(c)谷口紀子
「さめちゃん、さめちゃん!」北野真由美さんは、子どもたちからそう呼ばれている。 「サメは、じっとしてたら死んでしまう。動き続けないとアカンのや」。それがニックネームの由来だ。その名の通りいつも活動的に動き回っていて、なかなか捕まらない。子どもの権利や女性のエンパワメントをテーマに、ファシリテーターとして全国各地を飛び回っている。
人生には、何度かの転機が訪れる。北野真由美さんにとって、最初の転機は30歳前後にやってきた。 24歳で結婚し、25歳で長女を出産。サラリーマンの夫とは程よい距離で、専業主婦として申し分のない毎日。さぁ次は男の子ね、という周りの声に多少疑問は感じながらも、第2子の妊娠。しかしなぜか次の妊娠はうまくいかずに死産流産を繰り返す。失意のどん底で、病室でめそめそと泣いてばかりいた時、同室の女性の一言が胸に突き刺さる。「あなたには1人いるじゃないの! 子どもに泣いた顔ばかり見せてどうするの!」 「頭をガーンと殴られたような気がした。自分は上の子のこと、ちっとも見ていなかった。いったい私は、何をしてるんや、と思ったんよ」
もう、どうとでもなれ、と開き直ったら2人目が生まれた。出産の前日に自身の父親が倒れ、葬式にも出られなかったが、そのことをとやかく言う周囲に対して以前の自分ではない。 「それまでは、周りの声も気になっていたし、つねに清く正しく美しく、て感じで、自分をよく見せようとしてたと思う」
立ち止まってよく見てみたら、違った風景が見えてきた。たとえば、義母はバリバリのキャリアウーマン。義父は自分でお弁当を作るまめな人。自身の家庭では考えられない夫婦関係を見て、固かった頭がほぐれていくのを感じた。父親が亡くなったあと、母親の着る服がどんどんカラフルになっていったのも、考えを変えるきっかけになった。この社会で女性が自分らしく生きる意味、女性が自身をエンパワメントする力を知った。やりたいことは全部やりたい、と思うようになった。
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