(c)陳怡絜 YJ Chen
台湾ローカルグルメが口の中で蕩ける感覚を味わい、心の襞をくすぐる女性同士の結びつきに身悶え、軽妙な会話に心躍るうちに、台湾の歴史の深淵を垣間見てしまう―台湾の小説家、楊双子さんの作品はそんな魅力がある。
1938年の日本統治下の台湾を舞台に、日本人作家・青山千鶴子と台湾人通訳・王千鶴が、台湾縦貫鉄道で旅をし美食に舌鼓を打つ『台湾漫遊鉄道のふたり』(三浦裕子訳 中央公論新社)。新作『四維街一号に暮らす五人』(同)は、植民地下に建てられた日本式建物のシェアハウスに現代の5人の女性たちが共同生活をし、そこで見つけた百年前の台湾料理のレシピ本の再現を通じて心を通わす。
台湾で「歴史百合小説」というジャンルを打ち立てた楊さんは、「小説は楽しいのが一番。読者には単純に楽しんでほしい」と言い、「大衆小説家」を名乗り、「重たいテーマを軽いタッチで書く」が信条だ。『漫遊鉄道―』の千鶴子は千鶴と仲を深めたいと願うも二人の間には日本の植民地政策がもたらす越え難い溝があり、多様なエスニックグループや社会・経済階層の出身である『四維街―』の5人にはそれぞれの痛みがある。 特に楊さんと同世代のシェアハウスの大家の物語は、「私たち世代が感じている、台湾人とは一体何者なのかという、アイデンティティの矛盾や葛藤」を投影している。
小説で身を立てようと思ったのは14歳の時。両親が離婚後、楊さんと双子の妹・楊若暉さんは祖母に育てられていたが、14歳で祖母が亡くなり、父も家出して、面倒をみる大人がいなくなった。「夜間学校に通いながら働かなくてはいけなくて、小説を読むこと、書くことは現実から逃避する方法でした。最初に書いたのは異性愛のロマンス小説。私とは関係ないエリート同士の恋愛の話が多くて、現実から離れられたんです」
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