
(c)宇井眞紀子
昨年夏、「私へ座礁する」というタイトルに惹かれて、鄭梨愛さんの個展を観覧した。1945年から朝鮮戦争が勃発する50年までの時期に日本へ渡ってきた、鄭さんの亡き祖父が主軸の作品群。なかでも目を引いたのが、半透明の白い布に風景写真と詩文を綴ったインスタレーション「ある土地の詩〈うた〉」だ。祖父が幼い頃、故郷で父親(鄭さんの曽祖父)が銃殺されるのを目撃した話や、日本軍による最初の虐殺である東学農民戦争の殲滅作戦、朝鮮の民謡などが数枚の布で交差するように織りなされる。祖父につながる全羅道の農民に起きた出来事を重視した。
「曽祖父の話は事実関係が曖昧でもあり、想像も混ぜて散文のように構成しました。事実の追究やそれを正確に伝えることよりも、祖父が晩年まで抱えた記憶の残骸のようなものに惹かれたんです。亡くなったとき、『その事実に出くわした』という感覚が生まれて、背景を理解したいと思うようになりました」
鄭さんが祖父を制作のテーマにしたのは、朝鮮大学校時代にさかのぼる。当時は、「人を見ることを突きつめ、肖像画の概念を拡張したい」思いで肖像画を描いていた。今思えば、祖父を形作ってきたものと、その歴史的な意味について考えていなかったという。そのことに気づかされたのが、祖父が死去した2015年のことだ。
その年、鄭さんは朝鮮大学校に隣接する武蔵野美術大学とのアートプロジェクト・展覧会「武蔵美×朝鮮大 突然、目の前がひらけて」に取り組んでいた。「自分がどういう存在なのかを語らざるを得ない場面」が多く、必然的に祖父の死の意味とも向き合うようになり、さらに「死そのもの」への問いも芽生えていった。
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