(c)宇井眞紀子
「これを書き上げることに使命感があったんでしょうね。ようやく宿題を終えて、今堂々と太陽の方を見れる」―500頁を超える大著を前に、詩人・あする恵子さんは言う。 2022年発行の『月よわたしを唄わせて 〝かくれ発達障害〟と共に37年を駈けぬけた「うたうたい のえ」の生と死』(インパクト出版会)は、路上を原点に「うたうたい」として生き、自閉症という発達障害の診断が下った直後の08年10月に37歳で自死した娘・のえさんを「掴み直そう」と、恵子さんが10年に渡って、魂をぶつけるように書き紡いできた渾身の一冊だ。本には、魂の底から歌うのえさんの曲のCDや、死の前日まで書かれたブログの日記も収められている。
今年3月16日には、のえさんが1990年代によく出演した、東京・吉祥寺にあるライブハウス「曼荼羅」にて「生きかえった『うたうたい のえ』world 月よわたしを唄わせて・出版1周年記念Live」を行う。 「記念ライブもやろうと思ったのは、私がパートナーと2人で選んだ人生とも関係している。どんなに社会の価値観と違っても、試行錯誤しながら肯定し続けてきた人生で、自分たちから前に出ていかなければ見えなくされる存在だった。同じく、この本もちゃんと見えるようにしなければ伝わらない当事者性があるということで、のえに代わって言わなくちゃっていうのはあった」
恵子さんは、高校卒業後に家を飛び出し、18歳の時にのえさんを出産。のえさんを抱えて、共同保育や女と子どもの共同生活の場を作ってきた。その後、四十数年の伴侶となる陶芸家・岩国英子さんと首都圏で出会い、77年に北陸に移住。岩国さんの子どもたちを含めて5人の子どもたちが姉弟として共に暮らし、その住処を「ベロ亭」と命名。80年代以降は「ベロ亭やきもの&詩キャラバン」を全国600カ所以上で展開、各地の女たちを触発してきた。 本には、独特のでこぼこがありつつも、ベロ亭でのびやかに生きるのえさんが描かれる。 続きは本紙で...