ブッシュの対イラク攻撃準備と国際情勢(Z)
「兵器ロビー」
20年ぶりに復活する米軍産複合体


■ 米ワールド・ポリシー研究所(World Policy Institute)のウィリアム・D・ハートゥング氏は、この5月に「ブッシュ政権の20年間の米核政策の根本的な逆転における、兵器ロビーの役割」と題する長文のレポートを発表しました。この報告書は、米国の戦略的政策の形成に際しての兵器ロビーの役割を分析する一連の報告の最新版ですが、3月に暴露されたブッシュ政権の核戦略について、軍需産業が果たした役割という観点から、興味深い分析と評価を行っています。私たちもかねてから関心を持ち、論証したいと考えていたブッシュ政権と軍産複合体との様々な財政的、金融的、人脈的、融合・癒着構造が見事に論証されています。
 http://www.worldpolicy.org/projects/arms/reports/reportaboutface.html

■ 以下に紹介する翻訳は、「The Nation」という雑誌に発表されたハートゥング氏の「兵器ロビー(The Arms Lobby)」という小論です。上記の長文レポートで展開されたブッシュ政権の核戦略の形成に軍需産業が果たした役割について、要約して紹介されています。
 http://www.thenation.com/doc.mhtml?i=special&s=hartung20020613

■ ハートゥング氏によれば、軍需産業に支えられた保守系シンクタンクNIPP(全米公共政策研究所)がまとめた昨年1月の報告が、3月の米新核戦略のモデルになったと言います。氏は、過去20年間の米政権の戦略が、核兵器の比重を引き下げる方向であったのに対し、新核戦略は核兵器の役割を拡張することを要求してきた保守的な理論家たちの勝利であり、「根本的な逆転」だと評価します。そして、新核戦略における、@長距離攻撃システム、Aミサイル防衛、B再活性化した核兵器複合体の3本柱の開発のために投入される莫大な予算が、ロッキード・マーチン、ボーイング、ノースロップ・グラマン、レイセオンなどの軍需産業や、ベクテル、ハネウェル、ウエスティングハウスなど原子力産業、要するに核兵器産業にいかに巨大な利益を供給するものであるかを分析しています。

■ 氏が指摘するように、米の核兵器産業は「ロビー活動をする必要がない」ほどにブッシュ政権に深く入り込んでいます。彼らは「ブッシュ政権そのもの」なのです。逆に言えば、ブッシュ政権は、軍需産業、核兵器産業、軍産複合体そのものなのです。
ブッシュ政権は、新戦略と軍事予算の桁外れの増額によって、危機に瀕していた軍産複合体を復活させようとしているようです。それを進めるには、アフガンのような「小規模な」戦争では足りないと考えているようです。もっと大きな本格的な戦争、イラクへの攻撃が必要なのです。使用できる核兵器の開発で利潤をあげ肥え太る軍産複合体の復活を許せば、大変なことになります。ブッシュ政権の先制攻撃戦略、核使用戦略に反対する運動が極めて重要になっていると思います。

2002年7月22日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局





兵器ロビー
The Arms Lobby
by ウィリアム・D・ハートゥング
『ネイション』スペシャルレポート 2002.06.13


 ブッシュ=プーチン核協定について、軍産複合体内部から批判がほとんどなかった。それは十分な理由があってのことである。兵器ロビーは、ブッシュの核政策を発展させる手助けをし、今それを実行に移すことで利益を得ようとするところまできている。

 ブッシュの核ドクトリンの中心は、長距離攻撃システム、ミサイル防衛、再活性化した核兵器複合体の「新3本柱」である。それは、今後5年の新たな支出として少なくとも330億ドルを見込んでいる。ブッシュ=プーチン合意は、この新しい核兵器増強と衝突するどころか、煙幕を張ることによってそれを促進するのに役立つだろう。その煙幕の背後で新世代の核兵器が開発されるだろう。

 ブッシュの核政策の主要なテーマと個々の詳細の多くは、全米公共政策研究所(NIPP:the National Institute for Public Policy)や安全保障政策センター(CSP:the Center for Security Policy)のような、大企業に支えられた保守系シンクタンクによって開発された。アメリカの核戦力の「理論的根拠と要件」に関する、NIPPの2001年1月の報告は、ブッシュ政権の「核態勢見直し報告(Nuclear Posture Review)」のモデルとして役立った。そしてこの核態勢見直し報告は、アメリカの核「攻撃リスト」の拡大と新世代の「使える」低出力核兵器の開発を裏付けた。NIPP報告を作成した研究グループの3人のメンバー−−国家安全保障会議メンバーのステファン・ハドレイ、ロバート・ジョセフ、そして国防省政策課次官補ステファン・キャンボウン−−は、ブッシュの核政策を実行に移すことにたずさわっている。NIPP所長ケイス・ペインは、「勝利は可能である」と題された核戦争に関する1980年の不名誉な論文の共著者でよく知られているが、最近、国防長官副補佐官としてペンタゴンに加わった。

 フランク・ガフニ−は、1988年にレーガン政権下のペンタゴンを去って安全保障センターを設立して以来ずっと、ミサイル防衛ロビーの中心的存在であり続けてきた。そして、多層化したミサイル防衛システムの開発へ向けて圧力をかけるために、保守系シンクタンクと、議会の兵器管理委員会メンバーと、ロッキード・マーチンやノースロップ・グラマンのような主要な兵器メーカーを糾合してきた。現在ブッシュ政権で活躍しているCSP出身者22人の中には、国防省政策課次官ダグラス・フェイス、空軍長官ジェイムズ・ロッシェ、国防省政策局を統轄するリチャード・パールがいる。CSPの2001年11月「炎の番人」賞選考会ディナーで、ロナルド・ラムズフェルドは、ブッシュ政権で活躍している同センター関係者の数の多さに言及し、次のような冗談を言った。「私はスタッフ会議を召集しようと思っていたんだが、明日まで待とうと思う。(CSPの行事が終わらないとスタッフ会議が開けないという意味−−訳者)」と。

 フランク・ガフニーやケイス・ペインのような保守的イデオローグは、ブッシュ政権の核政策を形成する際に先頭に立ってきたのだが、その間ずっと武器契約者からの決定的に重大な支援を受けてきた。CSPは、1988年の設立以来、300万ドル以上の法人寄付金を受け取ってきた。その主要なものは、ロッキード・マーチンやボーイングのような、CSPが主唱する政策から直接利益を得る企業からの献金である。ロッキード・マーチン社の副社長でミサイル防衛計画担当のチャールズ・クッパーマンは、CSPとNIPPの両方の取締役会の一員である。ロッキード・マーチンは、ミサイル防衛計画の主要な契約者であることに加えて、サンディア核兵器実験施設を経営し、トライデント2.潜水艦発射弾道ミサイルを製造している。どちらもブッシュ政権の核政策推進から主要に利益を享受するものである。

 ロッキード・マーチンのような兵器メーカーは、保守系シンクタンクとの結びつきを超えて、政権内部で影響力を発揮する独自のネットワークを持っている。兵器製造企業の前取締役、相談役、株主で、ブッシュ政権の重要な位置に任命された32人の中で、8人がロッキード・マーチン社と結びついている。主要な会社出身者には、宇宙軍事システムの獲得に大きな影響力のある空軍次官ピーター・ティーツと、エネルギー省の国家核安全保障本部で核兵器運用の責任者であるエヴァレット・ベックナーがいる。

 要するに、核兵器産業はブッシュ政権に対してロビー活動をする必要がないのである。つまり、かなり重大な程度にまで、彼らはブッシュ政権そのものなのである。





ブッシュの対イラク攻撃準備と国際情勢:

(T) カナナスキス・サミットと米ロ「準同盟」化の危険性
    −ブッシュ政権によるイラク攻撃包囲網構築の到達点と反戦平和運動の課題について−

(U) 米中東政策の行き詰まりと破綻を示す新中東「和平」構想
    −−ブッシュ政権がなかなか進まない対イラク戦争準備に焦って、
       「仲介役」の仮面すら投げ捨て公然とシャロンの側に立つ−−

(V) イラク攻撃に備え、先制攻撃戦略への根本的転換を狙うブッシュ政権

(W) 国際法・国際条約・国連決議を次々と破り無法者、ならず者となったブッシュのアメリカ
    −− 鏡よ鏡よ鏡さん。この世で一番のならず者はだーあれ −−

(X) [資料編] NHK ETV2000 より 「どう変わるのかアメリカの核戦略〜米ロ首脳会談を前に」

(Y) 米ロ首脳会談とモスクワ条約について
    −−米ロ「準同盟国」化で現実味増したブッシュの先制核攻撃戦略