吉野一枝さんが院長を務める「よしの女性診療所」では、更年期症候群の患者が多い。更年期とは閉経前後の約10年間を指し、女性ホルモンの急降下によってさまざまな不調が現れる。広告などで「イライラして汗をかく」といったイメージが広まっているが、症状は千差万別だ。
「じつは200~300もの症状があるので、まず患者の生活をよく聞くようにしています。更年期には仕事や育児、介護など負担が多いのに、男女賃金格差も埋まらないまま高齢出産も増えて、昨今はより厳しい状況。しかも女性医療の遅れにより医師が『更年期は病気じゃない』という昔の意識でいるので、抱え込んでしまう人が多いんです」
女性医療とは月経やホルモンの変動、生活の変化など、個人に即したきめ細かな医療のことで、日本に導入されてまだ10年ほど。吉野さんは親身なカウンセリングにより、軽視されがちな更年期の治療を進めてきた。 「深刻な悩みがある場合はカウンセリングを勧めます。例えば更年期症状が出る方にはDV被害がある人もいて、本人が被害を認識していない例が多いので、注意深く聞く必要があります」
理想は、初潮がきたら婦人科でかかりつけ医をもち、長い目で見ていくこと。さらに低用量ピルを飲めば、月経や排卵をコントロールでき、不妊症、更年期症候群の予防にもなりうる。ただ、認可されて20年ほど経つ低用量ピルの普及率はさほど高くない。性教育が遅れているためだ。ネット処方で買えるようになったが、性教育不足によるリスクも見られるので、吉野さんは「まずは正しい知識を」と警鐘を鳴らしている。
性教育の不備やジェンダーバイアスに苦しめられているのは若い世代も同じだ。大学で保健相談を担当してきた吉野さんは、十数年前にトランスジェンダーの男子学生と出会い、その根深さを痛感している。学生は、乳房を切除し、子宮・卵巣の摘出手術をするか迷っている段階だった。
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