
(c)石田郁子
1958年から60年代初頭にかけて起こったサリドマイド薬害事件。今年62歳になる増山ゆかりさんも、両腕が欠損した状態で生まれた。短い腕の代わりに両足を駆使して料理や掃除から猫の世話まで、日々の生活をこなす。
健常者ベースの社会で不便を強いられ生きてきた。衣服も、食事も、選ぶ自由はなく、着られるもの、食べられるものを選ばねばならない。近年増加するタッチパネルには苦戦させられる。銀行のATM操作はやむなく靴を脱ぎ足の指で操作することもある。 ―誰にとっても完璧な人生などない。不平不満を言わず自分の人生を引き受け潔くあろう。そう思い生きてきた。
「でも今、その考えは、少し違っていたのかもしれない、と思っているんです」 57年に西ドイツで開発され、その後世界十数カ国で睡眠薬や胃腸薬として販売されたサリドマイドは、妊婦のつわり軽減などにも使われた。妊娠中に服用した人から生まれた子どもの多くに腕や足の欠損があったことは知られているが、近年の調査では、身体だけでなく、内臓や骨などにも先天的異常があることがわかってきた。加えて、高齢化したサリドマイド当事者たちは、長年の無理な生活の影響による腰痛や手のしびれなど、ひどい二次被害にも苦しんでいる。
増山さん自身も数年前、突然全身の痛みで呼吸することすら困難な状態になり、その後1カ月ほど寝込んだが、病院では原因が特定できず、湿布薬を渡され返されたという。「あなたの体にできる治療はありません」と医師に言われたことさえある。
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