人の「被爆者」を生み出してきたのか。食糧事情と衛生環境の著しい悪化により10年間で少なくとも数十万人にも及ぶ乳幼児や子どもの死亡、老人や病弱者の犠牲、白血病や放射能による疾病の増大がある。−−これだけで膨大なアメリカの戦争犯罪のリストが出来るはずである。すでにその先駆的な調査は、ラムゼイ・クラーク氏と国際行動センター(IAC)らが行った。

(2) 今度は空爆だけではない。バグダッドへの侵攻と制圧、市街戦になれば想像を絶する甚大な被害と犠牲者が不可避に。
 この10年のあいだにイラクは疲弊し困窮し切っている。ブッシュはそこへ侵略するというのだ。否、むしろ相手が弱っているからこそ、今のうちに叩き潰そうということなのだろう。疲弊したイラクに再び空爆するだけでも相当な被害を出すはずである。
 しかしもっと大問題なのは、今検討されている侵攻計画のどれもが、バグダッドと主要都市への進撃と制圧を前提とするシナリオであるということだ。もし、一般住民が集中して生活する首都と大都市での激しい戦闘、全面的な市街戦となれば一体どうなるか。住民の被害はアフガンとは比べのもにならないものとなるだろう。かつての湾岸戦争とも比較にならない。イスラエル軍が抵抗の強いジェニンで一体何をやったのか。アメリカ兵はまわりが全部敵に見え、一般住民を皆殺しにするだろう。それはベトナム戦争での残虐で残忍な仕打ちで実証済みである。血迷った米軍は、何千人、何万人、場合によっては十数万人の犠牲者を出しながら、「悪いのはフセインだ」「イラク軍が抵抗するから仕方がない」「誤爆は仕方がない」「これは戦争だからやむを得ない」等々と居直るだろう。
 対イラク戦争は、何が何でも始まる前に阻止しなければならない。始まれば後は悲劇を迎えるしかない。


Z.マスコミ上で勃発した戦術論争。煮詰まりつつある侵攻計画−−どれも甚大な被害は必至。

(1) 発端はニューヨーク・タイムズのすっぱ抜き。「大規模侵攻計画」。
 以下に紹介するのは、ブッシュ政権のイラク侵攻計画に関する最近の3つの報道記事の翻訳である。一連の報道の始まりは、5月段階での侵攻計画検討段階を報道した7月5日のニューヨーク・タイムズであった。主として米中央軍の戦争計画検討からと思われる。その内容は、概略以下の通りである。
@ イラクの反政府グループは弱体すぎ、イラク軍内部のクーデターは見込みが少なく、これと特殊部隊を組み合わせたアフガニスタン型の戦争だけではフセイン打倒のメドは立たない。
A 米軍自身が地上軍で侵攻することが必要だ。作戦はクウェート、ヨルダン、トルコの3方面から陸軍と海兵隊を投入し、25万人を動員した全面侵攻作戦になる。空爆は周辺8ヶ国と洋上の空母機動部隊から行われる。
 この記事自体が述べているように、この段階では侵攻計画全体はまだ基本線が決まっておらず、可能ないくつかのプランが検討されている前段階にすぎない。さらに正式に米軍に出撃基地を提供すると返答した国はまだない、フセイン後の政権構想については何も決まっていない、イラクの化学兵器や生物兵器の使用をどう防ぐのか対応はまだ決まっていない、等々とまだいくつかの決定的条件が未決定であることを明らかにしたものであった。
 この記事の情報源はたぶん米軍制服組で、統合参謀本部あるいは中央軍司令部のスタッフと思われる。他の新聞報道によれば、米軍の制服組のトップは5月段階ではイラク戦争のリスクの大きさを問題にし、回避したい意向であったと言われる。米軍の統合参謀本部やフランクス将軍率いる中央軍司令部は、湾岸戦争時(このときの統合参謀本部議長が現在のパウエル国務長官)に習い、十分な規模の米軍を結集して慎重な攻撃態勢での作戦を考えているのだ。当時100万人のイラク軍に対して50万の米軍を結集した。従って今は40万人になったイラク軍に対して20-25万人が必要であると言うわけだ。もし攻めるならそれだけの大規模な軍の投入が必要だとする制服組のアドバルーンが、いわばこの記事であった。

(2) ウォール・ストリート・ジャーナルの「中規模侵攻計画」。
 これに対して、ブッシュ政権のシビリアンのタカ派達が反論した。7月15日にはウォール・ストリート・ジャーナルが、7月29日にはニューヨーク・タイムズが「中規模侵攻」作戦が検討されていると報道した。
 その中身は、概略以下の通り。
@ 現在クウェートにいる2万の米軍と海兵隊遠征軍をあわせ5〜7万5千人の兵士を、1週間程度の準備でイラク軍が反撃体制を取る前にクウェートからバグダッドにむけて地上侵攻させる。(ウォール・ストリート・ジャーナル)
A あるいは同規模の部隊で直接バグダッドに空挺部隊が侵攻し、フセイン殺害、指揮通信中枢を破壊しイラク軍を麻痺させる。(ニューヨーク・タイムズ)
 どちらの案もイラク軍は極めて弱体でまともな反撃ができる力を持たない、米軍は砂漠を何の抵抗もなく進軍するだろう、と自己過信と自分勝手な戦力評価を前提にしている。20万もの部隊は侵攻には必要ないと言うわけだ。もしあるとすればフセイン後の軍事占領のために必要になるにすぎないと考えている。この両方の作戦は、もしイラク軍が組織的な抵抗力を発揮し反撃してきたならば総崩れになり、後続部隊を持たない部隊は深刻な打撃を受けることになる。バグダッドに孤立した米軍部隊は援軍がやってくる前に全滅する危険が極めて大きい冒険主義的なものだ。タカ派の政府高官が、フセインなどは“張り子のトラ”だから突っ込めと主張しているのである。
 イラク軍とフセインをもっと過小評価するグループ、その代表者であった大統領軍事顧問のダウニングは、アフガン型の特殊部隊と反政府グループ、空爆だけですぐにも倒せると主張したが、ブッシュ政権がすぐに侵攻に踏み出さないことに業を煮やして自ら辞任した。

(3) 急浮上してきた「中規模侵攻プラス計画」。
 われわれはイラク軍の現在の軍事力、戦闘力について判断するすべを持たない。10年以上にわたる経済制裁で国家そのもの、経済基盤そのものが疲弊していることはすでに述べた通りである。兵器の旧式化、部品不足などで装備は確実に弱体化しているだろう。
@ しかし、イラクがほとんど無抵抗で崩壊するとも思えない。かつての湾岸戦争は、砂漠の戦争であり、アメリカ軍の作戦はイラク軍の主力、特に共和国防衛隊を空中と地上から包囲・殲滅することが直接の目標であった。だが今回はフセインの抹殺とバグダッド及び主要都市の占領・制圧が戦略目標であり、重装備部隊同士の砂漠での野戦よりも、市街戦・近接戦闘に重点が移るのは間違いない。この条件の下では、よほどのことがない限り統合参謀本部や中央軍司令部が中規模侵攻策を取るとは思えない。
 現に8月1日のワシントン・ポストの記事では「中規模侵攻」の約2倍の12万人による案、「中規模プラス」が取り上げられている。しかし、20-25万人もの部隊を侵攻位置に配備することだけをとっても、湾岸戦争時とは状況が異なりアメリカに不利になるだろう。
A しかも湾岸戦争で侵攻の中心となったサウジアラビアは今回は国内からの侵攻、出撃を拒否している。そのためにサウジに置いていた空軍司令部をカタールに移動させているほどである。
B しかし、サウジに代わる国を見つけることは政治的だけでなく軍事的にも難しい。全軍を配置するにはクゥェートは狭すぎるし、侵攻する方向が分かっていれば容易に対策を取られるだろう。ヨルダンは受け入れるかどうか不明の上、重装備の戦車部隊を配備するなら物資の輸送が最大課題になるが、アカバに港湾があるだけで、国土を縦断して部隊、物資、弾薬、燃料を輸送することは困難だ。
C イラク北部(クルド支配地域)については、全体が山岳地帯で重装備の部隊の展開が難しい上、トルコから長距離の物資輸送が必要になる。侵攻の展開地域だけ取ってもおそらくまだ何も決められないのは間違いないだろう。
D また、化学・生物兵器の使用をどう押さえ込むかについても未解決である。われわれは既に述べたように侵攻した米軍に脅威を与えるほど大量の化学・生物兵器を保有しているとは思えない。しかし攻める米軍にとっては「ある」と主張する以上対策を取らねばならない。今回は米の目的が首都制圧とフセイン打倒である以上フセイン大統領が化学・生物兵器使用を抑止する条件はなくなる。兵士への化学・生物兵器使用は防護によって防げるとの立場で強行するのか、この問題も未解決である。


[.後は野となれ山となれ。「ポスト・フセイン」なしに暴走するブッシュ。

(1) 「ポスト・フセイン」の青写真は何もない。
 フセインを打倒した後、その後の政治体制をどうするのか、クルド人反政府勢力が首都バグダッドを統治できないのは言うまでもない。海外へ亡命した旧支配層が統治できるとも思えない。それなら米軍は占領軍として駐留し軍事支配を行うのかどうか。もしそうなれば自己に都合のいいように考えても、直接経費だけで160億ドル、総額はその10倍とも言われる巨大な財政負担をどうするのか。「大規模侵攻計画」はフセイン後の駐留を含めた計画だというが、彼らは20〜25万の軍隊でイラクのような大国を軍事支配できるとでも言うのだろうか。思い上がりも甚だしい。等々。ブッシュ政権に「ポスト・フセイン」の青写真があるとは思えない。
 イラク本国がそんな状況では、中東全域が一体どうなるのか全く想像できない。隣接するサウジアラビア、ヨルダン、クウェートやトルコ、イランまでが、そしてイスラエル・パレスチナ情勢までが一気に緊迫する危険をはらんでいる。国連、西欧諸国はおろか、周辺のアラブ諸国のほとんど、湾岸戦争では全面的な協力者で出撃基地の提供者であったサウジまでがイラク侵攻に反対している理由には、こうした湾岸情勢・中東情勢の不安定化、流動化がある。

(2) ついに民主党もイラク攻撃にゴーサイン。
 米国内の歯止めがなくなった。ブッシュの断固たる決断の前に、議会の民主党からも正面切った反対はついに消え去った。否、むしろバイデン上院外交委員長、ダシュル上院院内総務、ゲッパート、リーバーマンなど民主党実力者が相次いでイラク攻撃を全面支持し、ブッシュ閣下の下に恭順の意を表したのである。非常に危険なことだ。共和党も民主党も、軍事力で中東支配=石油支配を維持強化するという基本目的を共有するということなのであろう。
 政権内で侵攻計画について意見の違いや対立がある状態で、わざわざ公聴会を開いたにもかかわらず、民主党はブッシュに勝負を挑まなかった。ニューヨーク・タイムズの7/5のすっぱ抜き記事が民主党サイドに立ったものだとすれば、結局のところこの制服組の「抵抗」は、成算ある作戦立案のためのもの、小規模侵攻で突っ込まされてはかなわない、そういう牽制でしかなかったことがこれで証明された。
 民主党の明確な支持によって、ブッシュ大統領は国内的には最終的な決断をしやすくなった。今、最終的な侵攻計画確定の直前段階にあるのは間違いない。ブッシュ政権のタカ派的性格を考慮すれば、大統領が決断すれば、一気に計画そのものは決定されるはずだ。大統領の決断一つで、それに応じた次善の作戦を採用し、あるいは自軍被害や成功の確率が低くても冒険主義的戦争に突っこむのが軍中央である。現に「中規模プラス」のような妥協と調整、最終的なプラン作りへの作業も行われている。


\.日本の反戦平和運動の最重要課題に浮上したイラク戦争阻止−−小泉政権の加担阻止を掲げて今から大急ぎで運動を立ち上げよう。

(1) 根本的弱点を持つブッシュのイラク攻撃。
 大義名分がないいきなりの最後通牒。−−これが最大の弱点である。西側同盟国の躊躇と反対。西側世論も全面支持の状況ではない。イラク周辺の親米中東諸国の反対・異論。パレスチナ問題をめぐり今中東ではかつてなく反米感情が渦巻いている。米国内でも政権内部の戦術論争。政権中枢と軍中央との戦術論争。膨大な戦費。描ききれない「ポスト・サダム」構想。等々。−−ブッシュ大統領がイラク攻撃の本格準備に入り始めて以降、様々な矛盾・対立が、文字通り一挙に噴出している。それでもブッシュが強行すれば自ら墓穴を掘ることになるだろう。

(2) 米国内の反戦平和運動の孤立化と日本の運動の意義。
 大統領と政権党が軍事的暴走を始めたなら、それを止めるのは野党民主党の責務である。しかしその野党が政権党に同調したなら、それを止めることができるのは、そんな大統領を選んだ米国民自身である。「9・11」とニューヨークのテロは理由にはならない。イラク攻撃とは何の関係もないからだ。われわれは米国民が中東の安定と世界平和を根本から覆すブッシュによるイラク攻撃を未然に防止する義務と責任があると考える。すでに平和を希求する心ある米国民が「戦争が始まる前に阻止せよ!」を掲げて活発に活動している。しかし彼らの闘いは孤立化し苦戦を強いられている。異常で厳しい「翼賛体制」の影響がまだまだ残っているのだ。
 米国内と比較して、日本ではイラク攻撃がまだ自明ではない。政府与党も、国内世論も、イラク攻撃、フセイン打倒で固まっているわけではない。一歩先に進むヨーロッパの反戦平和運動に続いて、日本でも急いでイラク攻撃阻止の闘いとキャンペーンを立ち上げねばならない。立ち上げることで流れを変えよう。

(3) 小泉政権も与党も動揺している。日本の運動の任務はまず自国政府の加担を阻止すること。
 小泉政権も自民党も、まだイラク攻撃への全面協力に躊躇している。8月4日のテレビ朝日「サンデー・プロジェクト」で山崎拓自民党幹事長は、米のイラク攻撃にどう対応するのかという質問に答えてこう述べた。@国連決議がなければ対米協力はできない。Aもしイラクとアルカイダとの関係が明らかになれば「テロ特措法」を準用して自衛隊を派遣する。Bだが両者の関係を示す証拠がなければ「テロ特措法」が適用できない。時間が足りないので新たな対米支援法も作らない。日本の場合、まだまだイラク攻撃への参戦を阻止することは可能である。
 しかし再びブッシュ政権が参戦と資金援助で脅しを掛けてくることは確実である。「ショー・ザ・フラッグ」の次はどんな脅し文句か。アメリカべったりの小泉首相は、何も障害がないとホイホイ付いていくのも確実である。これを阻止するのは反対運動と世論のみ。
 自衛隊は先行して既成事実作りに躍起となっている。イラク攻撃に備えて自衛隊員を米中央軍に派遣を検討することが報道された。(共同通信2002.07.24)
 先日発表されたばかりの『防衛白書』でも「テロとの戦い第二段階」として「米イラク攻撃の可能性」を示し、「ポスト・アフガン」でも対米協力のための自衛隊派遣に積極的である。(日経2002.08.02)
 8月1日の読売は、その「解説」欄で、イラク攻撃時に今から備えるよう進言する。そこで防衛庁幹部の話として「3つの役割」がアメリカから要求される可能性を問題にする。@現在インド洋で行っている米英艦船に対する洋上給油の継続。A船舶検査活動への参加。B機雷掃海活動。いずれも「テロ特措法」は準用できないし、米側に大義名分も国連決議を意志もないため非常に根拠薄弱だ。
 防衛庁・自衛隊は、それでも@の洋上給油をなし崩し的に続行する姑息な対応を考えているようだ。つまり表向きはアフガン作戦を装いながら、実はイラク攻撃向けの給油をするという禁じ手である。(共同通信2002.07.12)われわれとしては再度インド洋の自衛艦の撤退を政治的争点にし闘わなければならない。単なる洋上給油だとバカに出来ない。何と日本は米英艦燃料の40%を無償で提供しているのだ。(時事通信2002.07.19)

(4) 今から急いで準備を。今秋には開戦前夜の様相が強まる。不意打ち的電撃的な侵攻の危険も。
 戦争の危機は、今後時とともに強まらずにはおかないだろう。「青天の霹靂」(10月侵攻)はなくなったと一部では報道されているが、その場合でも秋には本格侵攻の準備は開始されるだろう。年明けの侵攻に向けて準備の歯車が回り始めるに違いない。否、ひょっとすれば油断させておいて今秋中間選挙の前後に電撃的に侵攻する危険もある。
 全世界の反戦平和運動は、想像を絶する甚大な被害と犠牲者を生み出す米のイラク攻撃を何としても阻止しなければならない。イラク攻撃をめぐる矛盾・対立はまだまだ潜在的なものにとどまっている。これを現実の矛盾・対立に顕在化させるのは、これに立ち向かい阻止する全世界の反戦平和運動しかない。ブッシュは無理筋を押し通そうとしているが故に、意外と脆いかも知れない。
 われわれもブッシュ政権によるイラク侵略に警鐘を鳴らし、反対運動を急いで構築したい。ともに連携してブッシュの戦争願望、石油支配の野望を打ち砕こう。




[翻訳]
アメリカのイラク攻撃計画は3方面からの攻撃を含むと言われる
U.S. Plan for Iraq Is Said to Include Attack on 3 Sides

エリック・シュミット 『ニューヨークタイムズ』2002年7月5日

http://www.nytimes.com/2002/07/05/international/middleeast/05IRAQ.html

ワシントン7月4日

 アメリカの軍事計画文書は、この文書をよく知っている人によれば、サダム・フセイン大統領打倒の軍事行動で、航空、陸上、及び海上兵力が北、南及び西の三方向からイラクを攻撃することを要求している。

 この文書は、おそらくクウェートから、数万の海兵隊と陸軍の兵士が侵攻することを構想している。数百機の軍用機はおそらくトルコ及びカタールを含む8つもの国を出撃基地とし、飛行場、道路網、および光ファイバー通信基地を含む数千の目標に対して非常に強力な空爆を加えるだろうというものだ。

 特殊作戦部隊、あるいはCIAの秘密作戦隊員が、イラクが所有しているとみられる大量破壊兵器やそれを発射するミサイルを保管しあるいは製造している貯蔵所や研究所に襲いかかるだろう。

 この文書の中で部隊展開がありうる地域とされている国々で、そのような(米軍の集結基地としての)役割を果たすことについて公式に相談された国は一つもない、と情報源の人物は計画の予備的な性格を強調しながら言った。ドナルド・H・ラムズフェルド国防長官は、6月に行った最も最近のペルシャ湾岸地域への旅行でクウェートおよびカタールの米軍基地、およびバーレーンの第5艦隊を訪問した。

 たとえブッシュ大統領が公然と、あるいは同盟国に対しては、イラクに対する侵攻の詳しい戦争計画は存在しないと言い続けたとしても、約2ヶ月前にあったようなイラクに対する戦争についての「コンセプト(構想)」の重要な諸側面の大要を述べた文書の存在は、軍の内部での計画が進んだ状態にあることを示している。

 このような計画のコンセプトは、今や高度に進化させられて、明らかに軍のチャンネルの中で作業が進んでいる。一旦コンセプトについての合意が得られるならば、最終の戦争計画を組み立てる段階、そして最も重要なことには、地上の配備や空爆の開始のタイミングの要素は、ブッシュ大統領が決定しなければならないであろう最終の順序決定を意味する。

 ブッシュ氏は、中央軍司令官のトミー・R・フランクス将軍から少なくとも2回のブリーフィングを受けた。それはありうるイラク攻撃の大まかな輪郭(大綱)、言い換えれば「作戦のコンセプト」についてだ。ホワイトハウスによれば、最も最近のブリーフィングは6月19日だった。

 「ちょうど今、我々はコンセプトについて考えたりブレインストーミングをする段階にある」と国防総省の高官は述べた。「我々はかなり進んでいる。」

 この文書に通じている人によると、「中央軍司令部;行動計画」と題された高度に機密の文書は、フロリダのタンパにある中央軍司令部の作戦作成者によって準備されたという。

 軍の高官はこの文書はもうすでに(数度の)改訂を受けているという。しかし、この文書は、重要だが、一般的な考えをペンタゴンが「戦争計画」として定める戦闘作戦の詳細な、段階的な青写真に翻訳していく包括的な過程の中では、予備的な段階のスナップ写真にすぎないというのだ。

 それでも、ブリーフィング用のたくさんのスライドのセットにまとめられたこの文書は、イラク打倒のためのオプションを考えることを任された戦争の作戦計画者たちの内面の神聖な場所への希有の一瞥を提示している。

 「非常事態の計画を発展させ、時折それを更新することは、国防総省の責任だ」と今日、ペンタゴンの女性スポークスマン、ビクトリア・クラークは言った。「実際、我々は近ごろ新しい一般計画立案のガイダンスを出した。そしてそれは、スタッフ・レベルでの活動を生みだす。」

 高官によるとラムズフェルド氏も統合参謀本部あるいはフランクス将軍も、今までのところこの文書そのものではブリーフィングを受けていないというだ。

 この文書の内容を匿名の条件でニューヨークタイムスに教えてくれた、この文書をよく知っている情報源の人物は、少なくともこのブリーフィング用スライドのセットに反映された計画は不十分なもので、1991年の湾岸戦争以降に軍が達成した戦術および技術上の進歩が十分に組み込まれていないという欲求不満を表明している。

 政府高官達は、フセインを排除するための戦争以外の選択をまだ比較考察しているところだと言う。しかし、軍および政府高官の大多数は、イラクではクーデターが成功しそうにない、また地方の勢力を利用したクーデターではイラクの指導者を権力の座からたたき落とすには力不足だろうと信じている。

 中央軍の文書やあるいは軍の高官とのインタビューの中には、イラクに対する攻撃が今にも起こりそうなことを示唆するものはない。

 実際、政府高官達は、軍事上、経済上の、そして外交上の当を得た状況を作る時間を稼ぐために、どんな攻撃もたぶん来年早くまで遅らされるだろうと言い続けている。

 それでもなお、軍が大規模な航空攻撃作戦、および地上侵攻の用意をしているといういくつもの兆候がある。

 湾岸での戦争に備えると指定された、カリフォルニア、キャンプ・ペンドルトンの第1海兵遠征隊の数千の海兵達は、すでに模擬攻撃の演習を強化したとペンタゴンの顧問は述べた。軍は湾岸のいくつかの国で軍事基地建設を続けている。その中にはアル・ウデイドと呼ばれるカタールの主要な軍用飛行場が含まれる。数千人のアメリカ兵がこの地域に既に配置されている。

 アフガニスタン戦争で精密誘導爆弾の在庫が危険なほど残り少なくなったので、米国防総省は在庫が少なくなっている弾薬の生産を増強したと言明した。空軍は、アメリカ合衆国と中東の補給所に武器、弾薬、および航空機のエンジンのようなスペアパーツを備蓄している。

 「いつ、どこで次の非常事態が起こるかわからない」、と空軍資材部隊の司令官であるレスター・L・レイレス将軍は今週のインタビューで言った。「しかし、我々は、備蓄貯蔵所をいっぱいに満たしておきたい。」

 中央軍の文書は、それをよく知っている情報源の人物が述べているように、それに含まれているものだけでなく、それが省いたものも重要だ。

 文書は、攻撃される特定のイラク軍の基地、地対空ミサイルのサイト、防空ネットワーク、光ファイバーの通信網について細部にわたって正確に記述している。「目標のリストはとんでもないくらい膨大なものだ」とこの情報源の人物は述べた。「我々が今までたいへん長い時間これらを見張ってきたことは明らかだ。」

 何十枚ものスライドが、ペルシャ湾岸の基地に備蓄されたアメリカの武器弾薬の正確なトン数、軍隊が米東海岸や西海岸からペルシア湾地域に出発する配備時間線、そして複雑に絡み合った情報、監視、偵察ネットワークなどの組織的細部に割かれている。

 同時に、情報源の人物によれば、その文書はどの作戦についても他の重要な側面については何も言っていないか、ほんのわずか述べているだけだ。そのことは計画の異なる部分に関するいくつかの高度に機密の文書が他にあることを示唆している。

 たとえば、情報源の人物によると、「行動計画」文書は、他の連合軍や死傷者の見積もり、どうやってフセイン自身を標的にするか、アメリカ軍の攻撃が成功した場合どんな体制がそのイラクの指導者の後を引き継ぐのかなどについて述べていない。

 この文書は航空攻撃と地上攻撃の順序や、特殊作戦部隊の正確な任務、あるいは化学兵器を装備しているかもしれないイラク軍とのバグダッドの中心部での市街戦の可能性についても議論していない。

 事実、イラクの大量破壊兵器についての議論は比較的簡潔だ。この文書は、このような大量破壊兵器がアメリカ軍、および周囲の国々に及ぼす広範な脅威、これらの兵器を使うことをバグダッドに思いとどまらせる必要、および、思いとどまらせることに失敗した場合にこれらの兵器に対抗する方法について議論している。

 この文書は、海兵隊および陸軍師団、航空遠征軍、空母の数について述べている。これらの部隊と他の軍はあわせると25万人になると、その文書をよく知っている情報源の人物は言う。しかしこれらの軍についてそれ以上の詳細はほとんどない。

 また、フセイン氏に猛烈に忠実だと信じられている共和国防衛隊および様々な保安部隊を含めて、文書はイラクの地上軍の包括的な分析を含んでもいない。この事は、このような分析が不十分であるのか、別の計画文書に含まれるのかどちらかであることを再び示唆している。

 アメリカ軍の巨大さを強調することによって、文書は、作戦の成功のためにはクウェートを集結基地としてそこから展開する相当大きな通常兵力か、あるいは少なくともクウェートに予備兵力をおく事を必要とするという見通しを反映しているように見られる。

 陸軍の退役将軍ウェイン・A・ダウニングに支持されたもう一つの計画は、航空攻撃とイラク国内の戦闘員と連携した特殊作戦部隊の攻撃の組み合わせでイラクを征服する事を求めたもので、アフガニスタンでの軍事行動によく似ている。(しかし)そのアプローチだけに頼ることはすでに除外されたようだ。

 ダウニング将軍は、先週ブッシュ氏の対テロに関するチーフアドバイザーを辞任した。政府がイラクに対して強硬なことを言うが行動に欠けることに失望したのだと報道されている。

 多くの質問の中で、軍と政府が侵攻を実施する前に取り組まなければならないのは、この地域のどこを空軍及び地上軍の基地とすべきかということだ。

 地理学的に見て、および歴史的に見て、特に湾岸戦争の経験は、クウェート、トルコ、カタール、アラブ首長国連邦およびバーレーンのような国が兵員や航空戦闘部隊を展開する候補になると示唆している。

 アメリカが湾岸戦争の時に航空攻撃の大半をそこから実施したサウジアラビアの基地を使うことについてどんな言及も文書からは目立って消えてしまっている、とブリーフィングスライドをよく知っている人物は言った。その人物によると、サウジアラビアの空軍基地そのものでなくても、イラクに隣接するサウジアラビアの空域を使うために、アメリカはサウジの許可を必要とするだろうということだ。

 サウジアラビアは、アメリカがアフガニスタンに対して航空攻撃を行うためにリヤド郊外のプリンスサルタン空軍基地の最新式の司令センターを使うことを許可したが、サウジアラビアの領土から空軍がいかなる攻撃を行うことも禁止した。

 空軍高官達は、サウジアラビアがアメリカの作戦に課した制限に不満を表明し、中央軍はカタールのウデイド基地に代わりの司令センターを作っているが、それが必要になるに違いない。

 中央軍の文書は、アメリカ軍がいつ湾岸に移動し始めることができるのか、あるいは全部の部隊を配備し終わるのにどれだけ時間を要するのかというタイムラインを含んでいない。また、その文書は政府高官が格闘している最も大きな問題−−もしアメリカが湾岸戦争で行ったように通常戦力の大集結を行ったならばどのようにフセインは反応するだろうかということにも答えていない。

 「我々が25万人を配備したら、イラク人は実際、手をこまねいて見てはいないだろう」と、ある軍事アナリストは言った。




[翻訳]
イラク侵攻計画に伴う諸問題
米国は中間の道を取る新しい戦略を考慮する

Problems with Iraq invasion plans
U.S. to weigh a new strategy, striking a middle ground

グレッグ・ジャッフェ 『ウォール・ストリート・ジャーナル』 2002年7月15日

http://stacks.msnbc.com/news/780434.asp

ワシントン、7月15日

 米国が軍事力によってサダム・フセインを排除するために考えている2つの戦略に関する諸問題は、何人かの軍事立案者を新しいオプション − 空爆と地元の反対勢力を利用する小規模な軍事行動と、軍隊の圧倒的な侵入との中間の道(妥協点) − に駆り立てている。

 何人かのブッシュ政権の顧問 − 特にペンタゴンとホワイトハウス内の何人かの民間人 − は、イラク人反対勢力および亡命者と共に働く数百人の特殊作戦兵士によって援護された空襲で、イラクでの職務を遂行することができるかもしれないと主張した。一方、上級の軍当局は、フセイン氏の排除にはより伝統的な250,000人の軍隊の動員を必要とすると主張していた。

 中間アプローチは空軍力を50,000から75,000の間の地上部隊兵力と結合させるだろうと、イラク計画に関わる国防省職員は言った。


急激な軍事行動はまだあり得る

 軍当局および国防専門家は、ペンタゴンは約2週間以内にクウェートでそのような兵力を集めることができそうだと言った。それらの軍隊は、その領域へ空輸され、カタールやクウェートのような国々、およびインド洋上のディエゴ・ガルシア島に格納された、予備配置されたタンクその他の装申車を伴って戦闘に進むことができるだろう。その数はまた、それらの航空機で展開することができる少なくとも25,000の軽歩兵隊軍隊を含むだろう。

 軍隊は軍が招集できうる限りの空軍力によって援護され、トルコ、カタール、クウェート、バーレーン、オマーン、アラブ首長国連邦のような場所にあるその地域の至る所の基地から、そして5隻もの空母から、送り出されるだろう。燃料補給、監視、および偵察機のための、サウジアラビア領空およびサウジ飛行場へのアクセスもまた重要だろう。

 特殊作戦部隊、CIAのスパイ活動、および反対勢力がなお、離反を促進し、可動性のスカッドミサイルや化学・生物兵器研究所に対する空襲を準備するために使用されるだろう。

 軍事的な動きをするいかなる政権の決定もまだない。イラクの指導者を倒すいかなる公然のアクションもまだ恐らく少なくとも数か月先になるだろう。それでも、可能な戦術についての内部討論は、ここ数週間で進んだように見える。

欠点が新しい焦点になる

 しかし、討論が拾い上げたように、2つのもっと極端な計画の欠陥がより多くの関心を引きつけている。 国防長官ドナルド・ラムズフェルドを含む政府高官は、数百の特殊作戦部隊、空軍力、および地元反対勢力だけによる、アフガニスタンでの軍事作戦のやり方で、フセイン氏を倒しうるということに疑いをいだいている。フセイン氏の権力掌握は非常に強く、反対勢力は一緒に動くことができるようには見えないと、これらの高官らは恐れている。

 ポスト-サダム政府がどのようなものかについて話すため、約70人の主な反対勢力リーダーが週末中ロンドンに集められたが、国防省職員が言うには、反対グループの口論を浴びながら会合を組織するのに数週間かかった。「反対勢力は今のところは、まさしく大失敗だ」、米国内および欧州で反対諸グループと働いてきた国防省職員は言った。

 一方、フセイン氏が米軍に、250,000の軍隊の侵入が要求する3か月の軍隊集結というぜいたくを先制攻撃なしに許すということはありそうもないと考えられている。さらに米国のアラブの同盟諸国にとっては、―― それらの国の飛行場その他のインフラストラクチュアがそのような(大規模侵入のための)努力に決定的に重要であるが―― 3か月の軍隊集結とその後の戦争の間、安定を保つのは困難だろう――特に、アラブ世界の反米感情を燃やすイスラエル−パレスチナの衝突が、まだ荒れ狂ったように動き回っている場合には。

 それらの問題は、別のコースのケースを強くしている。50,000〜75,000の地上部隊の兵力を使用する侵入計画は、まだ存在しない。イラクでの戦争がどのように行われるかの輪郭は、中東および中央アジアの軍隊を監督する軍の中央司令部(Central Command)によって準備された。彼らはなお、米国が約250,000の軍隊の兵力をもって前進するだろうと仮定している。中央司令部司令官のトミー・フランクス将軍は、その戦争計画に関して6月にブッシュ大統領に要点を説明した。それは、軍内部でクウェートからイラクの軍隊を追い出した作戦のコード名にちなんで、「砂漠の嵐−ライト」と呼ばれている。

 75,000未満の軍隊の兵力でイラクに攻め寄せることに関して、フランク将軍がどう考えるかもまた不明だ。そのような兵力は10年前に米国がペルシャ湾で戦うために招集した500,000の軍隊の小片にすぎない。しかし、小さな戦争計画の支持者は次のことを主張する、精密兵器の著しい優位と、情報を収集し戦場の至る所にそれを配送する米軍の能力が、戦争を根本的に変えたと。


情報ボトルネック

 湾岸戦争中、目標に対する精密兵器を使用した攻撃を準備するのに数日かかった。遅延の最大の源泉は、衛星写真あるいは目標のリストのような情報を単に移動させることだった。それらは戦場を手で輸送されなければならなかった。今日、動いている乗り物を追跡するJSTARSのようないくつかの監視用航空機からの情報は、戦闘機のコックピットへ直接発信することができる。 グローバル・ホーク(Global Hawk)やプレデター(Predator)のような無人監視機は、戦場のビデオをほとんど即座に司令センターに送ることができ、センターは戦場を囲んでいる精密爆弾で武装した爆撃機と常時連絡している。

 戦場のセンサーによって目標が見つけられてから攻撃するのに数日かかっていたのに代わり、軍は今やわずか20分ほどで攻撃することができる。「米軍は10年前より1桁も優れているのだから、より小さな兵力で十分だ」と、ダニエル・グーア(Goure)、バージニア州アーリントンの防衛シンクタンク、レキシントン研究所の上級のアナリストは、言った。一方、10年間の制裁を受けたイラクの軍は、「1桁も悪くなっている」と、彼は言った。

 250,000の軍隊を伴うイラクの大規模侵入のためのアウトラインは、当時アントニー・ジニ将軍の指導下にあった米中央司令部(U.S. Central Command)によって1998年に最初に作られた。「はるばるバグダッドまで進行し、サダムを倒し、さらにその国を安定させるためには、200,000〜300,000の間の軍隊を必要とするだろうというのが、我々の確信だった」と、その時立案に関係した1人の前中央司令部職員は言った。

 しかしながら、それらの軍隊のほとんどは、実際の戦いにとって不可欠なものとしては見られず、むしろフセイン氏が落ちた後、国の統一を保つことに不可欠なものと見られていたと、この職員は言った。ジニ将軍やその他の中央司令部高官は、軍事の部分が非常に困難であるとは決して思わなかったと、もう一人の前中央司令部職員は言った。むしろ彼は、地上部隊の中で最大の部分が2つの使命のために必要だろうと主張した:深刻な民族の分裂に悩まされる国であるイラクが完全な混乱へと崩壊するのを防ぐこと;および、サダム・フセインの化学・生物兵器の倉庫を確保すること。

 将軍はしばしばイラクにおける米の戦争の余波を自動車の後を追う犬と比較したと、前中央司令部職員らは言った。犬にとって最も難しい部分は、ジニ将軍は考え込んだ、「それを捕まえるやいなや、それをどうするべきか」を考え出すことだ。




[翻訳]
イラク戦争のタイミングと戦術が論争されている
ブッシュ政権トップは、将軍たちの伝統的な見解を非難

Timing, Tactics on Iraq War Disputed
Top Bush Officials Criticize Generals' Conventional Views

トーマス・E・リックス 『ワシントン・ポスト』 2002年8月1日

http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A28740-2002Jul31.html

 ブッシュ政権内部でサダム・フセイン・イラク大統領打倒の方法をめぐってますます論争的な議論が進行中だ。政権のシビリアンの指導者はより少ない兵力をつかった革新的なやり方を主張し、軍事計画の立案者たちははるかに多くの兵力を使ったより慎重なやり方を主張している。

 この議論の真近にいる何人かの人によると、チェイニー副大統領とドナルドH.ラムズフェルド国防長官は、フセイン大統領が深刻な脅威であり、時間はアメリカの味方ではないと、攻撃的にフセインと対決することを最も強く主張している。

 この議論に参加している人たちによると、コリン・L・パウエル国務長官とジョージ・J・テネットCIA長官は、軍事作戦について懐疑的な態度をとっており、特にこの政権のほとんどの高官たちがかなりすばやく勝利するだろうと想定しているが、その後に起こることに対して彼らは深い疑問を持っているということだ。

 空軍と海兵隊の何人かのトップの将官たちを例外として、多くの上級の制服組軍人たちは、いつでも直ちに戦うことに反対しており、この軍人たちの態度がペンタゴンとホワイトハウスのシビリアンの高官たちの欲求不満を刺激している。さらに、パウエルの態度が外交政策討論ではむしろお互いに反対の立場に立つとみられる政府の部門である国務省とペンタゴンの制服組みとの間に異常な同盟をもたらしたと考える人たちもいる。

 討論されていないのは、フセインを権力の座から追い出すという究極目標、すなわちブッシュ大統領が繰り返し追及する決意だと述べた結論についてだ、と高官たちは言う。しかしどういう方法でやるのかはまだ決まっていない。高官たちは、政府がまだイラク攻撃のさまざまなやり方を議論する初期の段階にあり、いかなる正式の計画も大統領に提案されていないことを強調した。

 何人かの軍の高官のトップは、侵略的な封じ込め政策――「飛行禁止」地帯、海軍による制裁の実施、および近隣への2万人の米軍配備を通しての――はフセインが直接の脅威になるのを防いだと主張する。また、ブッシュ大統領はすでにイラクの反対グループと部分的に協力して、権力からフセインを引きずり下ろすよう試みるために秘密作戦を行うことに同意している。今議論されている問題は、明白な軍事行動でフセインに対して動くかどうか、もしそうなら、いつ、どんな方法でかということだ、と高官たちは述べた。

 何人かの防衛専門家によると、これらの質問に十分な解答がないことが政府内部に新しい緊張を作り出している。議論に加わる二人の人物 − 一人はペンタゴンの中に、もう一人は外にいる − は、チェイニーとホワイトハウスの他の人々は、統合参謀本部と他の軍指導者たちがラムズフェルドとシビリアンの強硬派と戦い、行き詰まらせたことを、次第に心配するようになっていると述べた。「私は、ペンタゴンの頂点に立つ人々が圧倒されるのではないかと心配している」と、1人の共和党の外交専門家は言った。

 彼や他の人物は、匿名を条件にして、政府内で、特にペンタゴンでイラクに関する計画についての情報が厳重に保持されている雰囲気を引き合いに出しながらこの論評のためのインタビューに応じた。

 彼の正当性を主張して、昨日ラムズフェルドは上院軍事委員会でフセインとの状況がよくならないだろうと述べた。「時の経つにつれ、経済的制裁は弱くなった。外交上の努力は少し疲たようだ。彼が地球中にテロリストの政府を増殖させる上で今までにしてきたことは、深刻なものだ」と彼は言った。

 ラムズフェルドは、「何をするべきかについて異なる考え」があるが、しかし米ペンタゴンのシビリアンと軍の指導者のトップの関係は緊密だと述べた。「討論が行なわれ、道筋が確立される、これらのシステムはこれまで経験してきたのと同じように機能している」と彼は言った。

 高官によると、討論がどのように終わりそうかということについて、過程に深く関わっている人々の中でさえ大きな意見の違いがある。何人かの人は軍事上の関心事がフセインとの直接の対立を支持している人たちにブレーキをかけるだろうと考えている。一方他の人たちは、イラク大統領を権力から取り去るという(ブッシュ)大統領の決心はすでに非常にはっきりしているので後戻りできないと言う。

 フセインと闘争すべきだという主張者の一人は、軍指導者の上層部の断固とした反対が最後にはブッシュを思いとどまらせるのではないかと心配していると言った。「イラク侵攻したくない人々に侵攻を強制することはできない。そして陸軍の中将や大将たちはそうしたくないのだ」と彼は言った。「私は、ブッシュが再選に向かって走り出すまで、これが行ったり来たりを繰り返すと思う。」

 しかし、他の人々は軍の反対が拒絶されるだろうと予測した。「私は、大統領が体制の交替をもたらす戦争の計画に同意するだろうと大いに確信する」とGOP外交専門家は言った。

 結局、「軍はこの政府で限られた影響しか持っていない」と、政府高官の一人は言った。

 軍人達は1991年の湾岸戦争以来、技術進歩がどれほど軍事的な攻撃能力を改善したかの正当な評価を欠くので、軍の計画者はすべての計画で一貫してより多くの兵力を要求する、と討論に参加する何人かのシビリアンたちはいらだっている。「問題は、イラクに対して重大なダメージを与える能力が今日では10年前とは大きく異なっていると言うことだ」と、国防科学会議やその他のペンタゴン顧問団のメンバーであるデニス・ボビンは言った。「我々は、未だかつてないほど多くの利用可能な選択肢を持っている。」

 討論の中で、シビリアン達は、湾岸戦争の時にイラクに対して展開した50万の米軍とは根本的に異なるアプローチを考慮するよう軍の計画者に主張した。より小規模で迅速な攻撃を支持する人たちの現在のお気に入りは、クウェートからバグダッドへの装甲車両による突撃と結合した狭い地域に焦点を合わせた空爆による電撃攻撃だ。これは、このようなわずか数日間の軍事行動なら、フセインが彼の軍隊を都市に隠したり、大砲をユーフラテスの北岸に運び、その広い河の渡河を試みる米軍を砲撃する、あるいは化学兵器を含めて砲撃するような余裕を与えないだろうという考えだ。

 さらに、他のいくつかの「晴天の霹靂」作戦が密かに議論され、机上演習で研究されている。「多くのすばらしいオプションがあるが、一般の人の眼に触れるのはそのうちのほんのわずかだ」とペンタゴンの顧問は言った。特に、特殊作戦軍は「精密攻撃と情報優位」を結合したいくつかの「戦術的に革新的な」攻撃法を提案したと、国防総省職員は言った。

 しかし、この過程に参加している人によると、提案がどれほど革新的であろうと、中央軍の作戦計画者達は伝統的な考え方でそれを押しつぶすように思われ、そのことが攻撃の準備も戦争そのものも遅らせることになるだろうということだ。その(中央軍)司令部――中東、ペルシア湾、およびアフガニスタン方面の米軍司令部――は、極めて用心ぶかいと米ペンタゴンで評判のトミー ・R・フランクス将軍によって率いられている。

 「彼らは何ヶ月もの間これらの考えを持っていた。しかしその考えを持ってフランクスのところに戻ると、彼が「いや、いや、きみには3個機甲師団と1個航空師団が必要だ」と言う。――ということは、小規模攻撃が失敗した時の保険として約6万の控え部隊が必要だということだ、と一人の国防当局者が言った。彼によると、この夏の初めに作られた1つの計画では、全部で必要な兵力は約10万になるとのことだ。

 その後の会議で、シビリアンの高官による鋭い質問によって想像上の攻撃に必要な戦力総数は6万8千にまで削減された、とその当局者は付け加えた。それから、「2週間後に、陸軍はその数字を12万人に押し戻した」と彼は言った。

 明らかな袋小路状態は、何人かの政府当局者の間でフランクス将軍と陸軍に対して極度の欲求不満を引き起こしている。

 ペンタゴンの顧問団の1つである国防政策会議の7月10日の会合で、議論された主題の1つは、革新的にイラク攻撃の計画を立てることへの軍の躊躇をどう克服するかということだった。「議論されたのは軍務の問題だった」と、会議に出席した一人の国防専門家が言った。彼の結論は、「特に陸軍では、数人の指揮官を交代させる必要がある」というものである。

 作戦計画に関わる人々は、たくさんの異なる計画とバリエーション――25万人の軍を含む「湾岸戦争ライト」から、相対的には小規模な特殊作戦部隊と空爆、イラク人反政府勢力を結合した「帰ってきたアフガン戦争」まで――が出てきた理由は戦争の性質について大きく異なる仮定がされているからだと言った。

 「イラク侵攻の方法については多くのことが明らかに進行中である」と、一人の政府高官が言った。「正しい方法も、間違った方法もない。どの国をあてにできるのか、あるいはこの地域での戦争の結果がどうなるのかが分からないので、方法を決めることが難しいのだ。」

 最初の大きな変数は、攻撃が行われる地域の地政学的状況だ。何人かの軍の計画者は、アメリカ軍は最後にはイランとシリアを除いて、地域のほとんどの国の基地を使えるだろうと信じている。他の人たちは、アメリカはとても多くの制約を受けるだろうと予測している。

 第2の分野は、軍事的な危険の度合いに関係している。当局者によれば、大きな不一致が、特にイラク軍が全体として戦うか、それともフセインの最も精鋭で忠誠心の高い部隊である共和国防衛隊だけが戦うのかについてある。

 より小規模で迅速な攻撃を支持する人々の何人かは、イラク軍全体を目標にすることは間違いだろうと考えている。彼らは、イラク軍が戦闘を拒否したり、米軍の側に寝返る要素さえ持っていると考えている。「もし共和国防衛隊だけが唯一戦いうる勢力で、イラク正規軍が闘わないなら、空爆によって必要な多くの被害を実際に与えることができるだろう」と、討論に関わるペンタゴン顧問は言った。

 最後に、勝利の後に米軍および米政府がイラクにどれほどの負担を担うことが必要かをめぐっては意見に異常なほどの幅がある。どのくらいの期間米軍が駐留しなければならないのか、どれくらいの米軍が必要か、他国からの平和維持軍が加わるのか、などが議論されている。最も重要なのは、たぶん、イラクの人々が米軍の到着を歓迎するか、それとも反対するかと言う問題である。

 これらすべての予測は、戦争の性格――その範囲、継続期間、強度――が戦後のイラクのムードを決めるのを助けるだろうという事実によって複雑にされている。

 「ダウニングの反対は、作戦後の環境を傷つけるだろう、長期間の破壊的な地上と空からの作戦に向けられていた」と、一人の作戦計画者がウェイン・ダウニング退役将軍に言及して言った。ダウニングは最近ホワイトハウスを去った。イラクの作戦計画での騒ぎの故だとも言われている。




ブッシュの対イラク攻撃準備と国際情勢:

(T) カナナスキス・サミットと米ロ「準同盟」化の危険性
    −ブッシュ政権によるイラク攻撃包囲網構築の到達点と反戦平和運動の課題について−

(U) 米中東政策の行き詰まりと破綻を示す新中東「和平」構想
    −−ブッシュ政権がなかなか進まない対イラク戦争準備に焦って、
       「仲介役」の仮面すら投げ捨て公然とシャロンの側に立つ−−

(V) イラク攻撃に備え、先制攻撃戦略への根本的転換を狙うブッシュ政権

(W) 国際法・国際条約・国連決議を次々と破り無法者、ならず者となったブッシュのアメリカ
    −− 鏡よ鏡よ鏡さん。この世で一番のならず者はだーあれ −−

(X) [資料編] NHK ETV2000 より 「どう変わるのかアメリカの核戦略〜米ロ首脳会談を前に」

(Y) 米ロ首脳会談とモスクワ条約について
    −−米ロ「準同盟国」化で現実味増したブッシュの先制核攻撃戦略

(Z)「兵器ロビー」
    20年ぶりに復活する米軍産複合体