(c)谷口紀子
昨年12月、金民樹さんの芝居「ウトロ」を見た。舞台は、戦中に軍用飛行場建設に集められた朝鮮人労働者たちの飯場跡に形成された、京都のウトロ集落。大きな夢を持つ若者と、破天荒な母や熱い心意気の祖母ら、個性的な人物に心を掴まれた。 東京朝鮮第4初中級学校の体育館での公演は、客席も舞台も手作り感がいっぱい。満員の観客の笑いが高い天井に響いた。
金さんに話を聞いたのは今年7月の新作「島のおっちゃん」の上演直後だった。母親のお腹の中にいる時から岡山県の長島愛生園というハンセン病の療養施設に通っていた、金さんの実体験から着想を得た作品だ。 「愛生園には芝居に登場するアキやんというおっちゃんがいて、通名で暮らすけど、本名を隠すわけでもなかった在日コリアンです。人間的な魅力もパワーもあって、たくさんの人が彼を訪ねてくる。そんなアキやんを主人公に物語を書けば、在日コリアンに親近感が湧くかもしれない。目の前で生身の役者が物語を繰り広げる演劇ならではの醍醐味もありますしね」と金さんは語る。
脚本のために取材をすると、子どもの頃には気づかなかった事実も知った。「患者たちはハンセン病の療養所に入所すると通名を名乗るようになる。在日コリアンが通名を使うのは差別から身を守るため、自分自身のためですが、ハンセン病の人は家族へ差別が波及することを恐れ、家族を守るため。どれだけつらいことか、絶句しました」
金さんが演劇に惹かれたのは朝鮮学校に通っていた中学2年の時だった。 「朝鮮語の響きが好きで、朝鮮語の詩や小説の朗読をするクラブに所属していました。朝鮮学校の先生に、当時旗揚げしたばかりの劇団『アランサムセ』の芝居に連れて行ってもらって、舞台の真正面に座って見ていた時、私の中で稲妻がピカッと光った。それで『私も演劇やります』って宣言したんです」
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