編むことは力 ひび割れた世界のなかで、私たちの生をつなぎあわせる
ロレッタ・ナポリオーニ 著 佐久間裕美子 訳
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編むことは力 ひび割れた世界のなかで、私たちの生をつなぎあわせる
- ロレッタ・ナポリオーニ 著 佐久間裕美子 訳
- 岩波書店2700円+10%
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いま、編み物がブームだ。本書はそんな、かかる時間をお金にすればさほど安上がりでもないはずのこの魅惑の手芸についての私的=公的歴史エッセイである。
本書が伝える編み物の起源、系譜、そして人々が編む理由は、非力とみなされてきた編み物にいつも付随していた「力」を掘り起こす。一方で決してひとすじの歴史を紡ぐこともなく、編むという営みが何なのか、説明する言葉は複線的なままだ。編むことで他者と繋がってきた編み手の一人として、編み物という運動は中心なきネットワークなのだと理解した。それも、思ったよりもずっと巨大で有効な。
そのことを何より雄弁に語るのは、本書に「編み込まれ」た、編むことで現実の困難と向き合い癒えゆく著者の姿だ。それはちょうどフランス革命の女性たちの、大戦中の「ニッティング・スパイ」たちの編みによる言語のごとく静謐かつクリアーに、「編むこと」がもつ「力」を読者に読み取らせるのである。(こ)
フェミニスト・ファイブ 中国フェミニズムのはじまり
L・H・フィンチャー 著 宮﨑真紀 訳 阿古智子 解説
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- フェミニスト・ファイブ 中国フェミニズムのはじまり
- L・H・フィンチャー 著 宮﨑真紀 訳 阿古智子 解説
- 左右社 2800円+10%
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2015年3月、中国で5人の若いフェミニスト活動家が逮捕された。後に「女権五姉妹(フェミニスト・ファイブ)」と呼ばれる彼女らは、反痴漢ステッカーを貼ろうとしただけ。なぜ習近平国家主席の独裁政権は彼女らを恐れるのか。中国と米国のミックスルーツの著者が、彼女らの体験や思い、闘い方のほか、警察監視国家の中でも全土の女性たちに広がるフェミニズムの全貌を記した。
建前の「男女平等」だが政権は「女権」を認めず、市場経済導入後は男女格差が開いた。DV、セクハラ、性暴力、雇用差別、マタハラ…SNSの発達を背景に都市部の女性を中心に12年頃から広がったフェミニズムは、少数民族や労働者階級の女性にも広がり、#MeToo運動へ。そして今、人口減を背景に家父長的家族主義と(優生的)出産を喧伝する政府だが-。政府が言論を封じても脅しても、知恵と情熱で歩みを止めない女性たち。外から見えない中国の姉妹たちに出会えた。(H)
- 〈弱さ〉から読み解く韓国現代文学
- 小山内園子 著
- NHK出版1700円+10%
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なるほど!と何度も膝を打ちながら読んだ。韓国文学が面白い理由が本書でよくわかった!
社会で声を上げる韓国の人々の“強さ”に感動し、作品を通じて社会にコミットする「参与文学」と呼ばれる小説の多さを常々感じていた。が、筆者によると、韓国現代文学は、社会を見据えると同時に個を包摂するという独特の視界があり、「自らの意志とは関係なく、選択肢を奪われている立場」を〈弱さ〉とすれば、韓国現代文学には実に多彩な〈弱さ〉が描かれているという。小説『82年生まれ、キム・ジヨン』をはじめ、13の文学から〈弱さ〉を紐解く。加えて、他の文学や映画など、日本のものを含め多くの作品が、比較のために紹介され、理解が深まる。
NHKのディレクターを経て翻訳者、ソーシャルワーカーとなったという著者。多くの〈弱さ〉に接してきたのだろう。著者の〈弱さ〉への鋭い洞察に感心し、人々を勇気づける韓国文学の力にやはり唸ってしまう。(ぱ)