以下、警察法「改正」案が「改悪」である理由をまとめました。(印刷用PDF版:A5二つ折り)
●警察法と憲法の理念そのものに抵触する改正であること
警察法は、自治体警察の捜査権限を与える一方で、警察庁に捜査権限を与えないという警察組織の原則を定めたものだ。したがって、警察庁に捜査権限を与える規定を盛り込むことは警察法の性格を根底から否定するものだ。
「サイバー領域」は、憲法21条で定められている言論・表現の自由、結社の自由の領域であり、また、通信の秘密によって保護される領域である。この領域を専門に取り締る警察組織は、そもそも憲法21条とは相容れないものだ。
●改正案は定義のあいまいな概念をあえて用いている。
サイバー事案と重大サイバー事案の定義がなく、両者の違いも不明確だ。衆議院の質疑を踏まえると、重大サイバー事案はサイバー事案そのものであり、政府が重要インフラ14分野として指定してきた領域全体をカバーするものだ。この14領域は私たちの市民生活全体に及ぶから、警察によるサイバー事案捜査とは私たちの市民生活全般を捜査対象にすることとほとんど変りがなく、歯止めがない。
●警察庁の権限が格段に強化され、自治体警察は形骸化する。
スマホで買い物したり電車に乗ったりするように、サイバーと現実空間との間に境界はなく、相互に不可分だ。サイバー警察局が全国に捜査権限を有するということは、同時に現実空間の捜査に関しても多かれ少なかれサイバー警察局を介して警察庁が主導権をもつことにならざるをえない。結果として、地域の市民や住民が警察への異議申し立てを行なうことが今まで以上に困難になる。
●膨大な個人情報の収集と相互利用に歯止めがかからない。
法改正が成立すると、警察庁長官官房が個人情報の収集、管理、技術開発などを一手に担う巨大な監視システムの中枢を担うことになる。警察の各部局が情報を相互に利用しあうだけでなく、他省庁や民間の個人データの利活用をも一手に担うことになるだろう。現状ですら警察保有の個人情報とその利用実態はブラックボックスのままだが、こうした事態が更に拡大する危険性がある。
●警察の捜査手法の高度化が密室のなかでますます進む。
衆議院の質疑で、日本では認められていない警察の捜査手法(リーガルマルウェアの利用など)やスパイ防止法の制定などに関して政府側は明確には否定せず、中長期的な取り組み課題というニュアンスを残した。将来的に、令状主義の形骸化を招くような更なる改悪に繋がりかねないことが危惧される。
●日本の警察が国際社会から信頼されないのは、国際人権の基準を満していないからだ。
日本の警察は国際捜査共助で信頼を醸成できないのは、警察庁に捜査権限がないことが理由なのではない。むしろ国際社会から繰り返し批判されている日本の警察の取り調べの在り方そのものに問題があるからだ。自白偏重、代用監獄など多くの問題が繰り返し指摘されている。こうした問題にまず取り組むことが警察庁には問われているということを国会は認識する必要がある。
●サイバー攻撃、サイバー犯罪は私たちの市民的自由の権利を制約する理由にはならない。
世界中の政府、警察組織は、サイバー攻撃などを口実として、市民的自由を制限したり、政府に批判的な個人、団体への弾圧を強化するなどの問題が起きている。言論表現の自由や通信の秘密の権利は、私たちの普遍的な人権であって、この権利を制約するような警察の捜査権限の拡大は、民主主義社会にあっては認められないことである。
2022/3/14 2.6実行委員会