(c)落合由利子
2023年に創元社が創刊した人気シリーズ「あいだで考える」は、10代以上に向けた、正解のない問いを考えるための人文書。編集者の藤本なほ子さんは辞書の編集も手がけ、現代美術の領域で言葉に関する作品も制作してきた。言葉と密に関わる姿が気になり、これまでの歩みについて聞いた。
幼少期から、自転車に乗りながら読むほど本や詩が好きだった。小学4年のときの担任が現代詩の詩人で、詩を書く喜びを知った。それがパタリと止まり、読むことも書くこともできなくなったのが中学生のとき。摂食障害を患い、約2年間家と病院で「ずっと寝ているような状態」になった。当時の記憶はほぼないという。
「高2にあたる年の12月、『ここを離れなければ、この家を出なければ。それには大学に行くしかない』と病院のベッドからむくっと起きて、高校で気にかけてくれていた教師に相談したんです」
紹介してもらった予備校でも、いい先生に出会えた。大学には合格するもほとんど行かず、3年で中退。ただ、今に通じる大切な体験も多かった。そのひとつが写真撮影だ。言葉と違ってゼロから生み出さなくていい、目の前のものを撮ることで表現できる、と救いになり、やがて写真と言葉をスライドで空間に投影する展示を始めた。数年後、言葉のみに絞り、今に至る。 「中学生で読めなくなり書けなくなったことがトラウマのようになった。今でも言葉と自分とのずれ、自分と自分のずれの強い感覚があって、言葉への執着に結びついているようです。それが結局、作品づくりの原動力となりテーマになっています」
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