(c)宇井眞紀子
2023年10月、イスラエルによるガザ地区への無差別爆撃開始直前、パレスチナ・ヨルダン川西岸地区を訪れた画家の松下真理子さんが、翌24年5月から7月、「原爆の図丸木美術館」(埼玉県)で、「人間動物」と題した大規模な個展を開催していた。 イスラエル前国防相ガラントが宣言した「我々は人間の顔をした動物と戦っている」、この非人間化の言葉に抗する展示だ。 油絵で描かれた濃い深い赤色の絵画…。まやかしの停戦である現在も続く民族浄化の構造を問う。
集会で。西岸のヘブロンからジェニン難民キャンプへと旅したこと、滞在中にもイスラエル軍による催涙弾が発射されたことを厳しく伝えていた。その姿に心を揺さぶられ、12月に個展「うまれ ―叫びに応答し、生の条件に抗うために―」を訪ねた。 大作の油絵。何度も塗り重ねた暗い層。その奥に幽かな色が見える。
松下さんは幼少期に性暴力を経験した。誰にも被害を告げず一人で抱える状況を、「小さい戦争」と呼んでいた。 「本当の戦争はまだ知りませんでしたが、子どもゆえの絶望、孤独を密かにそう呼んでいました」
性暴力の記憶は簡単には消えない。傷ついた小さな自分と共存し回復するために、詩をつくり、生きる苦しみを描いた。「そして “本当の戦争”を知りたくなりました」 第2次世界大戦中、日本軍がアジア全域の女性たちを性奴隷にした「慰安婦」問題。 「私たちは原爆などの印象の強い悲惨な被害を教えられ内面化していましたが、加害者側なんだ。自分の考えていた〈小さい戦争〉と歴史的な戦争がぶつかる瞬間が来ました」
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