
(c)落合由利子
2019年の「あいちトリエンナーレ」の一角で、碓井ゆいさんの作品を見た。吊るされた円型フレームに白い薄布が張られ、赤ちゃんの洋服やゆりかご、哺乳瓶等が2つずつアップリケされている。陽の光が透け、美しさに引き込まれるうち、何かを押さえつける2人の女性が―。
「子どもを間引いている女性です」と取材の時に聞いてギョッ。対のデザインは染色体をイメージ。碓井さんが不妊治療を経て出産した2カ月後に制作した「ガラスの中で」という作品で、「受精胚の選別をし、出生前診断で異常があれば9割の夫婦が中絶を選択する。生殖技術、産むこと・殺すこと、選別することについての作品です」と話す。 碓井さんは、社会の構造、埋もれた歴史や声を掘り起こし、批評・考察し、布や糸等身近な素材と手芸的な技法で作品をつくる。軸となるのはフェミニズムだ。
子どもの頃は漫画家になりたかったが、表紙を描くのが一番楽しかったことから「絵を描く人になりたい」。関東の芸術大学の油絵学科に入学するも、「自分の表現したいものとつながると思えない」と悩んだ。ある日、大学祭で売るTシャツにアップリケをしたところ楽しかった。京都の大学院を経て、手芸の技法を作品に取り入れるように。 「でも作品が『女らしい』と言われて。ミソジニーを内面化していたので、『こんなのアートではない』と思い、悪戦苦闘してました」
埼玉県の夫の親戚の家に引っ越した後、福島第一原発事故が起こった。「ショックでした。日本のこと、何にもわかってなかったんだと」。脱原発デモに参加するようになり、「もっと勉強をしなければ」と社会学や歴史の本を読み始めた。図書館でたまたま手にしたのが上野千鶴子著『女嫌い』だった。
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