高市内閣のすすめる『インテリジェンス機能の強化・「スパイ防⽌関連法」』

⼩栗 実 (前鹿児島大学教員、憲法、かごしま九条の会幹事)

この小文は、2026年3月下旬に行われた「スパイ防止法反対!」学習会で話した内容を文字におこしたものです。その内容は3月末までの状況によっています。

1 「国家情報会議設置法」案が国会提出される

衆議院の解散を表明した高市首相は、記者会見(2026年1月19日 内閣HP)で「インテリジェンス機能の強化も、国民の皆様の支持なくしては実現できない大きな課題です。十分な情報を集め、分析し、正確な判断を行う能力。つまり、情報力が強くなければ、外交力も、防衛力も、経済力も、技術力も、強くはなりません。国家としての情報分析能力を高め、危機を未然に防ぎ、国益を戦略的に守る体制を整えます。具体的には、国家としての情報力を強化する国家情報局の設置、外国から日本への投資の安全保障上の審査体制を強化する対日外国投資委員会の設置、インテリジェンス・スパイ防止関連法の制定です。これら全てが急がれます。」と述べた。

首相のいう「インテリジェンス機能」とはなにか? 参政党のように「諜報・防諜」という訳、新聞各社のように「情報収集」という訳をあてているところもある。そもそも中身を有権者にはよく伝えないまま「インテリジェンス・スパイ防止関連法」の制定に高市内閣はまい進しているようにみえる。

「スパイ防止法」という法案の略称は、推進派が使っている略称で、1985年当時には、反対派は主に「国家機密法」などと呼んでいた。今回の法案は「対外祕密保護法」とでも略称したほうが、市民にはその本質がわかりやすいかもしれない。

3月13日に、高市内閣は「国家情報会議設置法」案を国会に提出した。現在開かれている第221回特別国会での成立をもくろんでいる。

 高市内閣は『インテリジェンス機能の強化・「スパイ防⽌関連法」制定』を「国論を二分する課題」と位置づけ、その実現を図っているが、「国家情報会議設置法」案はその第1弾、そして第2弾として「スパイ防止法」案が有識者会議で検討されると伝えられており、秋以降の臨時国会で提出されるとのことである。第3弾として「外国代理⼈登録法」「対日外国投資委員会設置法」などの制定を、2027年度末までに「対外情報庁(仮称)」の創設を目指している、とされる。

2 「国家情報会議設置法」案の内容

内閣官房のHP(https://www.cas.go.jp/jp/houan/221.html/)から国会に提出された「国家情報会議設置法」案の概要、要項、法案などを知ることができる。その担当部局は「内閣情報調査室」である。

「国家情報会議設置法」案の内容は、①内閣に、重要情報活動及び外国情報活動への対処(影響工作への対処を含む。)に関する重要事項を調査審議する機関として、これまでの「内閣情報会議」を廃止し、「国家情報会議」を置く。②国家情報会議の事務局となる「国家情報局」を内閣官房に設置し、「国家情報局長」のポストを新設し、同局の企画立案及び総合調整事務等の規定を整備する。これまでの内閣情報官及び内閣情報調査室は廃止される。

法案によると、「国家情報会議」は、「重要情報活動」及び「外国情報活動への対処」に関する重要事項を調査・審議する機関として、内閣に置かれる。

法案に規定された「重要情報活動」とは「安全保障の確保、テロリズムの発生の防止、緊急の事態への対処その他の我が国の重要な国政の運営に資する情報の収集調査」を指し、「外国情報活動への対処」とは「公になっていない情報のうちその漏えいが重要国政運営に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動であって、外国(本邦の域外にある国又は地域をいう。)の利益を図る目的で行われるものへの対処」を指す。

 「国家情報会議」の事務局を担当するのが新設される(「内閣情報調査室」の格上げ)「国家情報局」であり、その事務は「重要情報活動及び外国情報活動への対処並びに特定秘密の保護に関する法律第3条第1項の特定秘密の保護に関するもの」となっている。情報の収集調査、情報の集約と総合分析がその仕事になる。その長は「国家情報局長」であり、これまでの「内閣情報官」から格上げされる(内閣法の改正)。

「重要情報活動」は、日本国内の「安全保障」「テロ活動」などにかかわる情報の収集、「外国情報活動への対処」は、外国による情報収集などへの対処ということになり、2013年に制定された「特定秘密保護法」の運用に関する事務も「国家情報局」が行うことになる。種子島宇宙センターから打ち上げた軍事情報衛星からの画像情報等(特定秘密とされる)を収集・分析している内閣衛星情報センターは「国家情報局」の下に位置づけられることになるのだろう(内閣官房組織令)。

 新設される「国家情報局」の事務で、特筆すべきは「各省庁が行う情報活動の総合調整」となっている点である。

3 「各省庁が行う情報活動」の総合調整とは

かつて国家安全保障局長を務め、安保3文書の起案の中心になったといわれている北村滋氏の著書によると「インテリジェンス・コミュニティ」と呼ばれている。

 現在の政府内には、情報活動をおこなっている機関が各省庁にある。

  1. 警察庁には警備局(公安課、外事課、国際テロリズム対策課)、サイバー警察局、警視庁及び各道府県警の警備部・公安部、
  2. 防衛省には情報本部。情報本部は、1995年に策定された防衛計画⼤綱に基づいて1997 年1⽉に設置された機関で、定員=⾃衛官1940⼈、事務官738⼈(防衛省のHPから)。各⾃衛隊には実⾏部隊として情報保全隊及び⾃衛隊サイバー防衛隊が置かれている。2026年3月の防衛省の組織改編(航空宇宙自衛隊への改組など)で、サイバー・情報戦、認知戦に対処する組織としてサイバー防衛隊の体制強化、サイバー専門部隊の発足が図られている。
  3. 公安調査庁。破壊活動防⽌法により設置され、最近ではオウム後継団体を監視している。④外務省には国際情報統括官がおかれ、国際テロ情報ユニットがつくられている。
  4. この他に、海上保安庁、⾦融庁(法令等遵守調査室)、財務省、経済産業省などに、情報収集活動をおこなう機関がある、

 北村氏などの主張によると、これらの「各省庁が行う情報活動」がこれまで分散されていた傾向があったとされ、内閣官房による総合調整機能を強化することが立法目的に挙げられている。つまり、現在、政府内の情報機関の「司令塔」をつくるのが、今回のねらいである。

4 「国家情報会議」構想をふくめ「インテリジェンス機能の強化」は、2022年12月16日に閣議決定された「安全保障3文書」の一つである「国家安全保障戦略」に端を発している。

「国家安全保障戦略」では「我が国の安全保障に関わる総合的な国力の主な要素」として「外交力、防衛力、経済力、技術力」とならんで「情報力」があげられ、「我が国の安全保障のための情報に関する能⼒の強化」が掲げられている。要するに、「情報力」の強化が、安全保障政策(防衛政策)の重要な一翼として位置づけられている。

「国家安全保障戦略」では「健全な民主主義の維持、政府の円滑な意思決定、我が国の効果的な対外発信に密接に関連する情報の分野に関して、我が国の体制と能力を強化する。具体的には、国際社会の動向について、外交・軍事・経済にまたがり幅広く、正確かつ多角的に分析する能力を強化するため、人的情報、公開情報、電波情報、画像情報等、多様な情報源に関する情報収集能力を大幅に強化する。特に、人的情報については、その収集のための体制の充実・強化を図る。そして、画像情報については、情報収集衛星の機能の拡充・強化を図るとともに、内閣衛星情報センターと防衛省・自衛隊の協力・連携を強化するなどして、収集した情報の更なる効果的な活用を図る。」ことが掲げられ、まさに、上に書かれた「情報力」強化・戦略を実行することが「インテリジェンス機能の強化」の狙う具体的な内容である。

 最近のウクライナ戦争やイラン戦争などでは、空爆やミサイル攻撃など軍事攻撃による戦闘に加えて「サイバー戦」がしかけられている。敵国のコンピュター管理システムへの攻撃・侵入・破壊という「サイバー戦」、敵国に対して虚偽情報などを大量に送る「認知戦」など、「情報力」は、現代の戦争においては、リアルな武力とならんで「戦争をする力」の重要な要素として行使されている。

安保3文書は、日本を「戦争する国」に変えていく政策文書であるといわれることがあるが、「情報力」の強化は、「戦争する国」づくり、軍事力強化と密接に関係している。高市首相がよく口にする「強い日本」に向かっていくために欠くことのできないものとされている。

5 近年、インテリジェンス機能の強化に関連し「情報戦」を実行するための法律が相次いで制定されてきた。

①「特定秘密保護法」(2013年)

⾃⺠党が⺠主党から政権を奪還し2013年の第185回国会で「特定秘密の保護に関する法律案」(特定秘密保護法案)が安倍内閣によって提出され、同年12 ⽉6⽇に成⽴した。

特定秘密保護法は、⼤⾂等が指定 安全保障に関する情報で ①防衛②外交 ③特定有害活動 (スパイ⾏為等の防⽌)④テロリズムの防⽌に関するものとして、法律で列挙する事項で国家公務員法等上の秘密のうち、特段の秘匿の必要性があるものを「特定秘密」とし、その取扱について制約を課すとともに、その秘密漏洩について罰則を設けている。

特定秘密保護法は、適性評価制度(セキュリティ・クリアランス)を導入し、適性評価をクリアした者のみが特定秘密の取扱いの業務を⾏うしくみをつくった。適性評価とは、まさに祕密を扱う公務員等に対する「人的情報」収集にほかならない。

②「経済安保情報保護法」(2024年)

2024 年5 ⽉10 ⽇、「重要経済安保情報の保護及び活⽤に関する法律案」が参院本会議で可決され、同法案は成⽴した。経済安全保障担当⼤⾂になる前、⾃⺠党政調会⻑だった⾼市⽒はテレビ番組で「経済安全保障推進法にスパイ防⽌法に近い物を⼊れ込んで⾏くことが⼤事だ」と強調していた。

経済安保情報保護法は「重要経済基盤(重要なインフラや物資のサプライチェーン)に関する⼀定の情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に⽀障を与えるおそれがあるため、特に秘匿する必要があるもの、具体例としてサイバー脅威・対策等に関する情報、サプライチェーン上の脆弱性関連情報などを「重要経済安保情報」とし、その指定・提供についてのルールを定め、重要経済安保情報の取扱者を制限する。情報の取り扱いに対しては、特定国家秘密法同様に「適性評価」がなされる。重要経済安保情報を不当に漏洩したものには罰則が課される。

 この経済安保法の分野でも、重要経済安保情報を扱う企業・個人に対する監視、摘発などで情報機関の果たす役割が拡大している。

 噴霧乾燥機を外国為替法、外国貿易法にいう「輸出禁⽌品」にあたるとして社⻑らを警視庁公安課が誤って逮捕し、公訴棄却となった冤罪=⼤川原化⼯機事件では、摘発すれば「手柄」になると、公安警察が無理やり外為法違反等事件としてでっち上げたことが冤罪につながった。

③「サイバー対処能⼒強化法」(2025年)

2025年5 ⽉16⽇、「サイバー対処能⼒強化法及び整備法」が成立した。この2つの法律により、①内閣府の長たる内閣総理大臣は「外外通信」「外内・内外通信」を対象にして、通信情報の取得・分析ができ、取得した情報を他の政府機関に提供することができる。②サイバー攻撃による重⼤な危害を防⽌するための警察・⾃衛隊によるアクセス・無害化措置等ができるようになった。  なお、その際の適正性を確保するための手続きも法制化され、運用を監視するために独立機関である「サイバー通信情報監理委員会」が新設された。

ちなみに、法制定を推進した⾃⺠党治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会の会⻑は⾼市⽒であった。

④ スパイ防止法関連法

 そして、今年度から来年度にかけて、高市内閣が制定を目論んでいるのが、「スパイ防止法」「外国代理⼈登録法」「対日外国投資委員会設置法」の制定であり、2027年度末までに「対外情報庁(仮称)」の創設を目指している。

 「スパイ防止法」は、今年夏にも有識者会議を開催して、法案つくりに入ると報じられており、法案の内容はまだ確定していない。

1985年6⽉、中曽根内閣の下、⾃⺠党所属議員が衆議院に議員⽴法として提出したが、強い反対にあい、不成⽴となった「国家秘密に係るスパイ⾏為等の防⽌に関する法律案」は、全14条及び附則により構成され、外交・防衛上の国家機密事項に対する公務員の守秘義務を定め、これを第三者に漏洩する⾏為の防⽌を⽬的とする。また、禁⽌ないし罰則の対象とされる⾏為は既遂⾏為だけでなく未遂⾏為や機密事項の探知・収集といった予備⾏為や過失(機密事項に関する書類等の紛失など)による漏洩も含まれていた。最⾼刑は死刑または無期懲役(第4条)だった。

この内容の一部は2013年に制定された特定国家祕密法により法制化されているので、新法では「外国の利益を図る⽬的で」外交秘密・防衛秘密などを漏らすなどの行為を犯罪の構成要件とし、旧法案のような厳罰化規定をもった、外国人による祕密漏洩を想定した「国家秘密に係るスパイ⾏為等防⽌法」案が浮上してくるのかもしれない。これらの案は、排外主義の志向を強く持っている維新の会、参政党などの選挙公約に盛り込まれていたものであるし、保守党も「スパイ防止法」制定を条件に2026年度予算に賛成した。

「外国代理⼈登録法」は、外国からの指⽰などをうけて、代理人として⽇本の選挙や政策決定に影響を及ぼすおそれがある活動をする場合に、事前の届け出や定期的な報告をさせ、届け出や報告をしなかった者を処罰するというような内容の法案が想定される。

「対日外国投資委員会設置法」は、外国から日本への投資の安全保障上の審査体制を強化する内容になると予想される。

いずれも、外国からの投資活動を行う会社等、外国の利益のためにロビー活動をする団体等を、日本を「攻撃している団体・個人」とみなす排外主義の発想があるのではないか。しかも、おそらく対中国を意識しているのであろう。

「対外情報庁(仮称)」構想については、まだはっきりとはしていない。報道によると、外務省の「国際テロ情報ユニット」を「対外情報庁」に組織移行・再編する構想があるらしい。それだとすると、大きな新しい組織を新設することにはならないようだ。背景には、前にあげた警察庁、外務省、防衛省あたりの「領地争い」がからんでいるのかもしれない。米国のCIA、イスラエルのモサドのような、独立した情報機関を日本政府が有する構想にまでは、さすがに至っていないと思われる。

さいごに〜情報機関の組織及び活動の強化による人権侵害の危険性と法的統制の必要性〜

 高市内閣のすすめる「インテリジェンス(情報収集)機能の強化、スパイ防止関連法」の推進は、情報機関の組織及び活動の強化をもたらすが、それは、市民の⼈権侵害の危険性につながっていく。「能動的サイバー防御法」は運用次第で市民の「通信の祕密」(憲法21条2項)を侵害する危険性があるし、特定秘密法や「スパイ防止法」案では「報道の自由」「取材の自由」「表現の自由」の侵害、情報機関による「人的情報」の収集等では、市民のプライバシー権、自己情報コントロール権を侵害する可能性がある。

実際、岐⾩県⼤垣市で計画された⾵⼒発電施設の建設を巡り、県警⼤垣署警備課が住⺠の個⼈情報を収集し、業者に提供したのは違法と名古屋⾼裁が認めた「⼤垣市警察監視事件」、2007年6月には宮城県で陸上自衛隊情報保全隊(当時)が個人・団体の動向を監視し,その情報を系統的に収集・分析していた資料の存在が明らかになった事件(自衛隊情報保全隊監視差止等訴訟)もあった。

 「インテリジェンス機能」の強化によって、情報機関による市民への監視が強まってはならない。

情報機関の活動強化にあたっては、違法かつ過度な情報収集等に歯止めをかける法的統制のしくみとして、独立性の高い第三者機関の必要性が検証できるしくみを設けるべきであるし、公文書として情報収集活動の記録を保存し、情報公開や自己の個人情報の開示の対象となすべきである。

2月20日に公表された日本弁護士連合会の意見書の中でも「独立した第三者機関による(インテリジェンス機関への)監督」が提言されている。

 しかし、提出された「国家情報会議設置法」案には、そのような統制のしくみがまったく考えられていない。行政組織の改編に関する法律だけのようにみえるが、人権保障の点からも、憲法の平和主義の観点からも、きわめて大きな問題点をもっている。

*日本弁護士連合会の意見書「現在、「スパイ防止法」として制定に向けた動きのあるインテリジェンス機関強化法制及び外国代理人登録制度についての意見書」は、以下に。

https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2026/260220.html


投稿日

カテゴリー:

投稿者:

タグ:

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です