(c)落合由利子
故・蜷川幸雄が芸術監督となって立ち上げた高齢者の演劇集団「さいたまゴールド・シアター」を中心に、高齢化社会の公共劇場の在り方を示して注目されてきた彩の国さいたま芸術劇場。昨秋から大規模改修のため休館中だが、2024年3月、新たな方向に舵を切って再開するという。その準備に追われる請川幸子さんに聞いた。
そもそも蜷川はなぜ、ゴールド・シアターを構想したのか。 「プロの俳優ではなく、普通の生活者である高齢者が蓄えてきた経験や感情を引き出す演劇を作りたい、成功したらこれまでの自分の仕事を打ち壊すことになるかもしれない、それくらい革新的なことだ、と語られていました。みなさんセリフが覚えられず苦労もされましたが、人生の深みが自ずとにじみ出る。蜷川氏もそれを引き出すことに長けていましたね」
海外にも招かれ、しばしばプロとみなされた。「それだけに指導は厳しかったです。灰皿は飛びませんでしたけど(笑)。高齢者の芸術活動で手厚いプログラムのある英国の劇場でも、蜷川氏のように趣味の域を越えて高い芸術性を体現する実践はなく、非常に驚かれました」
しかし15年を経て平均年齢は82歳。コロナ禍で外出しなくなると気力も体力も一気に衰えて集団としてのもの作りは難しく、21年、活動を終えた。 コロナ禍は一方で新たな可能性も開いた。今もオンラインで継続中のパーキンソン患者のためのダンス・プログラムだ。
「もとは米ニューヨークの著名なダンスカンパニーが、患者団体に依頼されて作ったプログラムです。19年に同カンパニーを招いて講演や研修を実施した後、研修を積んだスターダンサーズ・バレエ団から講師を迎え、対面で始めましたが、すぐにオンラインに移行。社会から孤立しがちな患者さんが在宅で仲間と繋がれたうえ、全国から参加が可能になり、オンラインの効用を実感しています」
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