女を見る女のまなざし 日本文芸映画における女同士の絆
徐玉 著
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女を見る女のまなざし 日本文芸映画における女同士の絆
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本書は、1950~60年代の『挽歌』など6本の文芸映画をとりあげ、原作と比較しながら、女同士の連帯や欲望などを考察。日本映画の黄金時代といわれたこの頃の文芸作品は、男女間の恋愛が中心ではあるが、女性主人公の生き方に重点が置かれていた。さらに注意深く見れば、母娘、姉妹、友人、恋敵など、様々な形の女同士の関係がきめ細かく描かれているという。あまり注目されなかった同性愛的な欲望なども分析している。
その時代に監督(男性)たちが、家父長制の下で権力を奪われた者同士が取り結ぶ“女同士の絆”をみせ、父権的価値観の強い日常から女性たちを一時解放させ、強固な家父長制を掘り崩そうとしたのではという分析に興味がわいた。また、久我美子や若尾文子など個性的な女性スターがどう作品の原動力となったのか、俳優論・監督論もおもしろい。〈母娘〉間の〈同性愛的〉な欲望がしばしば盛り込まれているという解釈は、映画を見る上で注目したい視点となった。(よ)
日本史教科書検定三十五年 教科書調査官が回顧する
照沼康孝 著
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- 日本史教科書検定三十五年 教科書調査官が回顧する
- 照沼康孝 著
- 吉川弘文館2200円+10%
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教科書検定といえば、検定は違憲だと闘った「家永裁判」や「慰安婦」の記述、南京大虐殺の犠牲者数表記など、日本史教科書の執筆者や運動からの問題提起が思い浮かぶ。著者は1983年から35年間、文部省(文科省)で日本史教科書調査官を務め、「つくる会」教科書の登場や沖縄戦の「集団自決」が問題になった時の調査官だ。
調査官による検定に至る調査や判断が回想される。著者は「検定は国家権力の行使だからできるだけ抑制的に行うこと」と考えていた。だが現実は、与党の議員連盟が教科書の記述に介入し、学習指導要領に縛られ、保守・革新の政治対立に翻弄された。検定意見が公表されると、メディアに叩かれるのは決定に権限のない調査官だ、というぼやきも書かれる。
本書では、「つくる会」教科書への疑義、「学び舎」教科書への批判など、私たちと接点はない調査官の視点が垣間見られるのは興味深い。本紙読者がそれをどう受けとめるか。(三)
憲法を取り戻す 私たちの立憲主義再入門
前田朗 編
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- 憲法を取り戻す 私たちの立憲主義再入門
- 前田朗 編
- 三一書房2200円+10%
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憲法改悪に抗する編者は、立憲主義を問い直そうと法学者や弁護士12人にインタビューを重ねて、この国に立憲主義はあるのか、憲法は基本法として機能しているのかを問うた。清末愛砂は、平和主義が生かされないのは、現実を憲法に合わせるのではなく、現実に合わせて規範の水準を下げるからと説く。清水雅彦は、法の支配と立憲主義の危機が長く続いて開き直る政治が横行、その結果、武力行使の新三要件は法の支配をあざ笑う憲法解釈だと話す。飯島滋明は、平和主義・国民主権の実現に地方自治は必須であり、政治に関心と知識を持つ市民の育成も重要とした。
編者の前田は、憲法99条に「天皇…国務大臣、国会議員…は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」とあるように、市民社会が政府に憲法を守らせることが立憲主義のスタートでありゴールでもあると、楔を打ち込むように記し、将来の国民の権利を保証するためにも憲法を問い返す必要があると結んでいる。(公)