ユンさんの初の個展(1982年)は43歳の時。画家としては遅めのスタートだった。最初のテーマは「母」。
「母を座らせ、描いている時、心の底から喜びを感じました」
ユンさんが16歳の時に父親が死去。たちまち貧困に陥ったユンさんの母親は、行商をはじめ、あらゆる仕事をして6人の子どもを養った。「私は足元にも及ばない」という母親の存在はユンさんのアートに欠かせなかった。「母」を通して、韓国の母、女性を表現していく。
母親たちの働く姿を描いた絵画には、たくましく、やさしい女性像が浮かび上がる。だが、そこには、低賃金で働く女性が表舞台に立てないことへの批判も込められている。
息子を産むことを強いられる女性たちの苦しみを描いた《息子、息子、息子》、家系図を背景に首を吊った女性が描かれている《族譜》などからは、家父長制の下で抑圧された女性の痛み、悲しさが伝わってくる。
《999》など、彫刻作品に使われるのはもっぱら廃材だ。ごつごつして、決してきれいとはいえない廃材に、身体の欠損感や心の痛みを彫る。
《ピンクルーム》は、ピンクのビーズで敷き詰められた床と、鉄の鋭いフックが突き出ているピンクのソファと木の女性像からなるインスタレーション(空間芸術)。床にもソファにもいられない現代女性の不安定さを表した作品だ。