(c)落合由利子
ロシアには国立の博物館や図書館、劇場などの文化施設が多い。そこでは国家の意向が反映され、末端で働く非正規雇用の女性たちの生活は不安定だ。高柳聡子さんが2月に翻訳出版する『女の子たちと公的機関(仮)』(エトセトラブックス)は、そんな女性たちが「目覚めて」いく様子を描いた小説だ。 原著の出版は2021年。詩人で活動家の著者ダリア・セレンコの経験をもとに、プーチン政権下の社会的抑圧をシニカルに映し出していく。著者の姿勢はタイトルの「女の子」という言葉にも表されている。
「女性がひとりの人間として扱われないという意味を込めたのだと思います。登場するのは大人の女性たちで、定年退職前の人やレズビアンなどさまざまなのに、『女の子』とひとかたまりで扱われる。職場のコマとして都合よく異動させられ、解雇され、セクハラをされる。そんななかで国家のおかしさに気づいて巣立っていくという、フェミニスト誕生物語なんです」
ロシア語圏の文学界ではこの10年ほどで「フェミニズム詩」が開花したという。盛り立て役は20~30代の若いフェミニストで、セレンコもそのひとり。高柳さんがその流れを追ううちに、LGBTQに対する弾圧や刑法改定によるDV被害の深刻化など、国家による暴力の強化も見えてきた。
「ロシアでは母親が父親に殴られるのを見て育つ女性も多く、セレンコらは疑問や怒りを抱えてきました。ロシア詩の伝統に登場するのは献身的な美しい女性や貴族の女性、才能のあるミューズばかり。自分たちのお母さんもうちのキッチンも出てこない。誰も書かないなら私が書く―という流れです」 セレンコは22年の開戦2日目には「フェミニスト反戦レジスタンス」を立ち上げ、ウクライナからの避難民の支援などを続けている。ロシアが軍事攻撃を始めた14年から反戦活動を始めたことが、フットワークの軽さにつながった。その危機感は、日本の読者へのメッセージとして同書にも綴られている。
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